第4話 新たな仲間と瞬平の憂鬱
メヴィとクロノが転移した先は、瞬平たちのいる大陸のとある森の中。
「さて、話をしようか!」
切り出すメヴィ。
「単刀直入に言うよ、キミ、魔王に復讐したいんじゃない?」
「ッ!」
メヴィの言葉で顔色が変わるクロノ。
「ワタシの探りでは、キミの家族は魔族に殺され、故郷の星も滅ぼされている、
生き残ったキミは魔王の血によって魔族にされ、意思とは関係なく命令に従わされている…、違うかな?」
「ああそのとおりだ、だがなぜお前がそれを知っている?、お前は一体何者だ?」
「ワタシはメヴィ、今は「すべてを知る者」とだけ言っておくよ」
「わかった、「今」はそれで納得しておこう、だがそれでオレになんの用事だ?」
「話が早くて助かるよ、…キミにはこれからワタシを手伝ってもらいたくてね、そしてそれは結果的にキミの復讐にも繋がる、悪くない話だよね?、どうかな?」
「フンッ、確かに悪くはない申し出だか、具体的にオレは何を手伝えばいいんだ?、言っておくが、オレは魔王の血の呪縛によって魔族や魔王には手出しできない、つまり復讐など叶わない願いということだ」
無表情で語るクロノに対し、メヴィは笑顔をみせ、
「それなんだけど、さっきその呪いというやつを消しておいたよ?、魔将の能力はそのままにね!」
「なにっ!」
クロノの脳裏に転移前のメヴィの行動が思い浮かび、
「さっきのあれか?!」
「そういうこと!、ちょうどこちらに向かって来ている魔族が1体いるから試してみるといいよ?」
「ちょうどだと?、…それを狙ってここに移動したのか?…」
「あはは、さーてね?」
睨むクロノに笑って誤魔化すメヴィであった。
クロノは周囲の気配を探り、方向が定まったところで、尋常ならざるスピードで走り出し、
「いたな!」
正面に魔族を捉えたクロノ、相手がクロノを視界に捉えた時にはもうすでに遅く、クロノの両手に握られた2本のショートソードが魔族を瞬時に細切れにしていたのだった。
「本当に殺れた…」
そこへ背後から拍手の音が響き、クロノが振り返ると、笑顔のメヴィが立っていた。
「いつの間に!」
驚くクロノを尻目に、
「さすがだねぇ!それでもまだまだ本気を出していないみたいだし、魔将最弱というのはフェイクかな?」
覗き込むようにクロノをみつめるメヴィ。
「どうせお見通しなんだろ?、だがこれで足枷がなくなった、アンタへの恩を返す意味でも先ほどの申し出を受けよう」
「フフッ、それは助かるよ、…さて、手伝いの話だけど、スバリ!魔族の排除をお願いするよ!」
メヴィは右手の人差し指を立てながらそう言った。
「フッ、それはこちらとしても願ってもない話だな、となると、この星に来ている残りの血族6匹を片付ければいいのか?」
「いやそれなんだけど…、残りは3体だよ!、少し前に2体、キミが1体、それとほぼ同時にもう1体が消えてるからね」
「な!アンタが殺ったのか?」
「いやいや、ワタシ自身は「まだ」手を出していないよ、…やってくれたのはワタシが声を掛けた協力者たち」
それを聞いて驚くクロノ。
「この星に魔族を倒せるヤツがいるとは驚きだな」
「そお?、この星に来ている魔族はまだ生まれたてでそれほど力はないみたいだし、この星にはけっこう強い子たちがいるし、それにワタシが選んだ協力者たちもね!」
クロノは少し考え込んだあと、
「なるほど、となれば魔王は必ず増援を送り込んでくるはずだ、間違いなく今回以上の猛者たちを…、そしてその中には間違いなく魔将も…」
「うん、そのようだね、魔将が3体に血族が20体、約10日後にはこの星に送られてくるようだね」
