第6話 初めての戦闘



慎重に林の中を進むと、すぐに声が聞こえてきた。

俺は足元に注意しながら、急いで声のする方へ行く。


「や、やめなさ、いッ!

は、な、れな、クッ!

うっ、だ、誰か! 誰か、助けてッ!!」

『ギギッ!』

『ギャギャ!』

『ギャッギャッギャッ!』


すると、ゴブリンと思われる全身緑色の小男三体に抑え込まれている、女性警官を発見した。

抑え込まれた今も、必死に抵抗し藻掻いている。

拳銃は紐がついたまま、地面に転がっていた……。


俺は、すぐにゴブリンたちの前に姿を現すと、女性警官と組み伏しているゴブリン二体とは別に、その周りで騒いでいたゴブリンの頭に向けて撃つ!

パンと乾いた音を出し、反動を感じたと思った瞬間、撃たれたゴブリンの後頭部が弾け飛んだ!


『ギャッ!』


すぐに俺の方を見るゴブリン二体、そして、後頭部が弾け飛んだゴブリンが地面に倒れると、女性警官を抑えていた一体のゴブリンが、怒りの表情で俺に向かってくる。


『ギギャアッ!!』


だが、それは俺にとって格好の的だった。

しっかりゴブリンの頭に狙いを付け、再び引き金を引く。

パンと乾いた音がして、反動を感じると、向かってきたゴブリンが撃たれ後頭部が吹き飛ぶ。


『ギャブッ!』


次々に仲間のゴブリンが倒され、女性警官からゆっくり離れ俺に対峙する最後のゴブリン。

するとそこに、今まで倒されていた女性警官が立ちあがり、紐に繋がれている拳銃を握りしめると、ゴブリンに向けて引き金を何回も引く。


パンパンと乾いた音が響くが、撃たれたはずのゴブリンにキズがつくことはなかった。

その光景を見て、ニヤリと笑うゴブリン。


「な、何で……」

「落ち着いてください! 助けに来ました!」

「わ、分かってるわ!」


銃口を向ける女性警官と俺。

女性警官の銃の威力をその身で感じて、俺に対しても笑みを浮かべたゴブリン。

そこへ、俺の銃からパンと乾いた音を出した後、撃たれたゴブリンが驚愕の表情で後頭部を吹き飛ばされてその勢いのまま後方に倒れた。


「……ふぅ」


ゴブリン三体に対して、銃口を向けて引き金を引いたが気持ち悪いなどの感じはなかった。

人を撃ってないからかもしれないが、こんなものなのだろう。

戦闘が終わったと同時に、女性警官が俺に向かってきた。


「な、何故あなたの銃が、こいつらに効いたの!?

それと、ここはどこ?! あなたは何者なの?!」


詰め寄ってくる女性警官。

制服のあちこちが汚れ、ズボンの一部が破れていた。


「と、とにかく、ここから移動しませんか?

話は、それからで……」

「……そ、そうね。分かったわ」


俺と女性警官は、周りを警戒しながら林を抜け、街道へと戻ってきた。

ここまでくればもう安心だろうと、銃を腰のホルスターへ仕舞う。

女性警官は、移動中に服に着いた土などを払い、破れた箇所を気にしながらも俺に話しかけてきた。


「ま、まずは助けてくれてありがとう。

私は、警視庁地域課の川崎梓です」

「俺は、神崎なな子探偵事務所で調査員をしている、森島裕太です」

「探偵事務所の調査員、ですか?」

「ええ、例の神隠しの件で調査していたらこの世界に来ていたというわけです。

川崎さんも、そうじゃないんですか?」

「ええ、そ、そうです。その通りです。

失踪者の経歴やいなくなるまでの行動を調べていたら、いつの間にか薄暗い場所にいて、警戒しながらも出口を探して外へ出ました。

そして、辺りを捜索していて道らしきものを見つけて……」

「ここまで来た、と?」

「そうです。

それでこの辺りまで来て、そこの木の影からさっきの緑色の小男がこちらを見ていて、質問しました。

ここがどこなのか、とか。

すると、奥へ移動してしまい、後を追いかけたんです」

「で、仲間のゴブリンに捕まってしまったと」

「はい。言葉も通じず行動も怪しい、すぐに銃で脅したのですが効果がなく、直接発砲しました。

ですが、傷つけることができず、襲いかかられて必死に抵抗を……」

「で、俺が駆けつけて助かった、というわけですね?」

「はい、その通りです」


なるほど、召喚されたのにもかかわらずあの神殿の貼り紙を一切見ずにここまで来たのか。

それで、何も分からずにここにいるのか。


「えっと、川崎さん」

「は、はい」

「実はね? あの最初の薄暗い場所に、今まで神隠しでこの世界に来た人たちが、メッセージを残してくれていたんですよ」

「え?」

「だからあの場所で、そのメッセージを見ていれば、おそらくこんな目には合わなかっただろうと……」

「そ、そんな……」


落ち込む川崎さんを、俺は最初の神殿へと連れて行くことにした。

あそこで学べば、川崎さんもこの世界で生きていくことができるはず……。




図らずも、ふりだしに戻った俺と川崎さん。

神殿に到着した後は、先人たちのメッセージの書かれた貼り紙を見て回った。


「なるほど、ステータスですか。

わ! こ、これが私のステータス……」


メッセージを見ながら、自身のステータスを確認している川崎さん。

残念ながら、俺には川崎さんのステータスは見えなかった。

どうやら、他人には見えないようになっているらしい。


「森島さん、私の職種は錬金術士のようです。

後、ユニークスキルというのが『ストップ!』」

「え?」

「川崎さん、他人に自分のスキルを教えるのはダメですよ」

「え、ど、どうして……」

「それは、自身の弱点を教えているのと同じだからです。

どんなスキルを使うのか分かれば、対処の方法はいくらでもありますからね。

ですから、他人には絶対教えないでください」

「な、なるほど、そういうことですか……。

分かりました、自身の弱点になるようなことは教えません」

「はい、そうしてください」

「でも、錬金術師となると、どうすればいいのか……」

「それなら、向こうの貼り紙で職種別にアドバイスが書かれてありましたよ」

「本当ですか? ありがとうございます」


そうお礼を言うと、すぐに職種別の貼り紙の所へ移動した。

真剣な表情で、貼り紙を見つめる川崎さん。


今のうちに、俺もステータスを確認しておくか。

初めての戦闘をしたんだし……。


お、レベルが2に上がっている。

それにともない、体力も魔力も上がったな……。

それに、レベルが上がると魔力が全回復するようだな。


「ん?」


自分のステータスを確認していると、一枚の貼り紙が目についた。


『注意! この世界の魔物には、地球の銃火器の効果が無いことが分かった。

もし、魔物と戦う時はこの世界の武器か召喚武器で戦うこと!』


……なるほど、川崎さんの拳銃が効かなかった理由はこれか。

となると、俺の銃が効くのは召喚武器という扱いになるからなのか。


それにしても、川崎さんの制服が気になっている。

警察官の制服なんだけど、ズボンの足の一部が破れて肌が見えているんだよな……。


でもだからといって、さっき注意した俺自身が俺のスキルを、バラシていいものかどうか……。







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