第72話 キングス・エンターテインメント①
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大手タレント事務所『キングス・エンターテインメント』。
五十年近くもエンタメ業界に君臨している芸能界の最古老の一角である。
創業から半世紀に渡り、創業者である
そして今、芸能界の玉座は若干35歳の王社長ジュニアに継承されている。
「お互いに災難だったじゃないか」
キングス・エンターテインメントの新規事業部、オーロラ・プロダクションの事務所だった。
椅子に座して手を組んだ新社長・
「怪我は無事か? 情熱的な男だとは聞いていたが随分と無茶をするんだな。佐々木蒼くん」
「……ええ、お陰様で」
俺、VTuber事務所『
今日の服装は男性用のビジネス・スーツだ。
Vライバーに向き合う時もビジネスマンに向き合う時も、相手の土俵に立つのが俺の流儀。もとい
ついに、はじまりの場所で王社長と対峙する時が来たのだ。
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今日は金城の「交流会」の二日後だった。
脱出した後で到着した本物の警察官により、金城の会場にいた全員が連行された。
金城直美の一派やVIP勢はもちろん。参加したタレント達も俺も蛇王ルキも、警察官の仮装で興奮していた『すっぱぬきサラリーマンズ』達も、もれなくだった。
「そんな格好で、あんな場所にいた理由はなんなんだ……? お前だけ買う側なのか売る側なのか分からないんだが?」
俺のあまりにハイクオリティな女装のせいで、応対した警察官からはそのように言われた。
警察はやはり交流会にいた全員を管理下におきたいようだった。しかし俺に彼らに捕まっている時間はない。だから事前に策を打っていた。
「まず第一に、俺は男ですよ。可愛くてごめんなさいね」
そう教えてあげつつ俺は告げた。
「あの場にいた理由なら三日前から届け出ていますよ。芸能界の業界人たちによる買春強要が行われる可能性があると通報しましたよね? 警察が調べてくれないのなら、俺とYouTuberたちが代わりに潜入して内部から証拠を持ち帰ると」
雷神ヴァオから「交流会」の存在を知った直後に俺はいくつかの警察署にその旨を連絡していた。
当日の連行後に「佐々木蒼とサラリーマンズは、交流会の参加者側ではない」と証明するためにだ。
俺のその計画を語った内容や、『サラリーマンズ』との作戦会議の様子も彼らのYouTubeチャンネルに限定公開でアップロードしてあった。
アリバイは万全。
晴れて俺と『サラリーマンズ』はシロとされ、その日のうちに解放された。ただし『サラリーマンズ』は、なまじ
蛇王ルキをはじめとする売る側、すなわちタレント側も当日で解放された。
積極的な買春行為であれば彼女たちも共謀者となるが、ほとんどの者は「金城に強要された被害者」とみなされたようだ。まあ実際のところ、何人かは率先した参加者もいたのかもだが。
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そして今、俺はかつての職場にいる。
見慣れた事務所で、俺を解雇した張本人と、まさに相対していた。
「おいおい。お陰様とはなんだ、佐々木くん?」
王社長は笑みを崩さずに切長の眉をなぞりながら言った。
「金城はオーロラ・プロダクションを仕切っていたが、ただの業務委託先だ。芸能界に巣食う狡賢い
「そんな
「……なに?」
俺は努めて冷静になろうと自分に言い聞かせる。
「金城と王社長の繋がりは隠せませんよ。蛇王ルキや獅紀チサト……大勢のVライバーたちが、貴方と金城直美の繋がりを証言しています。金城をオーロラに連れてきたのは貴方だと。貴方が彼らを『俺の部下だ』と紹介したとも」
「ふん。そう攻撃的になるなよ。俺の機嫌を損ねるのは得策じゃあないぞ、佐々木」
王社長は苛立ったように眉を歪ませると鋭い目で俺を射抜いた。
「だからなんだというんだ? キングスが金城にオーロラの世話を発注していたのは事実だ。当然、繋がりはあるだろう。他の大勢の芸能企業が金城と繋がっているのと同じくな」
俺は王社長を睨み返した。
「やはり王社長は、金城直美を……部下を見捨てて逃げる気なんですか」
「口の利き方に気をつけろ。誰が逃げるだと? キングスは逃げない。誰からもな」
王社長は長い脚を組んで深々と椅子に腰掛けた。
「繰り返すが金城直美は俺の仲間ではない。キングスはこの後、奴の刑事での逮捕が済み次第、民事で訴えるつもりだ」
「は……?」
「キングスのタレントに、ひいては俺の芸能界の
──なんてことだ。
王社長は、自分のために動いた金城直美を徹底的に潰すことで己の潔白を守るつもりなのだ。
兵吾逸平の時のように、世間に対してまたヒーローの役目を演じようとしている。
──許せない。このまま逃すかよ。
俺は、拳を握りしめて、王社長に再び向き合う。
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今回もお読みいただきありがとうございます。
王社長は自分の手は汚していないので、なかなか手強いかもしれませんね。
ただ、彼にあとどのくらいの「駒」が、残っているでしょうか。
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