「そこまで見通せるのか!?」
「ちなみに、キミが危惧している一桁の魔将は来ないから、安心していいよ」
「アンタと話していると魔王以上に恐ろしく感じてくる」
「フフッ、褒め言葉として受け取っておくよ!」
「となるとこれから行動は、残りの血族の始末と、増援への備え、といったところか?」
「そうだね、でもその前に、キミに紹介したい子たちがいるから、まずはその子たちのところに案内しようかな」
「さっき言っていた協力者か?」
「うん、そういうこと!、それじゃあ行こうか!」
メヴィはクロノを連れ、その場を飛び立ったのだった。
クロノが「試し」で血族を倒そうという時、シュトラール王国西のとある場所では、巨大なドラゴンが血族と対峙していたが、それは一方的な展開で勝敗が決していた。
血族はドラゴンに傷ひとつ付ける間もなく、問答無用の炎の息(ファイヤーブレス)で灰と化していたのだった。
このドラゴン、実はメヴィ、デイジーとは面識がある。
それは遡ること数日前、シュトラール王国西方に面するノガルド山脈、その麓でドラゴンの目撃情報が入ったため、国王が七つある騎士団のうち、第二、第三、第五の三つの騎士団をその情報確認と、危険と判断した場合の討伐、これらの名目で派遣したのだ。
現場へ最初に到着したのは、ちょうど近くを巡回していたデイジー率いる第三騎士団であった。
「やはり情報は確かだったか…」
平原で横たわるドラゴンを発見する馬上のデイジー、その大きさのため、かなり離れた位置からでも確認は容易かった。
「大きいですね、それに伝説に聞く姿とも一致します」
隣からデイジーに話し掛ける副団長・クリシュナ。
「確か、ノガルド山脈に古より住み着いているという伝説だったか?」
「ええ、私は山脈から一番近い街の出身ですが、子供のころよく聞かされたものです、…山脈の西側、この大陸の西端に位置する国・ドラゴニア王国の守り神で、山脈に棲み、悪意ある者がドラゴニアに侵入しようとすれば裁きの炎で焼き尽くす、と」
「うむ、その伝説がなぜ山から下りてきたかだな、実際、ノガルド山脈の険しさは尋常ではない、人が越えるのはほぼ不可能、故にシュトラールとドラゴニアに国交がないわけしな、…悪意ある者とやらがドラゴニアに入り込むというのは考えにくいが…」
「そうでしたね、でも、帝国や共和国など海に面した国は、海路による貿易が行われているらしいです」
「うむ、それは私も聞いたな、ドラゴニアは海と山に囲まれていて資源が豊富らしいからな、私も一度は行ってみたい国だが、騎士団長として国を離れるわけにもいかないからな」
「お気持ちお察しします…」
「さて、他の団が到着するまでまだ時間が掛かしそうだ、クリシュナ、それまで団員たちに休息と食事を取らせてやってくれ」
「了解です!デイジー様」
それから3時間ほどが経った昼過ぎ、第二、第五騎士団が揃って到着。
「よう!デイジー、待たせたな!」
彼は第二騎士団団長・ギルバート・デッケル、大斧を背負った2m超の巨漢である。
「フンッ、平民出の小娘が1番乗りとはな」
到着早々デイジーを睨みつけ悪態を吐くこの男は、第五騎士団団長・イグリス・クレイドールである。
彼の悪態をデイジーは意にも介さず、
「先輩にイグリス殿、お待ちしておりました、…お二人とも、まずはあちらをご覧ください」
デイジーははるか遠くのドラゴンを指し示す。
「おう!あれがドラゴンか、さすがにでかいな」
「フンッ、あんなトカゲの化け物、我が第五騎士団にかかれば造作もなかろう、さっさと片付けて帰還するぞ!平民ども」
