第63話 ごろごろどかーんッとブチ落としてやるぜェッ!



『クッハハハハハハハハハァ!!』

 雷神ヴァオが、両腕を広げて高らかに笑う。

『さァ!! どォする佐々木蒼ォ!! 雷神様にお願いしなァッ!! 何をどォして欲しいんだァアアアアッ!?』


「つかれたからなぐさめて」


『おゥよォッ……でぇええええェッ!?』

 俺の弱音に、ヴァオがとんでもない声を出した。

 ヴァオは賑やかでかわいいなあ。

『お……おいッ、佐々木ィ!? お前ッ……それがこの電子の戦争屋ッ、雷神ヴァオ様に頼むことかァッ!?』


「うん」


『プロデューサーとしてのお前の采配センスはどォしたァ!? いや、お前ッ……まさか……ホントに凹んでやがンのかァ……ッ!?』


「うん」


『嘘だろォッ!? おまッ……、地獄時代のオーロラの生き残りがァ、娘っ子一人に、なァに言い負けてンだァアアアアアアアッ!?』


「いいからなぐさめて」


『…………ッ…………!!??』


 雷神ヴァオが目を白黒させる。


 炎上とSNSプロレスがお家芸なヴァオさん。

 優しさを求められた時の語彙は、彼女の中に無いのだろう。


 モニターの中で雷神ヴァオは──すごい精度のモーション・トラッキング精度で──羽織ったインバネス・コートの前をもじもじと握りしめながら赤面した。

 

 黒メッシュの入った稲妻色のショートヘア。爛々らんらんと電気を伴って光る四白眼よんぱくがんをこちらへ向けて、『慰め』を求められた彼女は唇を尖らせて呟いた。


『あァーー……なんだァ、その…………元気だせよッ…………、あッ、みッ、見るか……? その……ヴァオ様の「逆スク水」……────』


「俺ってやっぱりタレントに下心持ってるように見えんのかなぁあああああ!? うわあああああああああん!!!」


 トラウマ(ルキの写真の記憶)をえぐられて俺は机に突っ伏した。


『あァアッ!? な、泣くなよォ、佐々木ィ……ッ!! ち、畜生ォがァ……ッ、こ、これならどうだァッ……!?』


 真っ赤になって目をぐるぐるとさせた雷神ヴァオは、ぎゅっと瞼を閉じると、両手を唇にあて──



『……ぢゅッ!』



 必死の投げキッスを放った。



「か────」

 俺はモニターから放たれた豪雷に全身を一瞬で粉微塵にされ蒸発して消えた。





「──さて、作戦を練ろう」


『……元気になるモンだなァ……?』

 椅子に腰掛け直した俺を見て、雷神ヴァオは、指を額にあてて呆れた。

 その表情は、赤面した「照れ」表情フェイシャルだ。

『まァ、事情はあらかた理解したぜェ? 蛇王の阿呆だらァが悪さ自慢してきて……そンなかにヤベェ写真があったから、さっきの反応になったわけかァ』


「ああ。しかも、黒幕の情報もなにも手に入れられなかったよ。面目ない……」


『クッハハハハハッ! おいおい佐々木ィッ、お前相変わらず、なんでも自分でやろうとしすぎだぜェッ!?』

 雷神ヴァオはギザギザの牙を剥き出して笑った。

『餅は餅屋だッ、暴露戦争は暴露戦争屋だろうがッ? 真っ先にこの雷神ヴァオ様を頼れよッ!!』


「あはは、物騒だなあ」

 彼女の申し出に俺は苦笑する。

「そうは言っても……敵の正体も分からないんじゃ、話は遠いよな──」


『だァからアタシを頼れってッ! 金城かなしろ直美なおみ! それが黒幕の名だッ!!』


 ヴァオの断言に、俺は顔を上げる。

「──っ!? もう掴んでたのか?」


『クッハハハハハハァッ!! ついさっきなァ。アタシの情報網にかかりゃア、こんなモンよッ!!』


 ついさっき、って……。

 そもそもVドリに関する暴露が行われたのも、ものの数時間前だぞ。


「どうやって……」


『なァに、からちょいとなァ、最近、蛇王ルキとお近づきになッてるデカブツがいると聞いてたのよッ! それも、アタシがオーロラを干された時に、兵吾ひょうご逸平いっぺいと一緒に事務所にいたヤツがなァッ!?』


