佐倉美佳 4月
椎名と知り合ったのは入学式の時だった。
窓の外では校庭の桜並木が揺れ、穏やかな春風がその花弁を控えめに降らしていたのをよく覚えている。何となく選んだ高校でしかなかったけれど、それでも新生活が始まると考えるとその気持ちも格別だった。
改装されたばかりの真新しい香りのする体育館で、あたしたちはクラスごとに並び、出席番号順に整列していた。あたしの名字は
明確な出会いの瞬間の記憶は少しぼんやりとしていて、決して鮮烈なものではなかった。
話しかけてきたのは、たぶん椎名が先だったと思う。
最初に話しかけられた言葉は覚えていない。多分あたしの並んでいた列が何組かっていう列の確認とか、もしくは今日からよろしくね的な挨拶か。確かそんな感じの会話だったと思うけれど、そのときのはっきり記憶はない。ただし、初めて見たときには既に、割と綺麗な子だなだなんて思った記憶はある。
まだ真新しいうちの高校指定のブレザーに身を包んだ椎名の、ボブカットにしているあたしよりも更に短い髪を、開け放たれた窓から流れ込んでくる春風が揺らしていたのを覚えている。目から下には一切毛が生えていないんじゃないかと思うほどのつるりとした肌は日焼けしたような褐色で、あたしは最初、椎名はスポーツ少女なんじゃないかと思っていたほどだ。それなのに椎名の睫はくりくりとして長く、幼げな印象を与える大きな瞳を華やかに彩っていた。身長はあたしより頭一つ分小さいのもあって、ここが入学式の会場でなければ中学生に見間違えていたと思う。
なのでまぁ、先ほどあまり鮮烈ではないとは表現したものの、椎名は初対面からそれなりに印象的な奴であったことは否定できない。
とはいえ、逆に言えばあたしがこのとき椎名に対して抱いた感情といえばその程度だったのも事実で、決して劇的な出会いと呼べるものではなかったというのも間違ってはいないと思う。その時のあたしといえば中学が一緒だった
とりあえず名簿が隣だから、最低限の会話を交わしただけの関係。
そんなぬるっとした距離感が、椎名との出会いだった。
体育館の窓が開いているにも関わらず、桜の花びらはまだ、体育館には舞い込んできてはいなかった。
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