「まったく、お貴族さまはせっかちでいけねえな~」
「イグリス殿、まずは話し合いましょう、あのドラゴンが王国にとって脅威になるかはまだわかりません、伝説ではドラゴンの怒りに触れた国が、一夜で滅ぼされたという話もあります、ここは慎重にいきましょう」
デイジーは冷静に話し合いを求めるが、イグリスは彼女を見下すように睨みつけ、
「騎士団長に昇格して1年足らずの小娘には荷が重い任務だったかな?」
「おいおい、デイジーは俺たちより若い歳で騎士団長になったんだぜ?、それってデイジーが有能な証だろうがっ!、他の騎士団長たちもデイジーには一目置いてるんだぜ?、…それに俺もドラゴンに関してはデイジーと同意見だ、敵がどうかもわからねえ相手に攻撃を仕掛けて、返り討ちになるなんて真っ平御免だぜ、知ってのとおり俺には妻と娘がいるんでな、早死にするつもりはないぜ!」
「フンッ、腰抜けの平民は黙っていてもらおうか!」
イグリスはギルバートをも見下し睨みつけるが、
「イグリス殿、そこまでにしてもらおうか、私のことはなんと言われてもかまわないが、先輩のことを悪く言うのはやめていただきたい!」
デイジーの鋭い眼光がイグリスを射抜くと、彼は怯みながら、
「チッ!、《紅の戦乙女(ワルキューレ)》と称され国民にチヤホヤされ、姫様のお気に入りだからと言って、いい気になるなよ!、ともかく、ドラゴン討伐は我が第五騎士団に任せてもらおう、平民どもは黙ってみているがいい!」
そう言うとイグリスは、団を率いドラゴンに向かいゆっくりと前進するのだった。
「全く困ったお貴族さまだね~」
「先輩、呑気なことを言っている場合ではありません、このままではどうなることか…」
「といってもなぁ、アイツが平民の言うことを素直に聞くわけもねえし、…そうだな、デイジー、戦闘準備だけはしておけ、ドラゴンが反撃に出れば、団にどれだけの犠牲者が出るかもわからねえ、なるべく俺たちが前に出るぞ!」
「わかりました先輩!、ですが無理はしないでくださいね?
、先輩には奥様とアイリスちゃんがいるのですから!」
「ナマ言ってんじゃねえ、お前にだって姉のように慕ってくれる姫様がいるんだ、絶対に悲しませるんじゃねえぞ?」
「言われるまでもありません!、それでは行きましょうか、先輩!」
そうして二人はそれぞれの団を率い、イグリスを追うのだった。
そのころイグリスの団はドラゴンを一定の距離で包囲し、団員たちは一斉に弓を引き、ドラゴンに狙いを定めていた。
「このトカゲがっ!さっさとくたばるがいい!」
イグリスが右手を挙げ、勢いよく振り下ろす。
「総員、討てーっ!」
その合図で団員たちがドラゴンめがけて矢を放った。
だがその時、ドラゴンの直上に何者かが突然現れ、飛来した矢はすべて、みえない壁に当たったかのように失速し地面へと落下するだけであった。
その不思議な現象を目の当たりにし、イグリスたちが呆然としている最中、空中に現れたその何者かが騎士団に語り掛けてくる。
「キミたち、危ないところだったね、ワタシが止めなかったらキミたち全員灰になってたよ?」
そこで我に返ったイグリスが、
「なんだ?オマエは!、ドラゴンに続いて忌々しい!、総員アイツもいっしょに撃ち落としてしまえーっ!」
「キミ、うるさいよ」
そう言い、その者がイグリスに流し目を送ると、
「ッ!」
イグリスは蛇に睨まれた蛙のように固まり、馬上で失神してしまったのだった。
そしてその威圧に反応したかのようにドラゴンが巨体を起こし翼を広げ周囲を威嚇する。
その翼が起こした凄まじい風圧が団員たちを襲った。
「団長がやられたぞ!総員退避ーっ!」
