第67話 楽園へ



「──VIPサイドの身元、もっかい確認したほうがいいよぉ? あと、身体検査ね♡」

 蛇王ルキは告げた。


「……? 再チェックですか? なぜです?」

 眉間に皺を寄せる黒服。

 鈍感クンな彼の顎に指を這わせて、ルキは艶やかに囁く。


「──佐々木蒼が紛れてるから♡」


「……は!?」

 黒服が唖然とした。サングラス越しでも目を見開いたのが分かる。


。知ってるでしょぉ? ウチの元マネ。きっと、この交流会パーティの転覆を企んでるよぉ」


「馬鹿な……。……ちっ。門番は何をしていたんだ……!」

 給仕係の黒服は舌打ちをして、足早にルキの傍を立ち去った。


 …………。

 ……………………。


 …………これで、いい。

 …………きっと、これで、いいんだよね──。





「おほんッ!! ははっ!! こんばんはっ、芸能界のVIPたち!! よく来てくれた!! この私、金城かなしろ直美なおみ主催の『交流会』へ!!」


 俺が入場して数分後。

 金城直美が屹立して、大声で叫んだ。


「今宵お集まりいただいたのは、若きフィクサー、プロデューサー、ビッグネームたち!! 辛く厳しい芸能界を!! ははっ!! けれど少しばかりのを求めている、やんちゃな獅子たちだ!!」


 俺の周りのVIP達、脂っこい目の男達が笑い声をあげる。

 笑えねえよ、と怒りを溜めながら俺は努力して笑みを作った。


「そして!! 今夜もVIP達との交流を求めて、実に華やかな美女たちが集まってくれた!! モデル、歌手、声優、アイドル!! ははっ!! 珍しい肩書では、流行りのVTuberの演者まで!! どうぞ心行くまで!! 呑み、話し!! 深く深く繋がってくれたまえ!!」


 金城直美が、ニッ!! と歯を剥いて笑った。


「それでは!! ここからの流れをご説明する!! まずは女性陣から浴室を使っていただきたい!! ははっ!! 何事にも清潔さは大切だ!! 湯上がり後の女性陣がお化粧を整えているあいだに、次は男性陣が────」


 金城が言葉を止めた。

 見れば、金城の背後から彼の部下らしい黒服がなにやら耳打ちをしていた。


 ──なんだ? どうした……? まさか…………


 じろりと目を見開いたまま、口は歯を光らせて開いたまま、金城直美は突然、ひときわ大きく、笑い声をあげた。


「ははははははははははっ!!!!!!」


 俺だけでなく他のVIPや女性陣も戦慄したのが分かった。

 声量だけでびりびりと視界が歪むかのようだ。

 そのくらいに金城の笑みはおぞましかった。


「──ははっ!! 申し訳ない!! 少し再チェックといかせていただきたい!!」

 金城直美が、ぎろり、とリビングの隅に、つまりはこちらに、目玉を向けた。

!!」



 ────な。

 ────おいおい……



「女性陣は先に予定通りにシャワーを!! ははっ!! その間にVIPの皆さんは、このリビングで黒服たちの身体検査を受けてもらう!!」


 黒服の一人が、玄関のある廊下へ続く扉を閉め、サムターン錠を回した。そのまま扉に立ち塞がる。封鎖された。

 VIPたちにざわざわと動揺が広がる。そんな男たちを、屈強な黒服が囲んでいく。


「徹底的な再チェックの後、問題のなかった方だけ!! 真に招かれた者だけ順番に!! 華やかに香る女の子たちの楽園へ!! 2Fに向かっていただこう!!」

 金城直美の顔は、まるで悪魔のように、爛々と笑んでいる。

「ははっ!! なに、大半の方々には関係のないこと!! それでは!! ははっ!! ネズミ探しを始めようか!!」



 ────────マジかよ。



 俺は、自分が演技を忘れて表情を失っていることに気がつかなかった。




──────────────────────




 今回もお読みいただきありがとうございます。


 蛇王ルキ編、佳境です。

 ここからハッピーエンドがありえるのかどうか。

 最後まで見届けていただけますと……。


 執筆の励みになりますので、

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