第6話


 男は、私の中に慣れ始めた。


 自分の手足のように、私を扱っている。


 自在に動いて、村では、目についた家を片っ端から叩き壊した。


 男は、自分が扱う強大な力に酔っている……。


 私や、住居者の迷惑など一顧だにしない。大笑いしながら、意気揚々と、村を壊していた。


 でも、この男の力じゃない。


 ……私が補助をしているから、こんな事を男はできている。


 私のせい……。


 私と、この男が村を壊している……。


 アドルさんなら、ぶつけたりしてしまった時や、不用意に危険な動きをしてしまうと、すぐに謝っていた。


 勢いよく飛びすぎて屋根に落下して、穴を開けてしまった時は、めちゃくちゃ謝って、ちゃんと全部弁償した。


 私のせいでもあるので、私も謝りたかったけど、アドルさんは、謝る時は私の外に出たので、私は謝るアドルさんの後ろでつっ立っているしかなかったな……。


「おい! とっとと金目の物を出せ! 殺すぞ!」


 男は、わざわざ壁を壊し室内に入り込むと、隅に集まって縮こまっている家族に怒鳴り散らす。


 そして、怯えながら持ってきたものをふんだくると、次の家に向かった。


 そうやって村の家々を壊しては、金目の物を奪っている。


 担いでいる大きな袋には、もう半分くらい奪ってきた品や金貨で埋まっていた。


 私はふと、視界の端に映ったものに気を止める。


 道のわきには、幼い子供が血を流してうずくまっていた。


 壁かなにかが破壊された時に、破片が飛んできたのだろう。


 むこうには、倒れて動かない人もいた。


 がれきの下敷きになっている人もいる。


 全員、私達が、したんだ……。


「たくっ、なんだなんだ、ケチくせぇモンしかねぇな!」


 男が怒鳴るので、逃げ遅れた村の人達は怯え、あちらこちらで小さくなっている。


 ……あっ。


 その時、壊れた家の陰から、1人の青年が小箱を抱えて飛び出してきた。


 男が立ち止まる。


 前にゴブリン達から牛舎を守った時、パニックになった牛に轢かれそうになったのを助けた人だった。


 青年は、私を見ると怯え驚いて、逃げ出していく。


 男が左足で強く地面を蹴った。私はその補助をする。


 私達は、逃げていく青年に向かってジャンプした。


 私の腕が上がる。


 青年の頭上に振り下ろされた。


 青年の頭が血しぶきを上げ、弾け飛んだる。


 地面に倒れ、動かなくなった青年から小箱を取り上げて、私達は次の家へと押し入った。


 ……やめたい。


 もう嫌。


 この男と共にいたくない。


 何もしたくない。


 アドルさんの元へ行きたい。


 ……でも、できない……。


 アーマーは命令以外のいかなる行動もできない。


 私には、できない。


 村の人達の悲鳴がまた、聞こえてきた。


 私は、思案を始める。


 私は、行動時には、目的達成のためにあらゆる問題解決方法をもちいねばならない、ようには……、出来ている……。


 何か、方法は……。


 村人の悲鳴と、男の怒号の中。


 ……そうだ。


 私は、強制分離機構の事を思い出した。

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