団員たちは恐れ戦き、逃げ出していったのだった。
そこへ到着したデイジーとギルバート。
「おいおい、団長を放置して逃げるなよ」
ギルバートが失神しているイグリスを哀れみの目でみつめながら言い。
「クリシュナ、イグリス殿を後方へ!」
デイジーが部下へ指示を出すと、数人の団員でイグリスを馬ごと後方へと下がらせたのだった。
「しかしこれは一体…」
デイジーの目の前では、ドラゴンと、その鼻先で浮遊する少女の姿があった。
少女とドラゴンがしばらく、何か通じ合うようにみつめ合うと、ドラゴンは大人しくなり、山脈へと飛び去っていったのだった。
残された少女は視線をデイジーたちに向けると、ゆっくりとデイジーたちの元へと降りてくる。
「やあ、キミたち危なかったねぇ、あの子は敵じゃないから、虐めないであげてよね?」
少女がドラゴンの飛び去ったほうに視線を向けそう言った。
「いや~、さすがに命拾いしたぜ、あんがとよ嬢ちゃん、それにしてもキレイな嬢ちゃんだな~、デイジーにも負けてないんじゃねえか?」
少女を舐めるようにみるギルバート。
「先輩っ!なにを呑気なことを、奥様に言いつけますよ?」
「いやそれだけは勘弁してくれ、かみさんに殺されちまう!」
そう言いながら頭を掻くギルバート。
「すまない、先輩のせいで話が逸れてしまった、君に話が聞きたいのだが、君の素性、ドラゴンとの関係を教えてくれないだろうか?」
少女に向き直り、話を戻すデイジー。
「うん、すべてを教えるわけにはいかないけど、教えられる範囲でよければ教えてあげるよ」
「ああ、それでかまわない、よろしく頼む!」
「まず、ワタシはメヴィ、「メヴィ・スゥ」、この世界を守る手伝いをするために遥か遠くから来たんだ、
そしてあのドラゴンとは初対面、ちょっと話をして、今は退いてもらった、
どうやら彼女がここにいた理由が、これからワタシがキミたちに話すことと関係あるようだね」
「う~ん、さっぱり話がみえん、もっとわかりやすく話してくれないか?」
ギルバートは右手を顎に当てながら聞き返すが、デイジーがそれを遮るように、
「その前に…、君は魔女なのか?、宙に浮かんだり、ドラゴンと意思疎通できたりと普通の人間ではないようだが?」
「残念ながら、ワタシは魔女ではないよ、魔女なら…、まあそれはさておき本題に戻そう、わかりやすく話してほしいんだったね?、…近いうちに、キミたちの世界に魔界から魔族が侵攻してくる、…魔族、特に魔王や魔将はキミたちの手に負える相手じゃない、どう足掻いても勝てる相手じゃない、…そこでワタシが少~しだけ手を貸すことにしたんだ、まあ放って置けない理由もあるしね」
「うむ、にわかには信じられない話だが…」
デイジーがメヴィを探るようにみつめる。
「ああ、俺もそう思うが、この嬢ちゃんの言っていることを信じずにはいられない妙な感覚が湧いてくるんだよな~」
「先輩もですか?、実は私もなんです」
デイジーとギルバートが顔を見合わせた。
「そしてドラゴンのほうだけど…、魔界とこの世界はまったく別の空間にあって、本来なら絶対に交わることのない二つの世界が、魔族の長である魔王の能力によって空間同士が限定的に交わる、でも、魔王の能力で空間接続するにも時間がかかるらしくてね、あのドラゴンがいた場所、あそこにひとつ、微かな空間の歪みができはじめているんだ、…あの子(ドラゴン)はその歪みから漏れ出る瘴気に気付いて、そばで警戒していたということらしい、…彼女も彼女なりにこの世界を守ろうとしているようだね」
