第13話 クリスマス
うっちゃんはめちゃくちゃ料理が出来た。
お母さんが心配しないはずだ。
クリスマスパーティーの、いやクリスマスイブパーティーの準備で私が手伝えたのは、野菜を洗うこととレタスを手でちぎる、ぐらいだった。
「まぁこんぐらいにしといたろか」
エプロンを外しながら言ったうっちゃんには後光が差していた。
「師匠と呼んで良いですか」
「弟子は取らん」
めちゃくちゃ美味しそうなご馳走だった。
江崎君は夕方にやって来た。
お邪魔かな、と思ったがうっちゃんが一緒にいてくれと懇願するような目線を送るので何処にも行けなかった。
うっちゃんも私とおんなじただの女の子だと
思うと、嬉しくて愛しくて安心した。
9時を過ぎた頃多喜くんが来た。
TVで放映していたスキーを題材にした恋愛映画にツッコミを入れまくりながらみんなで見た。
なんだかんだ言いながら主人公の可愛さにみんなメロメロだった。
12時少し前にうっちゃんが
「二人っきりにならなアカン」
と私と多喜くんを家から追い出した。
二人っきりにならなアカンのが、私と多喜くんなのか 江崎君とうっちゃんなのかは
わからなかったが。
追い出された二人で近くの公園に向かった。
空気が冷たくて空が澄んでいた。
星を見ながら公園に着くと何となくベンチに座る。
一つだけ灯った電柱の光だけが周りを灯していた。
いきなり多喜くんが四角い包装された箱を、
んっと差し出す。
受け取ってからしばらく間を空けて、えっ?
と声が出た。
「クリスマスプレゼント!」
「クリスマスプレゼント?」
声がハモった。
包装紙を開けると、当時流行っていたDCブランドの財布だった。
「お金ないのに? 大丈夫?!」
とっさに叫んだ言葉の感じの悪さに戸惑ったのは時間差があった。
「めっちゃ貧乏と思わしてゴメン」
多喜くんの言葉にしどろもどろになる。
「違うねん、プレゼントとか貰えると思って
なかったし そもそもクリスマスイブとか一緒におれるとかも思ってなかったし 急やからプレゼントとかちゃんと用意できんくて
時間なくてお金なくて しょうもないもんしか買えんかって……」
プレゼントを貰った衝撃と感動と戸惑いとが
一緒くたになって何をしゃべっているのか
訳もわからず私は思うこと全部を口に出していた。
「プレゼントあんの?」
多喜くんに聞かれて初めて気がついた自分の
プレゼント。
申し訳なくて恐る恐る差し出す。
多喜くんは包装している袋を開けて
「寒いもんな」
と私のプレゼントの安物の手袋をはめてくれた。
風が吹いた。ラッピングの袋が風に舞った。
追いかけて走る。
砂場の縁に足を引っ掛けて転んだ。
お手本のようなキレイな転びっぷりだった。
多喜くんは、めちゃくちゃ笑いながら、手にはめた手袋を一旦外して私の砂を叩いてくれる。
「自分、漫画やな」
と言ってまた笑った。
紙袋を捕まえた多喜くんは、手袋を外して袋に入れると自分のコートのポケットにしまった。
「あ、12時過ぎた。クリスマスや!」
多喜くんが時計をしている左手をかざした。
覗き込んで12時なのを確認し、ホンマやーと
多喜くんを見ると、唇が重なった。
一瞬で離れた。
びっくりして瞬きもできずにいると
「そんな見られたらもう出来ひんやん」
多喜くんがつぶやく。
慌ててギュッと目をとじた。
多喜くんがふっと息を吐いて笑った、ような気がした。
もう一度しっかり唇が重なった。
その後うっちゃんの家まで送ってくれた
多喜くんは、家に入らずそのまま帰って行った。
家の前でもう一回キスをして。
インターフォンを押すとうっちゃんが出て来た。
「ゴメン、めっちゃ寒かった?顔真っ赤やで」
江崎君ももう家に帰っていた。
うっちゃんの家に入ると、そのままトイレに
直行した。
鏡に映った真っ赤かで、砂が付いた自分の顔を見てさっきまでの暗闇に心から感謝した。
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