さざんが?ご!

 記憶が流れる。

 ──表の操作を変わった時点で雪崩込む。鮮明に、第三者視点の映像として。今から起こる出来事を、先に知ってしまった感覚。不思議だった。それを疑えなかった。

《僕はやっぱり、僕だったのか》

 ──未来の自分の行為が、疑えない。現実性を帯びていた。

「……どういうこと?」

 宙ぶらりんに浮く感覚、ハンモックで寝た気分に近いのかもしれない。これが、裏に回った

自分てめえも理解したか。簡単に言えば、新手のガランドウルに殺される未来を見た。まあ俺の能力とでも思っておけ」

 いきなりこんな話は信じられないのだろう、症子は訝しんでいる。

「……」

「そうだよなぁ!? 僕!?」

《あ、ああ。その通りだ。僕は僕の死ぬ未来を見た》

「じゃあ本当なんだね」

 いきなりこんな話を信じられてしまった。ふざけんなよ、なんなんだよこいつ?

「あのさあお前さあ……まあいいや、説教してる時間も勿体ねえ」

「新手のガランドウルはどんな力を持ってたの?」

《知らないうちに横にいた。妙に笑ってる女で……僕の身体が八つ裂きになって死んだ。裂かれるというより、爆発したみたいだったな……》

 それ以上に、バラバラ。肉も骨も内蔵も脳髄も全く散り散りに千々に万に弾けていた。

「……バラツキ、だと思う。妖怪側の、ガランドウル」

《妖怪側、って……おかしいだろ、それは。でも、僕が言えることでも、無いのか》

 お前もお前で頭がおかしいからな。

「バラツキ? 知ってんのか?」

「特徴も同じ、人側のガランドウルがやられてるの。ゆっくりと体を侵食して、バラバラにするの」

「あ? ちょっと待──────」

《誰か来るぞッ!》

 先の経験を踏まえて、警戒していた。屋上の出入口から、人が入ってくる。

「……ん? な、なんだ、三人で見つめやがって。知らねえ奴もいるし……」

 ──僕が親友と言える、僕を親友と言える唯一の人間、旋夏センカソウだった。

「ん、あ、あー、なんだっけ? 僕の、親友か」

「はぁ? 何言ってんだおま……あー、人外状態か。屋上の霊?」

《階段の霊》

「霊は大抵怪談だろ、ってなんだこの声……」

 あぁ、そうか。こいつは僕の姿が見えてないんだから分かんねえよな。

「は?」

 待て、僕が見えないのか? ならなんで三人……

「おま、冗談だろ? 三人って」

ココロ症子ショウコと、誰だ? 

 触感。

 手触り。

 同様の、感覚。

 デジャヴどころの話じゃない。

《間合いを取るな!! 反撃しろ俺!》

 すぐ側、至近距離、笑う女には殴りかかった。

「おっとっと、まさかだよね。漁夫の利狙ってたら未来を読むガランドウルってさ……言っとくけど、ずっと屋上にいたんだよ?」

 急激に、痛みが走る。全身の位置がズレている感覚。

「この女、殺すしかないッ!」

「来る? 来るよね、動くと痛むよ!」

「おっ!? なんか面白い状況?」

「手伝って!」

 しかし最弱と最弱。気づかずを進められていた俺は、全く動けない。目の前で蜘蛛の足の塊と、何かの動物の角か牙のようなものがぶつかり合う。

「単純な力は拮抗してるね〜? 能力はやっぱりそっちが上だろうけど……」

「私たちはなんであなたを認識できなかったの?」

「バラツキは不揃いにさせるんだよ?」

「空間か認識能力か……解釈が広すぎる」

 互いのガランドウル、か。その上で、話をする余裕もある。

「拮抗してたらまじぃだろ、俺がいんだぞバカ」

 ソウは地面を踏み締め、駆け出す。虎爪、というのだろうか。僕側の、教えてもらった記憶がある。右手をその形にして、首を狙う。


 ──待て、生身で行くつもりかコイツ!?

《おい馬鹿! 大馬鹿! 愚か者!!!!》

「いいね! 良くないけど、そんな

 刃物の塊が、その右手を塞ぐ。

「いってぇ! 二個目だと!?」

「ガランドウルは一人一個だよ」

 戦闘中のさっきの会話、バラツキの能力で能力者自身を見れなくなっていたのだろう。

 ──僕に能力を使いながら……なら、今を使いながら誰を隠している?

《俺! まだ居る! まだ居るんだよ! いや、今来たのか?》

「どっちでもいい! 何がいるんだよっ!」

《敵だ!》

 ──僕が魂状態で見ていることはバレている、ならバラツキの効果を受けているはず。どうやって見抜く!?

「……違う、違う。俺達には最弱で最強な能力があるだろ?」

 見抜く? 見抜く。確かにそうだ、普通ならそうだ。普通ならな。そうするべきだろうよ。見抜くべき。

「未来予知かな? でも今更」

「そんなもん持ってねえよ」

 柵に手をかけた。

 何度、自分が飛び降りるのを見ればいいんだろう。

 今回ばかりは本当の飛び降り。自殺が上手くいくとは思わないが、やるしかない。

 当たりどころが悪ければいいな!

《行くぞ!》

「応!」

 そう、決心した時だった。

 いや、もう地面から足が離れた時。


 ──────またか

 と、声が聞こえた。




 高い空、鼻から下の体が埋まった泥沼。特有の嫌な臭い。

 ただ、今はそれが、

 何よりも。

「戻った、な」

《……はあ? なんのこ……うわっなんだこの記憶はっ!?》

 さっきの僕と同じ様なリアクション。交代交代の時間逆行。僕の番だからなのか、時がこの心象にまで戻っている。

「勝手だけど、情報の整理をさせてもらうぞ」

 僕の心も(衷だけにという洒落は幾万と擦られたのでつい連想してしまう)もう少ししたら流れ込むはず。

「もうずっと前からあの女は横に居て、多分二人目の敵も……攻撃されたら防げる程には近い位置にいる」

 と、なると────学校はもう危険だな。

 言いつけを破ったソウが追いかけてくるから、こちらからも合流を図る。

《なーほどね、だいたい分かった》

「二人目らしき奴が、またか、と言った」

《それだよそれ、まるで俺たちのループを理解してる》

 ループ。その表現したのは、間違いではない。むしろ、正鵠を射ている。いやまあ、むしろトリプル。

「多分、そうなんだろ」

《つうか随分やる気だし、変わったなお前》

「僕の物語が、何度も何度も阻まれてる。当然の様に俺は無茶をするし、突然に襲撃イベントは起こるし、もううんざりだよ」

 まだ感動のかの字も見えない。ストーリーのスなんて一行飛ばさなきゃ行けない。

《そんじゃあどうする?》

「親友と邂逅したら、そのまま下校する。そもそも始まらないのは僕が無理矢理としてたからだ。症子に嘘をついて、僕はガランドウルとして巻き込まれる」

《どうしてそこまでして、お前は何を望んでいるんだ?》

 何を望んでいるのか。

 世界への絶望であり、独り善がりな希望。

「それを語るには、兄の話をする必要がある」

 オレにだって、あるんだぜ。

 唯一、反省している過去話。


 ココロとマコトの最後の日。

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ガランドウル! スンラ @Sunra

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