「あのドラゴンがそんなことを?…、それに《魔族》と言ったか、ドラゴンに続き、また伝説の存在が出てくるとはな」
デイジーが怪訝な顔で言うと、
「言っておくけど、キミたちのいう魔族とワタシの言っている魔族は別物だよ、キミたちの間で語られている魔族は、この星(せかい)に元から暮らしている魔法に長けた人間族のことで、今もこの星のある場所で生き続けている」
「そう・・・なのか?」
ギルバートが驚きの表情で聞き返すと、
「うん、けど彼らも魔女と同様「今は」気にしなくていいよ、でもそのうち…、今はワタシの言う魔族について、そして魔族に対抗するための助っ人について話しておこうかな」
・・・・・・
「へ~、デイジーちゃんとメヴィちゃんの出会いってそんな感じだったんだね~」
瞬平たちが借りた宿の一室では、料理の置かれたテーブルを、瞬平、刹那、デイジーで囲んで話をしていた。
「ああ、魔族の話に関しては瞬平たちが聞いた内容と大体同じようだな」
「しっかし、メヴィのやつ、俺たちと会うより前にデイジーに俺たちのことを話していたとか用意周到すぎだろ…、しかも助っ人のはずの俺がやられっぱなしでマジ恥ずかしいんだけどぉ?」
瞬平が拗ねたように愚痴ると、
「きっとだいじょ~ぶ、瞬ちゃんは強くなるよ!、メヴィちゃんが言ってたよね?、際限なく成長するって!」
刹那が励ましの声を掛けた。
「だといいんだけどな…」
「今思い返すと、ドラゴン騒ぎで三つの騎士団が王都から離れて間もなくだったな、帝国が侵攻を開始したのは…」
デイジーがふと口を開き、そんなことを言った。
「タイミングよすぎるね、それも魔族の仕業とか?」
思ったことを口にした刹那。
「いや、メヴィ殿の口ぶりだと、あの時点で魔族が来ていたとは思えない、…だが、今まで王国と友好関係にあった帝国が突如牙を剥いてくるというのも不自然すぎる…」
「仲のいい国だったんだね、なんでだろうね、モグモグ」
刹那が料理を口に入れながら話す。
「モグモグ、さっき瘴気が漏れ出す話があったよな?、それはどうだ?アニメなんかじゃそういうので闇堕ちするとかよくあるけど」
瞬平も食べながら思いつきを口にすると、
「すまないがアニメとはなんだ?」
「俺たちのいた世界の文化だから気にしないでくれ」
「そうか、だが瘴気が関係しているというのは、あながち間違いではないかもしれない」
「デイジーちゃん、なにか心当たりでも?」
「ああ、イグリス殿さ、彼は普段から平民を目の敵にする節はあったが、あの時はさらに攻撃的な態度だった、あれの原因が瘴気だとしたら…」
「それ正解だよ!」
デイジーの疑問に答えるように部屋のドア越しに声が聞こえ、3人が一斉にドアへと視線を向けた。
「この声って…」
刹那が即座に声の主に気付くと同時に、そのドアはゆっくりと開いていき、声の主が顔を覗かせたのだった。
「やっぱり、メヴィちゃんだっ!」
刹那が一目散にメヴィに駆け寄ると、有無を言わさず抱きつき、
「メヴィちゃんのバカッ!、私たちのことほったらかしにして、すごく怖い目にあったんだからねっ!」
刹那はメヴィに抱きついたまま泣き出す。
「刹那!?、ごめんごめん、でもキミたちなら大丈夫だってわかっていたからね」
メヴィはそう言いながら刹那の頭を撫でてやる。
そこへ不機嫌そうな表情の瞬平が口を開く、
「なにが「大丈夫」だよ!、こっちは二度も死にそうな目にあってんだぞ!?」
その言葉に、メヴィは瞬平をみつめ、
「でも、その二度ともキミは死ななかっただろう?、そしてデイジーが魔族を倒して、大事には至っていない」
メヴィの言葉に、ハッとする3人。
「なにを、みていたようなことを!」
