箱庭のフローラ

ーー剣士の目の前には鬱蒼と植物のしげる庭がある。








剣士「この庭毎日通るけど、異常なペースで植物が濃くなってるな。ちょっと入ってみよう」








???「こんにちはぁ」








ーーじょうろを手にした少女がにこやかにこちらを見ている。








剣士「君は……もしかしてここの庭師か?」








???「はいー。私はー、ここのー……」








剣士「……?」








庭師「庭師ですぅー」








剣士「溜めるね」








庭師「ごめんなさいー、私ー、もとからー」








剣士「喋るのが遅いのか。それはいいんだが、この植物は君が?」








庭師「喋るのが遅くてー」








剣士「それはもう分かったかよ」


 






庭師「この干しぶどうをお食べー」








剣士「あ、ありがと」








庭師「私はー、庭師のフローラって言いますぅ。あなたはー?」








剣士「俺は剣士のロラン。魔王を倒す男だ」








庭師「何ていう名前なんですかー?」








剣士「さっき言ったよ! え、君の周りだけ時間ゆっくり進んでるの?」








庭師「可愛いお名前ですねぇー」








剣士「……(ここは我慢だ。1ターン待ったら俺と会話のペースが合うはず)」








庭師「それで【さっき言ったよ!え、君の周りだけ時間ゆっくり進んでるの?】ちゃんはぁ」








剣士「それ俺の名前ちがう!!」








庭師「あれぇ。どうして黙ってるんですかー?」








剣士「ええ怖っ!? 今誰と会話してるの?!」








庭師「お口に合って良かったぁ」








剣士「何が!?」








庭師「私ぃ、干しぶどうを食べさせるのが好きでぇ」








剣士「……作るのじゃなくて?」








庭師「それから植物さんが大好きなのぉ」








剣士「そうなんだ」








庭師「作るのはコホーッポさんがやってくれるからぁ」








剣士「スルーしようと思ったけどコホーッポさんて誰!?」








庭師「そうなのぉ」








剣士「どうなのお!?」








庭師「剣士ちゃんはー、お花さんと植物さんが好きですかぁ?」








剣士「(よし、ここから合わせるぞ)まあ嫌いではないけど」








庭師「みんなぁ、もっと植物さんを大切にして欲しいと思うよー」








剣士「そうだな」








庭師「人はしょせん植物の養分だから」








剣士「うわ口調変わった!? 急にサイコ入ってきたし!」








庭師「コホーッポさんは人じゃないのぉ」








剣士「じゃあ何なんだよ!」








庭師「へぇー、剣士ちゃんも植物さん好きなんですかぁ」








剣士「何なんだこの神経衰弱みたいな会話!!」








庭師「この干しぶどうをお食べ」








剣士「干しぶどうで調整しようとするのやめろ! で、本題なんだがここの植物たちを育ててるのは君なの?」








庭師「美味しい?」








剣士「あ、うん」








庭師「そうなのー。この植物さんたちはー、もっとよく噛んで食べてぇ?」








剣士「最後まで言い切れよ!」








庭師「美味しい?」








剣士「さっき美味しいって言っただろ!! お前は孫にたらふく飯食わせるおばあちゃんか!!」








庭師「この干しぶどうをお食べ?」








剣士「今食ってる所だよ! 何この頻繁に挟まれるこの干しぶどうタイム!?」








庭師「良かったー」








剣士「良かねえんだよ!」








庭師「神経衰弱ってなぁに?」








剣士「……神経衰弱っていうのは」








庭師「美味しい?」








剣士「ディスクジョッキーかお前は!!」








庭師「私には特殊なスキルがあってぇ」








剣士「聞けよ!!」








庭師「どこからでも植物さんを生やすことが出来るのー」








剣士「え、すごいな」








庭師「私の手を見てー」








剣士「それはアサガオの種か?」








庭師「お食べ」








剣士「いらんわ! アサガオの種って下剤じゃねえか!」








庭師「この中に一粒干しぶどうが混ざってるのぉ」








剣士「何その地味なロシアンルーレット!」








ーー庭師の掌からツルが腕に巻きつき、アサガオの花が咲いた。








庭師「ほら、言った通りでしょー?」










剣士「おお、すげえ!」








庭師「お食べ」








剣士「いらねえよ!!」










おわり






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