第4話 メイドの支え



着替えるために召喚した、俺の自宅のマンションの扉。

すると、誰もいないはずなのに、契約精霊のアニスがメイドとしていて驚いた。


俺は玄関で靴を脱ぎながら、一つ質問をアニスにした。


「そういえば契約精霊は、何を報酬に俺に雇われているんだ?」

「報酬?」

「ああ、給料とか、何か俺からもらえるから雇われているんだろう?」

「ああ、それでしたら答えられます。

主様からもらっているのは、魔力です」

「魔力?」

「主様、ステータスをご確認ください。

扉召喚を行う際に、MP20が消費されているはずです。

その消費されたMPの半分を、私たち契約精霊が貰っているのですよ」


アニスに言われ、俺はステータスを確認する。

すると、確かにMP89あった魔力がMP49に減っていた。

これは、銃砲店ガンショップの扉と自宅のマンションの扉を召喚した際に減ったということか。


「確かに減っているな……。

でも、俺のレベルが上がれば消費魔力なんて、たいしたものじゃなくなるけど、その時も今と同じ消費魔力なの?」

「はい、同じですよ。

ただし、質が変わってきますけどね」

「質?」

「はい、レベル1の主様の魔力とレベル100の主様の魔力では、同じ魔力でも質が変わるのです。

何といいましょうか、スーパーなどに売っている量産品のケーキと有名パティシエが作ったケーキほどの差があると申しましょうか……」


言いたいことは分かった。

なるほど、質か~。


「いいたいことは分かったよ。

それで、アニスはここでメイドをしてお世話をしてくれるということだけど、具体的にはどんなお世話をしてくれるんだ?」

「私は、主様の衣・食・住のお世話をいたします。

清潔な住環境に、お腹を満たす美味しい食事、清潔な服装を管理いたします」


確かに、メイドとはそいう存在だよな。

昨今、メイドといえばエロメイドが主流になりつつあるが、本来のメイドとはエロなしのそういう存在だったはずだよな~。


「分かった、よろしくなアニス」

「はい、主様。

では、主様のお着替えをお手伝いさせていただきます」

「ああ、よろし……く?」


俺の着替えのお手伝い?

いやいや、変な方向に考えるな。

ただ、こういう服にしたらどうかというアドバイスをくれたりするだけだ。


俺は必死に、エロい考えを取り除きながら寝室に向かった。

そして、寝室に入るとクローゼットを開けて、動きやすい服を選んでいく。


まあ、そんなに服を持っていないので、選べるパターンは多くない。


「そうだ、アニス」

「何でしょうか?」

「この世界に季節はあるのか?」

「はい、ございますよ。

日本と同じく四季がちゃんとあります。

もちろん、地球と同じく地域や場所によって季節はガラリと変わりますが」

「そうか、なら今のこの辺りの季節はどうなんだ?」

「今は春でございますね」

「春か。ならば、この辺りが動きやすくていいかな……」

「いえ、主様。

こちらの方が、動きやすくて見栄えもいいと思いますよ」

「見栄え?」

「ええ、主様もいい大人のなのですから。

見た目も気にされたほうがよろしいかと」

「そ、そうか。ありがとうアニス。

なら、アニスの薦めてくれた方に着替えるか」

「では、主様が着替えている間に何か飲み物をご用意いたします」

「ああ、ありがとうアニス」

「では」


そう言ってアニスは、寝室から出ていった。

やはり、エロはないようだ。

ん~、良かったような物足りないような……。


とりあえず俺は着替えて、寝室を出てリビングに行く。



「では、こちらをどうぞ」

「ありがとう」


リビングのテーブルの上に出されたのは、いつも使っているマグカップに入った温かいコーヒーだった。

しかも、猫舌の俺でもすぐ飲めるようにある程度冷まされていた。


飲みやすい……。

メイドがいるだけで、こんなに生活が豊かに感じるとは……。


「主様、冷蔵庫の中身が無いのですが、自炊はされないのでしょうか?」

「いや、一人暮らしだからといって買ってきた者だけで済ましているわけでは……あ」

「? 何かありましたか?」

「そういえば、神隠しの件で身の回りを整理したんだっけ。

その時に、自宅の冷蔵庫の中身も整理したから……」

「なるほど、それで冷蔵庫の中に何も入っていないのですね」


ただ、保存食は残っていたはずだ。

消費期限が、半年ぐらい持つ物を残してあったと思うけど……。


「主様、早急にレベルを上げて、買い物ができるお店の扉が召喚できるようになってください。

そうしないと、私の料理を主様に食べてもらうことができません」

「わ、分かった。がんばるよアニス」


真剣な表情で、アニスに詰め寄られた俺。

でも、その扉を召喚できるのはレベルをどれだけ上げたらいいんだろうな……。



「では、行ってらっしゃいませ、主様」

「ああ、行ってくるよ」


その後、コーヒーを飲み干すと俺は、自宅から出る。

誰かに見送ってもらえるなんて、実家を出て以来なかったことだが、結構いいものだな。

そんな余韻に浸りながら、自宅の玄関扉を送還する。


そして、ここは俺が召喚された神殿のような建物だ。

今の落ち着いた俺が、周りを見てみればいたるところに貼り紙が貼ってある。

後から来る召喚者たちに向けて、先輩たちからのメッセージということかな。


俺はそれを、一つ一つ見て回ることにした。



「これは、ステータスについてか……。

こっちは、職種についてだな。それも、いろいろな職種ごとに分かれている。

剣士、魔術師、回復術師、錬金術師、結構あるな……。

あ、召喚術師があった。

……でも、召喚士についてはないな。

『召喚術師とは、契約した魔物や精霊などを呼び出し一緒に戦う職種のことだ。

決して、呼び出した魔物や精霊などは下僕などではなく相棒と思うべし!』

なるほど……」


よく物語の中で、契約した魔物や精霊をこき使って痛い目にあうパターンですか。

それを回避するための忠告だな。


「あ、周辺の地図があった。

えっと、ここは召喚の神殿、というのか。

それで、北に少し行くと東西に分かれる街道があって、東に行けば、シュベリーという町に着いて、西に行けば、コルバナという町に着く、か」


どっちがいいか悩んでいると、目の前に答えともいえる貼り紙があった。

『シュベリーもコルバナも、大して変わらない町だ。

ただ、錬金ギルドがあるかないかで分かれている。

錬金術士なら、コルバナを目指せ! それ以外ならどちらも同じだ!』


俺は錬金術士じゃないから、どちらを選んでもたいした差はないか……。


「ならば、西のコルバナへ行くか。

距離も同じようだし、歩いていけば大丈夫だろう」


後は、本来の目的の日本人を探して、とりあえず生存確認だな。

こうして、俺の冒険が始まった……。







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