興奮気味の瞬平。
「うん、みていた、いや知っていたからね、キミたちが「最悪」を迎えることはないってね」
「クッ!」
瞬平は悔しげにそっぽを向く。
そんな瞬平と刹那を交互にみながらメヴィは、
「それにキミたち、かなり成長してるじゃない、まだここに来てから1日も経ってないのに」
その言葉に瞬平がメヴィを向き直り、
「そうなのか?」
「うん、それでもまだまだだけどね」
そこへ、ひとりの青年が部屋の入り口に姿を現し、
「入らせてもらうぞ」
彼は返事も待たずに部屋へ入ってきたのだった。
彼は黒いコートを身に纏い、詰襟で口元を隠し、眼光は鋭く、髪は紫色、腰の左右に2本の短剣を携えていた。
それに気付いた刹那がメヴィから離れ後ろに下がり、瞬平とデイジーはすぐさま立ち上がりそれぞれ身構える。
「おっと、彼は敵じゃないよ、実はワタシの連れでね」
メヴィが瞬平たちを制しながら告げた。
「紹介するね、彼は「元」魔将の「クロノ」だよ、勧誘して連れてきたから仲良くしてあげてね!」
「いや、魔将を勧誘って…」
呆気に取られる瞬平。
対して、デイジーは冷静に、
「メヴィ殿の話では、魔将とは上位魔族で、魔族は人間などを食らうということだったな?、それでは彼も?」
デイジーの言葉に刹那が、
「それ、ないと思うよ、クロノくんからそんな感じしないもん」
刹那はクロノに歩み寄り右手を差し出すと、
「よろしくね!クロノくん!」
「ああ、こちらこそ」
クロノはその手を握り返したのだった。
「いや~、流石だね刹那!、思ったとおり成長が早い!」
そう言いながらメヴィが刹那の肩に手を置いた。
「え?」
ワケが分からないといった感じの刹那にメヴィは、
「キミが身に付けた能力は、治療術だけじゃないってこと!」
「ホントに?」
その言葉に頷き返すメヴィ。
その後、それぞれが自己紹介をし、5人でテーブルを囲むと、
「デイジーちゃんさっきから料理に手をつけてないよね?、さあ食べて食べて!、メヴィちゃんとクロノくんもどうぞ!、おじさんの計らいでたくさん作ったから、遠慮しないで食べてね!」
刹那が楽しそうに料理を勧めると、
「では遠慮なく…」
3人が料理を口に運んだ。
「旨いなこれは!刹那が作ったのか?」
幸せそうな表情でデイジーが尋ねる。
「うん、食べるのが好きでよく料理もするんだ~」
一方で、料理を食べていたクロノが涙を流していた。
「え!クロノくん?おいしくなかった?!」
慌てる刹那にクロノは、
「いや、そうじゃないんだ、こんな旨いものを食べたのは久しぶりだったからな、つい昔を思い出しただけだ」
「刹那、クロノは途方もない時間を魔族として生きてきたんだ、料理を食べたのは家族との食事が最後だったんだ」
メヴィがそう説明すると、
「そう…なの?…ごめんなさい、なにも知らずにはしゃいじゃって…」
刹那が涙を流しながら謝ると、
「キミが謝ることじゃない、むしろこんな旨いものを食わせてもらって本当に感謝している、ありがとう刹那」
「クロノ殿、私もすまなかった、先入観だけで疑ってしまって、貴方がそんな過酷な状況に置かれていたことも知らずに…」
デイジーは頭を下げた。
「気にしないでくれ、疑われても仕方のない状況だからな」
「ワタシは、ここにいる全員、信頼できる者たちだとわかっているからこそ選んだんだ、ここはワタシを信じて、みんなで協力してくれると嬉しいかな」
メヴィが真剣な表情でそう言うと、
「マジメな顔でなにを言うかと思えば…、これまでの話や出来事でメヴィはもちろん、デイジーにクロノも信頼できる「人間」だと確信が持てたよ、な?刹那!」
