最終話 春へ

「そう、無事に届いたのね」あれからフリグテの氷は、一カ月程の長い旅を経てパリョータへたどり着いた。冬でも自生する、解熱用の薬草も一緒に。


「はい、薬草は重症化している方を中心に使ったので、隔離施設からあぶれてしまう方もほとんど出ませんでした。本当に、有難うございました!」ハナの弾んだ声は、紅玉越しでも笑顔なのがわかる。


「貴女にとっても大きな成果ね。新領主の功績よ」「クニグリーク家の皆様のご助力が大きいですから、私の力なんて些末なものです。ところで、ロベルトはいつ戻ってくるのでしょう?」


「私が徐々にこちらで活動的になってきたし、まだまだ監視しないといけないかもね」「うーん…そのままノスモルに住んでしまいそうなんですが、パリョータのこと忘れてませんよね?」「大丈夫よ…多分ね」


 あれからロベルトは、フロウと共に狩猟や土木作業の手伝いに同行するようになっていた。やはり身体を動かしていることが性に合うらしく、監視のお役目はまだまだ続きそうだ。外に出ていることが多いのか、肝心の監視対象であるエリスと顔を合わせることは少ないが…。


 フロウとエリスは、統治に関する話題が増えた。まだ意見を出し合う程度で、具体的になるのはまだ先だろう。だが、エリスはそれでもいいと思っている。これからの生活はまだ長いのだから。


「春になったらご婚礼の儀ですね」「そうね…何だか実感がわかないわ。ハナはいつになるのかしら?クニグリーク家に居候となってそれなりの時間が経っているでしょう」「いえいえ、その、私はそういう関係では…!と、ところで婚礼はどんな衣装になるんでしょうね。パリョータと全然違うんだろうなあ」そうしてしばらく、ハナと取り留めのない話を楽しんだ。


(春になったら、領主夫人になるのね)まだまだ夜は冷えるが、エリスは窓を開けてみる。一面の雪景色は、月光を受けて、夜でも白く輝いている。春になったら、ここはどんな景色になるのだろう。目まぐるしくも充実していたパリョータでの日々は忙しく、なかなかこういったことは考えなかった。


 どちらが良いというのではない。どちらにいても、自分の在り方次第なのだ。そして日々に終わりはない。楽しい日も、辛い日も、ただ歩き続けていくだけだ。その歩んだ道が、ノスモルのために少しでも役立てばいいと思う。


 と、ドアを静かに叩く音がして、イズが対応する。「お嬢様、領主殿がお呼びだそうですよ。窓はこちらで閉めておきますから、お部屋へ行ってくださいな」「有難う」今日もフロウと一日の出来事を話し、将来の話をして、また明日を迎えるのだろう。エリスの明日は、春へ続いていく。


(完)


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冷血姫と氷雪の領主 手羽崎キコ @245tb

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