プロローグ2
私は生まれた瞬間から全てを手に入れていた。
日本三大財閥の一つである有栖川(ありすがわ)家に生まれ、有り余る富がある。
母似の容姿にも恵まれ、中学生離れした美貌がある。
頭脳明晰で成績は常に全国トップ。
運動神経も抜群でありとあらゆるスポーツ、武術にも精通している。
芸術的センスも抜群で、五歳の頃に書いた油絵に億単位の価値が付いた。
何不自由ない暮らし、全てにおいて勝利が約束された人生。
この世界は私の為にある。いや、あった。
つい最近、この世界は私のものではなくなった。
それも先週の出来事だ。
世界でもトップクラスの資産を持つ有栖川家の長女である私は、週一ペースで誘拐犯に襲われる。
普段ならボディーガードが返り討ちにするが、私が中学二年生の頃にかなり強い誘拐犯達が襲ってきた。
動きや装備からして元軍人か現役の部隊だと思う。
統率された無駄のない動きで私を守るボディーガードは瞬く間に射殺され、立ち尽くすだけで為す術の無い私が誘拐犯達の車に乗せられそうになった時、一人の少年が現れた。
少年は学ランを着ていたので、私と同じ中学生だと思う。
身長が高く、きっと歳は私と同じか少し年上ぐらいだ。
誘拐犯は目撃者である少年も一緒に連れて行こうとしたが、少年はその手を振りほどき誘拐犯達の乗っていた車を殴り飛ばした。
そう、何の比喩でもなく殴り『飛ばした』のだ。
少年の拳が衝突した衝撃で車のボンネットは象に踏み潰されたみたいに凹み、まるでスーパーボールのようにコンクリートの上を弾み、宙を舞った後に再びコンクリートに落下した。
アクション映画のワンシーンのような光景に、何が起こっているのか全く理解できなかった。
少年と私を車に乗せようとしていた二人の誘拐犯も仲間が乗った車が大破する様を呆然と眺めていた。
しかし、流石プロと言うべきか、ふと正気に戻ると私だけでも連れ去ろうと誘拐犯の一人が手を伸ばしてきた。
私は咄嗟に身構えたが、身構える必要など無かった。
私に触れようとした誘拐犯の腕を横から少年が掴み、誘拐犯を投げ飛ばしていたからだ。
ほんのコンマ数秒前まで私の前に居た誘拐犯が二人共、気が付けば遥か上空。パラシュート無しスカイダイビング状態だった。
幸いにも投げ飛ばされた先が海だった為、短い断末魔と共に水飛沫を上げて誘拐犯達は母なる海へと帰っていった。
幸いにもと言ったが、あの高さから水面に叩きつけられたので多分死んでる。
今まで何度か危ない目に遭ってきたが、今回は意味不明過ぎて一番恐怖を感じた。
恐怖の元凶である少年は私を一瞥すると、一言呟いた。
「……雑魚に興味ねぇ」
最悪の捨てセリフを吐いて、まるで幻覚を見ていたのでは無いかと思う程一瞬で少年は姿を消した。
彼の寂しそうな横顔に、私は胸の高鳴りを感じた。
生まれて初めて、誰かに興味を持ち。
生まれて初めて、恋心を抱いた瞬間だった。
その日から、私は血が滲むような努力に努力を重ねて、誰よりも強く、誰よりも美しく、誰よりも賢く、誰よりも完璧な存在となった。
ただ、彼の寂しそうな顔を笑顔に変えられる存在になりたいという一心だった。
中学を卒業し高校へと進学する直前、私は遂に彼を見つけた。
情報によると、市立の普通科高校に通う一つ年上の高校生らしい。
私も彼と同じ学校へ入学する為に、本来進学する予定だった名門校への進学を取り消した。
培養液に浮かぶ少女が入ったガラスに反射した私の顔は、にやけていた。
「……私の事、覚えているかな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます