第2話 証明出来ない幼稚さ
僕はその後一回自宅へ戻り、テレビを見ながらもう一度飲み直した。
朝のニュースは酷く平和で、僕を苛立たせる。
美味しいパン屋の紹介だとか、リニアモーターカーが全国に普及して六十年が経っただとか。
特に今更デザイナーベイビーを特集して報道していた時は呆れ返ってしまった。
―――そもそもデザイナーベイビーは権力者しか作れないのに。
この世界が平和になり過ぎて最早同じ報道の繰り返し。(しかし不倫が大問題になるのは昔と今も変わらない)
僕はもうすぐ生まれて二年になる。
両親には会ったことが無いため、誕生日は一人で祝う予定だ。
そもそも両親がいる家庭の方が珍しい、亡くなってるか、行方が分からないか、大人の子になど興味が無いか。
大体は政府公認の施設で一年間仮寓をして社会へと飛び立つ。(飛び立てないものもいるが)僕もその施設で一年間仮寓をしていた。
僕に物心がついたのは生まれた時だろう。
その時何故か全ての状況を理解出来た。淡々と話す医者の言葉も分かった。
「貴方は生まれてきてこれから約七十年間この世界にいます、貴方の名前はヤマモト・レンです、両親に現在連絡が取れていないため一年間仮住まいを用意しています…」
圧倒的過ぎる情報量に僕は少し慄いたが、意外とすんなり状況を飲み込めた。
数ヶ月間はご飯が食べれず点滴や薬などで生活していた他には不便無く暮らせた。
確かに不便は無かった、こうして社会に居るのだし「不適合者」では無かった。
その当時、施設の中は怖いくらい清潔で他の人とも滅多に出会わない。
月に一度の「社会学習テスト」で顔を合わせるくらいで、話す機会も少なかった。
―――その中で印象的だった出来事が一つある。
彼、ミヤコ・ケンジは明らかな不適合者だった。
それは二回目の社会学習テストを行っていた時、突然彼が席を立って試験官を平手打ちしたのだ。
「この問題を作ったのは誰だ!」
彼はそう叫ぶと、問題が出されているタブレットを力強く壁に投げた。
僕含め、テストを行っていた人々は騒然となった。
始めてみる「暴力、反抗」一同はそれにひどく混乱した。
僕はまるで深い霧の中で迷ったみたいになった。
それから僕は今までずっと深い霧の中にいる。
彼が何故怒りを顕にしたのか、理由は分からない。
彼は幼稚性のある人間だということで不適合者の烙印を押された。
噂によると不適合者は特別な施設で管理される事になっているらしい。
ただ、僕は彼が幼稚だとはとても思えない。
試験官を平手打ちしても、タブレットを投げても。
それは彼が幼稚だという証明にならないのだ。
僕は時々凄く寂しくなる時がある、そういう時はいつも彼を思い出す。
彼の顔は分からない、覚えてない。
だけど、彼が取った行動は僕に多大な影響を与えた。(それだけは確かだ)
洗面所で顔洗い、鏡に映った醜い僕の顔をながめる。
彼、こんな顔だったっけ。
意味の分からない疑問が生まれる。
歯を磨いた跡、服を脱ぎシャワーを浴びる。
自動洗浄ボタンを押して、身体を浄める。
お金が無いのでこのサービスは今月一杯になりそうだ、勿体ないのでもう一度押す。
身体を洗い終わった後、いつもの地味な服を選んで着替える。
まだ時間があるので昔の曲を聴く、最近の日課になりつつある。
僕は同じ曲を飽きるまで聴き続けるタイプなので節約になっていい。
リサイクルショップで買ったジュークボックスにカセットテープを入れて曲を流す。
百年ほど前に流行った洋楽で今冬の時期にピッタリだ。
約四分目を閉じて曲の世界に入り浸った後、肩に少し雪が付いた茶色のコートジャケットを纏って僕は外に出た。
時刻はもう昼になろうとしていた。
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