「うん!まったくだよ」
「とはいえ、俺はよわよわだからどこまで手伝えるかわからないけどな」
そんな卑屈で頼りない瞬平のセリフに、
「瞬平、ワタシが授けた力を舐めてもらっちゃ困るよ?、後でそれを証明してあげるよ!」
メヴィは瞬平にウインクをしてみせたのだった。
「私はこの国、いや、この世界を守るために皆が協力してくれるなら願ってもない話だ、改めてよろしく頼む!」
デイジーが全員の顔を見回し、頭を下げる。
「オレはメヴィ、アンタに恩があるからな、それを返し、そして自分の復讐も果たす、今はそれだけだ」
クロノはメヴィに視線を向けるとそう告げた。
「さてと、それぞれのこともわかっただろうから、これからの話をしようか…と、
その前に瘴気の話があったね?」
メヴィはそう言うと、デイジーに目を向けた。
「ああ、瘴気の影響がどんなものか知りたい、教えてくれないか?メヴィ殿」
「そうだね、瘴気の影響を受けている者も少なからずいるから、ここは教えておいたほうがいいかもね…、まあクロノは当然知っているとして、他のみんなも大体想像は付いていると思うけど、瘴気は負の感情を増幅させる効果があるんだ、…負の部分が小さい者には特に影響は出ないけど、嫉妬や憎悪、強い欲望を持つ者はそれらが増幅される可能性がある、…少し前にデイジーの同僚が僅かに影響が出ていたね、あの時はワタシがそれを抑えたけど、瘴気の影響を受けやすい人間であることに変わりはないから、今後も注意したほうがいいかもね」
「イグリス殿だな…、心に留めておくとしよう」
「ちなみに帝国の侵攻も瘴気が関係しているよ、キミたちにはちょっと厄介な人間たちが侵蝕されているみたいだね」
「やはりそうか、なにか瘴気への対処法はないだろうか?」
「そうだね~、瘴気の侵蝕具合にもよるけど、軽度なら正気から遠ざければ回復していくけど、侵蝕が重度の者の回復は厳しいかな、…まあ、ワタシか刹那がいれば話は別だけどね」
「ふぇ?私?」
刹那がキョトンとしながら自分を指差す。
「うん、瘴気の浄化は治療術の応用だと思ってくれればいいよ」
「なるほど~?」
刹那は返事をしたが、まだ理解が追いついていないようだった。
「メヴィ殿、魔族のことや瘴気のことなど、メヴィ殿から聞いたことを国王陛下に報告しても構わないだろうか?」
「それは全然構わないよ、ただし、ワタシのことは伏せておいてね!」
「ああ、心得た!」
「それじゃあクロノ、さっきワタシと話したことをこの子たちにも話してあげてくれない?」
「ああ…、オレは彼女の能力で魔将の力を持ちながら人間に戻った、…魔王との繋がりが消えたことで魔王には死んだと思われているはずだ、そこでそれを逆に利用することにした、死んだことにしておけばオレは動きやすくなるからな、それと、彼女の話ではオレの倒した1匹を含め4匹の血族が消えたそうだが…」
「それなら私が2体倒した、残りは…わからないが…」
そう言うと考え込むデイジー。
「それなら、デイジーが前に会ったドラゴンが1体倒してくれたよ」
メヴィが補足する。
「あのドラゴンがか?」
その問いにメヴィが頷いた。
「話を続けるぞ?」
「ああすまない、話の腰を折ってしまったな、続けてくれ」
「送り込んだ魔族が一気に減ったことで、魔王が増援を送り込んでくる、こちらへの転移は約10日後、数は今回の約3倍だ」
続けてメヴィが口を開く、
「そこでキミたちにはこれからワタシの言うとおりに動いてほしいんだけど、いいかな?」
メヴィの言葉に4人が同時に頷いた。
「まずはクロノ、キミは残りの血族の排除をお願い!
