第3話退院の日

 病院での月日は2年経っていた。

 漸く退院出来ることになった。

 トラックに轢かれて軽傷で、異世界との中間地点まで行って強制送還され、体がグニャグニャになって帰ってきただけなのに……。


 入院中は、


『俺、天美がいないと寂しいよ……お前みたいな面白い奴初めてなんだよー』

『天美君、心配したんだよ……ていうか、付き合って! っていうか、

 結婚して!』

『天美君、絶対戻ってきて……絶対だよ』


 と、同級生たちから有難いお言葉を頂戴したが、『戻ってきて』と言う女性の願いは届かず、結局俺は単位が足りず、高校を退学することになった。

 子供の頃からの異世界に行くという夢は叶えられなくなったが、そのファンタジー世界の一要素であるダンジョンが現実世界に出現し、そこに挑戦出来るようになった。


 行かないわけにはいかない。

 己の力量を試すことが出来る。

 人類の問題を解決できる発見があるかもしれない。

 ワクワクするような出会いも。


 この2年でダンジョンに関する法律が公布、施行された。

 短期間で国会審議を急がねばならず、更に各国の圧力もあり、異例の早さだった。

 主にダンジョンへの立ち入りと、武器持ち込みと使用は急いで決めなくてならず、今回の法律の重要な点だった。


 立ち入りに関しては、政府としても完全に容認するしかなく、年齢に関しては『未成年に関しては立ち入り禁止にすべきでは』との意見もあったが、今回の法律の関しては定めはないことになったが、今後その点についても法整備を進めるべきとの意見も多数ある。

 ただし、明らかに子供である等の場合は、現場の裁量で立ち入り禁止にできるとのことだった。


 未成年に関しては、ドロップアイテムのダンジョン外への持ち出しは禁止すべきでは? ダンジョン内の換金所での換金を禁止すべきではという意見もあったが、その点は今回の法律に盛り込まれずに、今後の争点となる。


 なので、一攫千金を狙う未成年が、身に余るモンスターに手を出して命を落とすのではないかとの指摘もある。


 武器使用に関しては、ダンジョンの周りに専用ボックスの設置を義務付け、その範囲外からの持ち出しを厳に禁止した。

 ダンジョン内での、人への武器攻撃も禁止されており、『その場合の罰則はどうするのか?』という意見もあったが、『その場合は現行の刑法で取り締まる』とのことだった。


 まあ、要するに俺はダンジョンで冒険できるということだった。

 武器の持ち込みも。

 だが、剣と魔法の世界に憧れていた俺なんだが、武器の持ち込みはしないことにした。


 とてつもない金がかかるということもあるんだが、己の体一つでやっていきたいという理由からである。

 親は金持ちなので、武器の費用は出してくれるとのことだったが、俺は断ることにした。


 退院の日だ。


 看護師さん達からは、


『君、やっぱり、天美龍一の弟だよね~、でいうが、ぞんなのどうでもいい~、結婚じて~……』

『天美君がいなくなるなんて無理だよ~、寂しすぎる~……』

『こんな国宝級っていうか、神クラスのイケメンに会えなくなるなんて、何を生き甲斐にしたら良いの~』


 って、大泣きされたり、同級生からは、


『天美~、良かっだ、本当に良かっだよ~』

『うえ~ん、良かったよ~、天美君、これで晴れて結婚出来るね~』

『天美様~、その元気なお姿拝見しとう御座いました~、って、元気じゃないお姿でも良かったんですけど~』


 なんて有難いお言葉を頂戴した。


「皆、ありがとう、絶対有名冒険者になるね!」


『おー!』とか、『そんな危ない所行かないで! 私が一生養うから!』とか、声を掛けられたが、俺は振り向かずに行くことにした。





 ダンジョンに向かう前に家に帰ってきた。

 家族に退院したことを直接知らせる為だ。

 家族からは、退院する時に『病院に行く』って言われたが、家族全員有名人だ。


 俺は『病院が大変になる、それに俺の素性がばれる』と断った。


 親父は総合格闘家で、名を誠五郎という。

 幼少期からあらゆる格闘技をやっていて、どれも、誰よりも強かったらしい。

 プロになってからも負け知らずだ。


 母は女優で、名を佳乃という(旧姓:小野寺)。

 若い時から沢山の芸能界へのスカウトがあり、適当に選んだ事務所に入って、あっという間に人気女優になった。


 両親には、以前から冒険者になることを言っており、反対されることもなかった。

 両親の人生として、行動していたら何故か成功していた。

 成功の理由なんか知らない。


 だから息子も何らかの選択をし、行動したら必ず成功するとのポリシーだった。

 そのポリシー通り兄貴はアメリカで成功した。

 その兄貴が目の前にいた。


「おう、龍二、帰って来たか! 会いたかったぞ!」


「兄貴もアメリカから帰ってきてたのか! 嬉しいよ!」


 俺達は久しぶりの再会に抱き合う。

 俺は兄貴が大好きだった。

 異世界に憧れる俺。


 アメリカと異世界は違うけども、遠い世界で成功している兄貴が誇らしかった。

 俺も異世界なんて無いと諦めようとした時、兄貴みたいにアメリカで勝負するかと思った時期もあったが、やっぱり異世界の方が魅力的だからアメリカには行かないという結論になった。


「おう、龍二、良く帰ってきた!」


「龍二君、お母さん、会いたかったわよ、龍二君が病院に来るなって言うもんだから、お母さん……」


「父さん、母さん、心配かけてごめん。心配かけついでにもう一個心配かけさせてしまうけど、俺、ダンジョン冒険者になる!」


「分かってる、龍二、お前なら必ず成功する」


「そうね、お父さんの言う通り、龍二君なら必ずやってくれるわ!」


 この会話を普通の親子なら理解できないだろう。

 死地に向かう息子を止めないことを。

 でも俺はそれで良いと思う。

 この二人は、人生で成功しかしてこなかった。

 だから息子も成功しかしないと。


「行ってくるね、父さん、母さん、兄貴」


 玄関から出ようと振り返ってみると、両親の目には涙が浮かんでいた。

 やっぱり親だもんな……そりゃ、心配か。

 そして兄貴は、俺に向かってサムズアップしていた。

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