 雷神ヴァオがいう同居人というのは、つまりは彼女の中の人である鍬原くわはら春花はるかのことだ。

 雷神ヴァオは、まるで降霊術か何かのように、中の人と、Vの人格を、使い分けている。


「だから……ああ、もしかして、ヴァオは前々から金城っていう奴を監視してたのか?」


『ご名答ッ!! まァ、なんだァ、本業の都合上、人間界そっちの警察にも知り合いがいるンだよッ。情報の大半はそッからさァッ』

 雷神ヴァオが両手を腰にあてて、堂々と仁王立ちしながら笑う。

『今度の敵はヤバいぜェ、佐々木? なんせガチのアウトロー野郎だッ!』


「アウトロー……?」


『金城直美は、表向きにはフリーランスのコンサルタントだッ。しかし裏ではッ、芸能界の闇を色濃く伝承してるフィクサーの一人よッ!』


「闇? ……おいおい、嫌な予感がしてきたな」


『クハハッ、落ち着いて聞けよ佐々木ィ? その予感の通りだぜェ? 金城直美は、定期的に「交流会」と称した怪しげな集会を開いてるのさァ』


 交流会? 闇の?

 そんなの、内容は一つしか浮かばないぞ。


 俺の内心を読んだかのようにヴァオが牙を剥き出した。

『十中八九、だろうぜェ。胸糞悪ィよなァッ?』


「…………ッ…………」


『金城直美主催の『交流会』にゃァ、各界の有力者が集まってを受けてる。蛇王のバカも、足取りを辿るにホスト側に混ぜられてる可能性が高ェなァ。最近アイツがやけに大型案件を受けられてンのも辻褄が合う……』


 俺は片手で顔を覆った。

「待て。ヴァオ、ストップだ。まだ、そうと決まったわけじゃ──」


『いいや、確定だろッ!? 佐々木も分かってるはずだッ! だからァ、ッ!!』



 俺は怒りに震えていた。



 蛇王ルキ。

 恵まれず、弱くて、それでも真っ当に生きたいと願っていた少女。

 暗闇で必死に支えに手を伸ばしながら、僅かずつでもファンからの愛と、社会への居場所を手に入れ始めていた若い才能。


 その手をとって闇に導いた奴がいる。


 嗤い、舌舐めずりをしながら、糧にしている奴が。

 信頼の価値を忘れ、人の心を踏み躙ることに躊躇いを失くした屑が。


 大人として、粉砕すべき敵がいる。


『さァて! どォするよォ、佐々木蒼ォッ!? 聞いての通りィ、敵は芸能界の闇の体現者だッ! ルールを無視した阿呆だらァ共よッ!!』


 雷神ヴァオがモニターの奥で前屈みになって俺を見据える。

 バチバチと纏う雷が闘争本能そのもののように荒れていた。

 ヴァオは親指で自身を指差して嬉々と叫んだ。


『つ・ま・りィッ!! このヴァオ様の出番ってェことだァッ!! ひとこと許可もらえりャア、ごろごろどかーんッとブチ落としてやるぜェッ!? とびきりどでかい雷神砲をなァッ!!』


「うん。それは禁止ね。ヴァオは大人しく待機してて」


『おゥよォッ任せとk…………でぇえええええええええェッ!?!?』


 ヴァオが再び、とんでもない声を出してひっくり返った。




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 今回もお読みいただきありがとうございます。


 「逆スク水」が「なにそれ」となった方は、『【番外編】V-DREAMERSの日常「エッ…な水着!?」』をぜひお読みくださいませ……!


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