第2話病院での日々
俺は直ぐにダンジョンに挑戦できなかった。
一応怪我人だからである。
医師が研究元い、治療の為に退院を許可しなかったからである。
入院費用は気にする必要はなかった。
運転手の会社から出たからである。
ダンジョンに挑戦したい気持ちはあるが、何時になるか分からなかった。
ダンジョン出現から数ヶ月経つが、テレビを点けるとダンジョンの事ばかりだった。
世界各国でダンジョンに立ち入る者たち。
その流れを止めることは出来なかった。
何故ならモンスターと戦う様子を配信して人気を得る者が出てきたからである。
ダンジョン配信は人気コンテンツ。
それは世界中の常識になりつつあった。
日本はダンジョン配信について他国に比べて遅れていると非難されていた。
死人は出ているものの、ダンジョン内にある不思議な鉱石や、モンスターを倒した時にドロップするコアは色々な者に加工でき、エネルギー問題や、その他人類の抱えている問題全てを解決できる可能性があるとも言われている。
無限の可能性を秘めているダンジョンだったが、日本では否定的な意見も多い。
だが、各国では既にその流れを止めることが出来ずに、更に日本政府にダンジョン容認の圧力が掛かっているとの報道が日々なされていた。
『日本ダンジョン容認か』『ダンジョンへの立ち入りは規制されるべきか』『日本このまま世界の流れに遅れたままか』
という新聞の見出しが躍っていた。
国会中継でも、
『総理、ダンジョンへの立ち入りはどうお考えですか? 武器の持ち込みは? ダンジョン外にモンスターが出現した場合は? 総理?』
『え、ええ、それは……』
そんなの答えられるわけない。
こんな事態人類史上始まって初の事だから。
立法も追いついていなかった。
日々国会で審議されているが、話が纏まるわけがない。
最初のうちは自衛隊がダンジョンの周りを陣取って立ち入れないようにしたが、ダンジョンに関する法律は何一つ通ってなく、立ち入ろうとする人間に対して、自衛隊は建造物侵入で立ち入らせないようにしたが、弁護士を伴って来た配信者が所有権の明らかでないダンジョンに立ち入るのは建造物侵入罪に当たらないのではないのかと立ち入りを求めた。
その後も色々な理由を付けて立ち入ろうとする弁護士を伴った配信者達に負けて自衛隊はダンジョンへの立ち入りを渋々許すのであった。
だが、そんな有名になる希望を抱いてダンジョンに立ち入った配信者達は命を落とした。
モンスターに殺されて。
ある日、テレビや新聞をチェックしている俺に看護師が声を掛けてきた。
「龍二君って、天美龍一に似てない?」
天美龍一、俺の兄貴だ。
アメリカで活躍する俳優兼モデルである。
俺は目立つのが好きではないので、いつも他人だと言い張っている。
世界なりたい顔ランキング1位の天美龍一の弟だと知られたら面倒なことになる。
道端で『天美龍一さんですか? 握手してください』なんてよく声を掛けられるが、『他人です、人違いです』なんて言って、そそくさと逃げていくのである。
「絶対そうだと思うんだけどな~、顔なんて双子みたいに瓜二つだし、スタイルとか~、声も似ているし~」
「イヤだな~、全然似てないですよ、そんな事言ったら天美さんのファンに悪いですって」
「え~、そうかな~、似てるんだけどな~、どう思う? 美紀?」
看護師さんは別の看護師さんに意見を求めた。
「私も思ってたんだよねー、似すぎだし、私、天美龍一のファンなんだけど、これ見て?」
と、看護師さんはスマホを取り出して、ある動画を見せてきた。
『天美さん、凄いご活躍ですね、どうですか? 今の心境は?』
『信じられないですね。でも、僕より凄い奴がいるんですよ、弟の龍二です。コイツは僕より将来活躍しますよ。期待していて下さい!』
看護師さんはリポーターと兄貴の取材動画を見せてきた。
病院内はスマホ禁止じゃないのかよ……。
まあ。俺も病室じゃなければ使って良いって言われているから、使用可能エリアで使ってはいるけど。
「ね? 天美龍一の弟って、天美龍二って名前らしいよ? 龍二君と同姓同名だね。やっぱり兄弟なんじゃないの~?」
「違いますって! 天美龍二なんて探せば全国に一杯いますって!」
「そうかな~? 顔も似すぎだし」
俺は看護師さんに疑われる日々を送っている。
誤魔化し切れていれば良いけど……。
俺は何度も言うがこの世界の女性に興味ないから、看護師さん達に好かれても面倒なだけで何一つ良い事はない。
速くダンジョンに挑戦出来れば良いんだけど……。
俺はトラックに轢かれて軽傷で、異世界との中間地点まで行って強制送還され、体がグニャグニャになって帰ってきただけの男なんだから……。
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