第8話 班決め

「愛と友情 どっちが大事?!」

うっちゃんが真剣な表情で聞いてきた。

「愛 友情も愛やと思うから 愛してるうっちゃん」

「愛をごめんね アタシの愛は江崎君だけのものやねん でもそんなにアタシを愛してくれてるなら 今度の遠足 わかってるよな」


1年生の遠足は10月。行き先は奈良。

小学校や中学のころと違って現地集合現地解散だ。

奈良公園に午前10時集合。

男女各2名ずつの4人1組で班を作り、指定された場所から3カ所を選んで見学。

午後3時再度奈良公園に集まりそこで解散。

1週間後各班ごとにレポートを作成し発表する。

というのが一連の流れだ。


うっちゃんの(わかってるよな)は(アタシが江崎君と一緒の班になりたいってわかってるよな)という意味だ。

江崎君は仲良しの石田君とペアになると思われる。

ちなみに多喜くんは欣ちゃんとペアになるそうだ。

江崎君と班になりたいうっちゃんと、多喜くんと班になりたい私がペアを組んでいるとなれば争いは避けて通れない。


うっちゃんが力強く主張した。

「私には夢がある 奈良公園で一緒に鹿とたわむれることを、私は夢見る

私には夢がある 夫婦大国社で一緒に縁結びの御守りを買うことを、私は夢見る

私には夢がある 東大寺で一緒に大仏の鼻の穴をくぐることを、私は夢見る 

今、私には夢がある!」


「キング牧師に怒られるで」

「お願い 一生のお願い!」

「こないだも聞いたやん 一生のお願い」

確かに多喜くんと古代ロマンと古墳が溢れる奈良の街を散策、というのは惹かれるシチュエーションではあるのだが。


「わかった いいよ」

大仏の鼻の穴

それは夢見てなかった

たわむれる 鹿と多喜くんと私

なら夢見るかも知れんけど


「ホンマにいいの?箱男と一緒の班になれんでも?!」

「いいよ、I have a dream に打たれた」

「……友よ 愛してる」

「さっき振られたと思ったけど……」

聞く耳もたずのうっちゃんは

江崎君とこ行ってくる~

とクルクル回りながら行ってしまった。


「アイツはいつ見ても頭の中が春やのう」

学食から帰ってきた多喜くんが私の隣の机によっとお尻を乗せた。

「遠足に夢を見てんねん」

私は江崎君にグイグイせまって何かを捲し立てているうっちゃんに目線を送った。

「あー江崎も災難やな……あんなチリ取りにロックオンされて」

相変わらずのトムとジェリーやなーと思いながら

「多喜くんは遠足の班決まったん?」

と聞いてみた。

誰と班になるのかやっぱり気になった。

「さぁ……欣ちゃんにお任せやからなぁ」


そんなことを話していると向こうからうっちゃんが意気消沈の見本のような姿でこちらへやってきた。

結果を聞かずともわかる漫画ような凹みっぷりだ。


「やられた……石田人気を舐めてたわ」

江崎君の親友の石田君はシュッとした男前で、頭も顔も感じも良い。もちろん女子ウケも良かった。

石田君狙いの女子が殺到してもおかしくない。


「勝負してんけどな……」

うっちゃんが手を握りしめた。

「拳でかっ?!」

多喜くんがのけぞる。

「ジャンケンや」

つまり班になりたい女子たちで恨みっこなしのジャンケン大会があったようだ。

「甘かった………」

私の机に両手をついてうっちゃんがうつむく。

水滴が一つ机に落ちた。


突然多喜くんが叫んだ。

「江崎君!」

名前を呼ばれた江崎君がこっちを見た。

「ビックリしたー なんやねん多喜 クン付けとかきもち悪いなー」

「キミが石田君と一緒に遠足に行きたいのはわかっている でも1回だけ!1回だけで良いから俺を選んでくれっ!」

「キミって…何、こわいねんけど…」

「頼む 1回だけ、1回だけやからっ!」

大声で叫びながら多喜くんは江崎君に突進して肩を掴みガクガク揺すった。

「やめて〜」

「お願い!1回だけ、1回だけ!」

「1回だけを連呼すな!何かエロい……」


「別にええで」

ドタバタ劇の最中石田君がサラッと言った。

「こんなに言うてんねんから 多喜の熱い想いに答えたれや」

と笑いながら江崎君に言う。

「ほんならオレとペアになってやー 多喜に捨てられたみたいやからー」

欣ちゃんが石田君に声をかける。


「ありがとう石田君、流石男前や!

ごめんな欣ちゃん、遠足の後で拾いに行く!

よろしく江崎君、こわくないから!」

多喜くんに抱きつかれながら、江崎君は諦めた顔で

「優しくしてな……」

とつぶやいた。


こうして遠足の班は江崎君と多喜くん、うっちゃんと私の4人に決まった。


やっぱり多喜くんとうっちゃんはトムとジェリーやなぁと私は心の中で微笑んだ。

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