第12話 クリフマスイブ会

多喜くんとデートした。

池に行って手をつないだ。ただそれだけ。

でもただそれだけでふわふわと宙に浮かんでいるようだった。

周りの景色すべてに鮮やかな色がついた。


けれどその色に段々影が差し始めた。


彼女になったのかな

でも多喜くんは何も言わなかった


私ら付き合ってる?

何度もノートの端っこに書いたが 

多喜くんには一度も渡せなかった


ちがうと言われたらどんな顔をしてしまうか

自分でもわからなかった

怖くて 恐くて こわくて

何も聞かないまま

いつも通りに


私は雑草のはずなのに

全然強くなかった


「クリスマス会はうちでするから」

うっちゃんが言った。

「クリスマス会?」

「24日やからクリスマスイブ会か」

「二人で?」

「なんで女二人で寂しく集まらなアカンのよ

江崎君と多喜も一緒に決まってるやん」

「でもスイミングあるんちゃうかな」

「一晩中泳がんやろ カッパやないねんから

スイミング終わってから来たらええやん

アンタはうちに泊まるし」

「家族に迷惑じゃない?」

「アタシしかおらんねん 今」

うっちゃんのお父さんは単身赴任で他県で暮らしていて、お母さんはしょっちゅうそちらに泊まりに行っているそうだ。

「ほぼひとり暮らしやで」

うっちゃんは一人っ子なのに、女の子一人で家に置いておくなんてご両親は心配じゃないのかと尋ねると、

「アタシよりお父さんの方が心配やねんて

高校生にもなって しかも女の子やねんから家事はもう出来て当たり前やろって」

うっちゃんのお母さんはワイルドだ。

ちなみに18歳になった時、うっちゃんは教習所で仮免だけをとって、実技は飛び込みで受けて自動車免許を取得した。お母さんが教官になって車の練習をしたそうだ。そんなこと可能なのかと思ったが、実際可能だったからスゴい。


「家事とかより色々心配なことある気するけど…」

まあうっちゃんは鰻が食べたいから静岡行ってくる、明日学校休むなーとか言って一人で鰻を食べに行ったりする女子高生だから心配ないのかも。


「多喜には言うといたから」

「え!多喜くん来るって?」

「何時になるかわからんゆうとったけどな」

来るんや 多喜くん

クリスマス、正確にはクリスマスイブに一緒におれるんや!


現金なものでもやもやと立ち込めていた黒い霧は一気に晴れた。

何を着て行こう。それよりプレゼントはどうしよう。お小遣いあんまり残ってないのに 


考えることが多すぎてうじうじしている場合ではなくなった。

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