第10話 席替え

今日は席替えの日。

くじ引きが始まった。

何だか高校生になってからくじ引きばかりしている気がする。そしていつもろくな事がない。

私のこれまでのくじ運を考えると、多喜くんと近くの席になれる可能性は低いと思われた。

期待しなければ絶望もしない。

悟りの境地でくじを引く。

書かれた番号の席に荷物をもって向かうと

私の前の席に多喜くんが座っていた。


なんと!神様!

御守りも買ってない私にこの御利益ですか。

惚れ薬とか言うてホンマすんません。

大国主命と須勢理姫命に心の中で頭を下げ

手を合わせた。


席に着く私を身体ごと振り返って多喜くんが

じーっと無言で見つめてくる。


「何?……仕組んでないで」

やましいところは何もないのに己の幸運が

信じられず何となく慌てる。

「とかなんとか言っちゃって」

多喜くんがニヤニヤする。

「出たよ どこの男前やねん あやかりたい

ポジティブシンキングやな」

私の斜め後ろの席になったうっちゃんがいつものように呆れた。


これから一日中多喜くんの大好きな背中を

見放題だ。

あまりの幸せに顔がゆるむ。

「なんか悪寒が……なめまわすように見んとって」

多喜くんが震えながら懇願した。

「黒板と間違えんようにな」

うっちゃんの合いの手が入った。



「遊園地、動物園、水族館 その辺が妥当かなって思うねんけど どう?」

「天候を気にせんでも良いのは水族館かなー」

「やっぱり?そうやんな!アタシ動物園はアレルギー出るかも知れんからなー」

うっちゃんと二人で話していると

「何の話?」

と多喜くんが参加してきた。

「デートに誘うならどこが良いかなって話」

私が答えると

「魚なんか見ておもろいんか」

面白くなさそうに多喜くんが言う。

「やっぱり水族館がベストかな 

そのあと回転寿司行って 

一日おさかな天国っていうのもいいかも」

多喜くんをガン無視してうっちゃんがうっとりつぶやく。

「回転寿司のお魚は天国に行ってるかもな」

私が言うと

「江崎君 おさかな好きかな~」

相変わらず聞く耳もたずのうっちゃんだ。

「見るほう?食べるほう?」

聞いちゃあいないだろうが一応ツッコんでおく。

「こいつの感性を理解出来ひん俺がおかしいんか?」

多喜くんが不安そうに私に尋ねた。


「自分やったらどこ行きたいん」

おさかな天国に誘うため、江崎君のもとへと向かったうっちゃんを見送りながら多喜くんが言った。

「何?デートのお誘いかしら」

「統計や統計 アンケート」

多喜くんはつれない。


うーん お金と時間がなくても出来るデートか……

もちろん脳内は多喜くんとのシュミレーションデートだ。


「……あ、永光池に行きたい」

高校の近くにある大きな公園。たくさんの木々と植物、季節ごとの花々が池の周りを囲んでいる私の大好きな散歩コース。


「永光池?しょぼいな デートってもっと

一大イベントみたいな感じなんちゃうん?」

「一大イベントは一大イベントやろなー」

「なんかこう、愛し合う二人が燃えるような愛の形を行動で表現するというか……」

「なんかいかがわしいんやけど……そんな暑苦しいもんなん?デートって」

「知らん したことないもん」

あら、これは耳寄りな情報ゲット。

「好きな人と一緒に行くならどこ行っても楽しいし、一大イベントやろ?」

「近所の池でもか?」

「近所の池で二人でお散歩とか最高やけどなー お金も時間もそんなにいらんで」

さりげなくアピールするが聞こえないフリだ。

「オシャレなトコでメシ食って、薔薇の花束とかアクセサリーのプレゼントとか渡すんかと思ってた」


「モテへん男の妄想炸裂やな いつの時代の話や」

いつのまにか席に戻っていたうっちゃんがフフンと鼻で笑った。

ごきげんな様子から江崎君とのおさかな天国は叶いそうだ。


教室に先生が入ってきて授業が始まる。

多喜くんの背中を眺めながら思った。

神様がくれたこのポジションのおかげで、私にとっては毎日がデートで、毎日が一大イベントみたいなもんやけど。


多喜くんが寒気を感じないよう視線を散らし

ながら、席替えと神様にもう一度深く感謝した。

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