ゲームセンター

第8話

1月。実力テストの成績は悪くなかった。が、稲賀さんの成績は下がったようだ。


「明美ちゃん、お兄ちゃんデビューとか言ってたけど、まだしないとか言ってるー。テスト終わったし遊ぼうよ!」


「真矢ちゃん、私ね…成績下がったから塾頑張らないと。遊べないの」


「えー。そっか…私も勉強しよっかな」


俺は3学期に入ってまだちゃんと話してないのに。普通に遊びを断る稲賀さんはどうかしてる!…俺が、言おう。


放課後になり、みんなそれぞれ帰る頃を見計らって、


「真矢、ちょっと」


真矢の席にまで行って、袖をつかむ。


「なに?」


「柴田くん…真矢ちゃんになんの用?」


いないと思ってたのに稲賀さんが現れた。睨んでるんでるんですけど。


「あー、えっとー」


「用がないのに話しかけるなんて。それになんで袖掴むの?怖いんだけど」


異様に威圧的だ。こんな人だったのか?


「明美ちゃん、柴田くんはボランティアで一緒だったからその話かも」


「ボランティア?」


「お父さんがたまにしてるやつだよ~」


「そ、そうなの?」


稲賀さんは知らなかったようだ。


「明美ちゃん今から塾だよね?頑張って!」


「あ、うん、そうなの。じゃあ…先に帰るね。柴田くん、用件は考えてから話したほうがいいと思います」


なんだよ、ただ話したいだけなのに。

しーんとした空気が流れた。


「じゃあ、真矢ちゃんまた明日…」


「うん!」


稲賀さんは、不服そうな顔をして帰った。


「で?なんの話?」


「真矢、なんで話してかけてくれないの?」


「え、話してるけど」


「話しかけてよ」


「そっちから話してよ」


「稲賀さんが怖いから無理」


「怖くないよ、なにそれ~」


「真矢が話しかけてよ」


「男の子と話してるじゃん?」


「そこに話しかけてよ」


「えー」


「つまんないよ、話しかけてよ」


「眠いんじゃないの?」


「父さんに言ったら、たまにでいいって」


「そーなの?で?眠くないと」


「まあ、そう。…真矢、今から一緒に遊ぼうよ」


「は…?」


「遊びたいんじゃないの?」


「え、辰巳と遊ぶの?なにすんの?」


「ゲーセンだよ?」


「行ったことない。あ、お金ないよ?うちビンボーだからねぇ」


「おごるから。俺金持ちだし?」


「え、そーなの!?いいの?」


「うん。友達もう行ってるから」


「他の子もいるの?混ざっていーの?」


キラキラした目で見つめられた。


「もちろんいいよ、行こう」


ご機嫌な真矢を連れてゲーセンへ向かった。

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