第5話 出発!



これから俺の冒険が始まる、と神殿を出ようとしたら、再び貼り紙が目にはいった。


「『準備は終わりか? もう一度上から下まで見て確認しろ!』か。

え~と、服は動きやすいもの、武器もある、あ、靴が革靴のままだ……」


しまった、自宅で靴を履き替えるのを忘れていた……。

どうするか……。

自宅に取りに帰る手もあるけど、ここは服屋ホーネスを利用するか。

確か、靴も取り扱っていたはずだ。


神殿の出口から少し移動して、扉召喚を使う。


「【服屋ホーネス 召喚】」


床に魔法陣が出現し、そこから透明な扉が出現した。

透明な扉が出現するのは初めてだが、俺が利用しているホーネスの入り口の扉だ。

見慣れた扉の先に、店内が見えている。


不思議な感じだ、扉しかないのにお店の中が見えるとは……。

そんな不思議な感じの扉を開けて中に入る。

すると、女性が近づいてきた。


「いらっしゃいませ主様! ようこそホーネスへ」


笑顔で対応してくれる女性は、薄い水色の髪をした美人だが制服が似合ってない。

どうも、着慣れていない感じが出ていた。


「えっと、あなたの名前は……」

「あ、すみません。

契約精霊のコニーといいます! この店の店長をさせてもらっています!」

「コニーって呼んでいいのかな?」

「はい、主様は私たちの主様ですから!」

「ありがとう、コニー。

早速だけど、靴を見せてほしいんだけど……」

「はい、こちらです!

ただ、専門店ではないのでよくある靴しかありませんが……」

「そこは大丈夫。動きやすい靴が欲しいから」

「では、こちらが靴のコーナーになります」


服屋ホーネスは、下着から普段着、パジャマとかもあり背広も一部取り扱っている。

他にも、靴下や手袋にマフラーといったものもある。

だからか、自然と靴も取り扱うようになっていた。


本来なら、十種類ぐらいの登山靴が並ぶ棚には一種類しかなく、俺はその一種類の登山靴を手に取った。

そう言えば何年か前、登山ブームが起こった際に十種類ほど仕入れていたなと思いだした。

あの頃、流行に乗りやがってと呟いていたな……。


「コニー、この登山靴の28センチはあるかな?」

「え~と、棚に表示がありますから在庫はあるはずですよね。

ちょっと待ってくださいね、主様。

今、確認してきますから!」


そう言うと、どこか嬉しそうに店の奥へと移動していった。

何か、良いことでもあったのかな?



少しして、店の奥から一つの箱を持って現れたコニー。

どうやら、在庫があったようだ。


「ありましたよ、主様。

こちらが、28センチの登山靴になります。

履いて確かめてください」


そう言うと、椅子を用意してここで履くように促される。

履き心地とかを確かめるためか?


そう思いながらも、用意された椅子に座ると、コニーが箱を開けて登山靴を足元に置いてくれた。

うん、店員の行動だな。


「ありがとう、コニー」


俺がお礼を言うと、コニーは笑顔で返してくれた。

靴を取り、靴紐を外したり結んだりして調整して履く。

床に何度か軽く打ち付けると、履き心地が分かる。


「どうですか? 主様」

「ああ、いい感じだ。

ある程度の重さが、心地いいな」

「よかった、ではここで履き替えていきますか?

それとも持ち帰りで?」

「履き替えていこう。

履いてきた革靴は、アイテムボックス内へ入れておくよ」

「はい、ありがとうございました」


俺は登山靴を履いて立ち上がると、質問をコニーにする。


「そういえば、ガンショップでもそうだったが靴の代金ってどうなっているんだ?

品揃えはまあ、レベルが低いからしょうがないとしても料金が表示されてなかったけど……」

「お忘れですか? 主様。

ここは、複製されたお店です。

つまり、すべての物がタダなんですよ。無料なんです!

ですから、お金なんて取るわけがありません!」

「そ、そういえばそうだったな。

いつもは、お金を払って買い物していたから、忘れていたよ」

「もう、主様は……。

それと、もう一つ言わせてもらえるなら、ロバートとアニスちゃんとは会っているのに、私とは会ってもらえないかとヒヤヒヤしました!」

「……ああ、それで少しうれしそうだったのか」

「そうです! 契約精霊は、契約者と会えるだけでうれしいのですから、新しい扉が召喚できるようになったら、一度は召喚して契約精霊と会ってくださいね?」

「そうだな、そうするよ」

「必ず、ですよ?」

「わ、分かった……」


コニーに念を押されて、会うように言われる。

どうやら契約精霊は、一つの扉に一体契約されるようで、呼ばれないと寂しさからどうにかなってしまうのかもしれないな。


でも、これからレベルが上がればどんな扉も召喚できるようになるから、大変かも……。

将来に心配するも、何とかなると軽く考えて店を出る。


「ありがとうございました~」


コニーの挨拶を聞きながら、店を出て扉を送還する。

とりあえず、これで準備は整った。

こうして俺は、本当に神殿を出発する。




召喚の神殿を出て、外から神殿を見上げると結構立派な神殿だった。

彫刻も細かく造られているし、魔物に荒らされている形跡もない。

また、神殿の周りも荒れ果てたような感じではなく、手入れが行き届いていた。


「これって、管理者がいるのか?」


そう疑問に思いながらも、北へ向かって歩いていった。

異世界の光景は、地球の自然の風景とそう変わらないようだ。

空は青く、そよ風が時々ほほをかすめる。


地面は土の面と草が生えている箇所があり、轍らしきものもあった。

これは、神殿まで続いていることから、馬車などで神殿まで来ている人がいるということだろう。


俺は異世界を、肌で感じながら北を目指し、十分ほどで東西に分かれた街道に出た。


「ここが分かれ道か……。

確か、右の東に行けば、シュベリーという町で、左の西に行けば、コルバナという町だったな。

で、俺は、西の町コルバナを目指すことにしたんだったな」


というわけで、俺は左へ曲がりコルバナという町を目指すために歩き出す。

街道は、道ではあるが整備された道ではなく、土がむき出しの道だ。

しかも、デコボコしている箇所もあり、登山靴にして正解だった。


青い空、草の生えた街道沿い、木々の乱立する森や林、そんな自然が繰り返される道だった。

魔物も、すぐに出てきたり襲いかかったりすることはなく、ただ歩くだけの時間が続いた。



そして、歩いて三十分が経過した頃、叫び声が聞こえた。

いや、聞こえた気がした。

周りを見渡すが、変わらない景色があるだけだ。


「……空耳?」


そう思ったとき、今度ははっきりと左側の林の中から聞こえた。


『誰か助けてっ!!』


さらに、銃声も聞こえる。

パンパンという、乾いた音だ。


「え、これ銃声か?

もしかして、日本人がいるのか?」


俺は腰のホルスターから銃を取り出し、林の中へ走って行った……。







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