ネガティブ見習い魔導士

ーー剣士は魔王討伐のための仲間をスカウトするため、酒場に来ていた。






剣士


「お、あの魔導士なんて能力値高そうだな。おい、そこの君」




見習い魔導士


「ひいっ! ごめんなさい! ごめんなさい!」




剣士


「え!? おいどうしたんだよ! 俺は何もしないぞ!」




見習い魔導士


「あなたは先日捨てた白菜の亡霊ですよね!?」




剣士


「いや何見てそう思ったんだよ! そんなわけないだろ。俺は剣士。旅の仲間を探してるんだ」




見習い魔導士


「そうなんですか……あ、私は見習い魔導士です……」




剣士


「見習い魔導士、俺と一緒に魔王討伐に行かないか?」




見習い魔導士


「魔王討伐……資金が必要……つまり私をカツアゲする気なのですね!?」




剣士


「だから何でそうなるんだよ!」




見習い魔導士


「ごめんなさいごめんなさい! 死んだヤドカリを差し上げるので勘弁して下さい!」




剣士


「いらんわ! 何でそんなもん持ってんだよ! ……俺はお前を旅に誘っているだけだ」




見習い魔導士


「旅……!? 私には無理です」




剣士


「どうして?」




見習い魔導士


「私は極度のネガティブ思考なのです。この店を出るのだって怖くて怖くて躊躇しているくらいですよ」




剣士


「躊躇してるって何時間くらい?」




見習い魔導士


「三週間です」




剣士


「思ったよりだいぶ長い! 観葉植物かお前は!」




見習い魔導士


「怖くてしょうがないんです! 例えば入り口の段差で転んで頭を打って死んだらどうするんですか!」




剣士


「(マジでネガティブだな)大丈夫だよ。お前が転んだら俺が受け止めてやる」




見習い魔導士


「でも受け止めた貴方の脇毛が私の目に刺さって死んだらどうするんですか!」




剣士


「脇毛に殺される事件なんて人類史上起きてないわ!」




見習い魔導士


「私が最初の一人になるかもしれないじゃないですか!」




剣士


「何その新たな時代を切り開いていく想像力」




見習い魔導士


「ひっ! やめて! 脇毛をこっちに向けないで!」




剣士


「向けてねえしそもそも生えてねえよ!」




見習い魔導師


「その顔で!?」




剣士


「どういう意味だテメエ!」




見習い魔導士


「それに、今この瞬間にもあなたの脇毛が凶暴化して私の血肉を狙っているかもしれないじゃないですか!」




剣士


「お前は脇毛にどんなトラウマ抱えてんだよ!」




見習い魔導士


「ええ教えてあげましょう! あれは前世で59歳の時でした!」




剣士


「前世の記憶に遡るの?!」




見習い魔導師


「あの時自室で死んだモズクが落ちているのを見つけたのです!」




剣士


「何で魚介類と居住スペース被ってんだよ!」




見習い魔導師


「モズクを見た瞬間! 私は前前世の事を思い出したのです!」




剣士


「まだ遡るの!? お前もう一個遡ったら運営から警告喰らうから気をつけろよ!」






見習い魔導師


「その時、私は前に進むカニに追われていました!」




剣士


「何で因果律で魚介類と絡み合ってんだよ!」




見習い魔導師


「その時私は前前前前前前」




剣士


「人類誕生の秘密に辿り着くつもりかテメエ!」




見習い魔導師


「その時私はモズクでした」





剣士


「モズク自身!?」






おわり


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