場所は北の帝国との国境付近、残りの3体そこに集まりつつある、人間がそこにたくさん集まっているからそこを目指しているようだね」
それを聞いたデイジーが、
「国境か…、侵攻してきた帝国軍をなんとか押し返して、国境で膠着状態のはずだ、国境付近には両軍の兵がかなりの数集結しているだろうな…、そうだ!私も団を率いて国境に向かうつもりなのだが、クロノ殿を国境まで案内するというのはどうだろう?」
「気遣いはありがたいが、オレは1人のほうが速く動ける、そちらは帝国への対応に集中するといい」
「彼の言うとおり、デイジーは帝国への対応、ただし、ある日時にある場所へ刹那と一緒に向かってほしいんだ」
「私は構わない、帝国との戦況次第だが」
「え!でも私も?」
刹那は自分の名前が出たことに驚き聞き返す。
「うん、デイジーの助手としてね、キミの能力で助けてあげてほしい人間がいるんだ、お願いできるかな?」
「そういうことなら手伝うよ!、デイジーちゃんよろしくね!」
「ああ、こちらこそだ!」
「でもメヴィちゃん、瞬ちゃんは私たちといっしょじゃないの?」
「うん、今回瞬平は別行動だよ、瞬平はワタシに付いて、いろいろと強くなってもらうからね!」
「なっ!みんなが大変なときに俺だけ別かよ?!」
乗り出し反論する瞬平。
「だからこそ、だよ、キミに強くなってもらわないとこの先厳しくなるからね、
幸い10日も期間があることだしね」
「たった10日でなにができるんだよ!?」
まだ納得いかない瞬平。
「それは10日後のお楽しみ!、そうだな~、場所はここから南東にある森林地帯を使おうかな」
「メヴィ殿、もしかしてエソナ大森林のことを言っているのか!?」
デイジーが慌てて割って入ると、
「うん、なにか問題でもある?」
メヴィは至って冷静に返した。
「いや、あそこは人間が入るにはかなり危険な場所だ、獰猛な獣だけではなく、モンスターの類もいると聞く、…彼らにみつかればただでは済まないだろう」
刹那も慌てて、
「メヴィちゃんっ!そんなところに瞬ちゃんを連れてっちゃダメだよ~!」
「落ち着けよ刹那!、…メヴィ、本当に俺強くなれるんだよな?」
「うん、もちろん!」
「わかった、俺そこにいくよ!、刹那は待っててくれ、必ず強くなって戻るから!」
「瞬ちゃん……、わかったよ、瞬ちゃんがそこまで言うなら、…私待ってる!、だから絶対に帰ってきてね!」
「ああ、約束だ!」
瞬平は力強く頷いたのだった。
「それじゃあ、もう遅いし、今日は休んで明日に備えようか?」
「すまないメヴィ殿、私は今日中に王都に戻ろうと思う、陛下への報告と、魔族の骸を持ち帰るつもりだ」
「それは構わないけど…」
そう言いながらメヴィがクロノをみると、クロノが口を開き、
「死体は血族のか?」
「そうだ、昼間この村を襲ったヤツだが…」
「残念だが血族は死んでしばらくすると溶けて蒸発する、おそらくもう消えているはずだ」
「そうなのか!?、となると魔族の調査は諦めるしかないか…、いずれにせよ私は王都へ戻り、明日には帝国との国境へ向かうつもりだ、メヴィ殿、例の日時と場所を教えてくれないか?」
「うん、それなら…」
メヴィがデイジーと刹那にそれを教えると、デイジーが、
「さて、私はもう出発するが、刹那、約束の日に迎えにくる、その時はよろしく頼む!」
「うん、またねデイジーちゃん!」
みんなが見送る中、デイジーはシンク村を後にしたのだった。
ちなみに、デイジーが出発前に倒した魔族を調べたところ、クロノの言うとおり血族の死体は跡形もなく消えていたのだった。
デイジーがいなくなった後、メヴィは、用事があると言って姿を消し、残った3人は改めてロナルドに部屋をそれぞれ用意してもらい、瞬平と同じ部屋がいいと駄々をこねる刹那をなんとか説得し、3人はそれぞれの部屋で眠りに就いたのだった。
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