第57話 メンヘラ特有の鬼LINE



 行き違い。

 つまり俺は、新しい依存先に『蛇社員たち精鋭リスナー達』を薦めていたいたのに、ルキはもしかして、『俺』を期待していた……?


「………………」

 ルキが俺を見つめたまま愕然としている。


「あ、いや、ごめんな、俺が言いたかったのはだな……、Vライバーのリスナーさん達はみんな優しいし真摯だし紳士だから、ルキがどんなに重くても面倒くさくても、嬉々として依存させてくれるよーってだな…………」


「………………」


「あの……ルキさん…………?」


「……………………ぐす………」


「あー!! ごめんごめん! もちろん俺にも依存していいよ!? 嫌なわけないじゃん!? 大事な担当Vのためだもんなあ!? いつまででも付き合ってやるさ!!」


「ほんと…………?」


「本当だとも!! いやあ嬉しいなあ!! 天才VTuberに依存してもらえるなんて光栄だなあ!!」


「ぷ、ふふ、はは…………」

 蛇王ルキは緑のアイシャドウに彩られた目に滲んだ涙を拭って笑った。

「……嬉しい。ありがと……佐々木っち……♡」





 ──そして現代。


「いや、やっぱり『一生面倒を見る』とは言ってないな?」


「ま、言葉って捉えようだから……」

 ルキが舌をチロリと出して微笑んだ。


「曲解の自覚あるじゃねえか……」

 俺は額を抱えて溜息をついた。

「うん。でも、あの時、俺がルキを本気で支えたいと思ったのは事実だよ。いつ何時連絡をもらっても応える覚悟でいたし、駆けつけるつもりでいた」


「ルキちゃんのこと……大好きだったんだね……♡」


「タレントとしてな? Vライバーとしてな?」

 プライベートとは無関係。

 そして俺は懐かしさに頬を緩める。

「いやー、それにしてもルキさ、よっぽど寂しかったのか、俺にめちゃくちゃ頻繁にLINE送ってきてたよなあ……」


 あれがLINEってやつかと感心したものだった。


「うーーん……?」

 ルキがなぜか首を傾げて目を逸らす。

 どうしたのだろう?

 気まずいのだろうか?

「あーー、まぁ、最初はね……?」


「最近は大丈夫なのか? 俺がいない後、スタッフさんに鬼LINEとか病み電してメンタルをブレイクさせてたりしないか?」


「ぷふふ……流石にしてないよぉ。ちょっとムキになって、スキンヘッドのオジサン社員に八つ当たりしちゃったくらいで……。そういえばあのオジサン、もう見なくなった。うん、でも、ぜんぜん良い子にしてるぅ……」


「それは何より」

 スキンヘッドのオジサンがいったい誰か知らないが、俺は頷いた。

「でもたしかに、俺と仕事してた時も、ある頃から一気にLINE減ったよな……。なんでだっけ?」


「うーーーーーーん……いやぁ……まぁ……なんでだっけねえ……?」


 ルキがまた気まずそうに苦笑して目を逸らした。

 いったいどうしたんだろう?

 やはり、かつて鬼LINEをしまくっていたメンヘラ丸出しの自分が恥ずかしいのかもしれないな。


 誰にだって黒歴史の一つや二つある。

 触れないでおいてあげるか!





 ──以下、5年前のLINE画面。



ルキ AM3:52

『佐々木っちへ』

『2時間前に送った相談事だけど……』

『さっそく既読無視してるね……』


ルキ AM3:53

『いつでも連絡付き合ってくれるって言ってくれたの嬉しかったんだけど、期待しすぎちゃったかな?』



ルキ AM4:17

『あはは』

『今度は未読無視か』


ルキ AM4:18

『依存がどうとか言ってたくせに、佐々木っちも、ホントはルキちゃんのことどうでもいいんだね』

『よくわかったよ』



ルキ AM4:21

『なんかもう疲れちゃった』

『期待したルキちゃんがバカだった』


ルキ AM4:23

『もういいよ』

『おやすみ』











佐々木蒼 AM4:33

『ルキ、お疲れさま! すまない、返信が遅れちゃったな!』

『ちょっとソラの相談に乗っていたんだ。今から返信をしていくな!』


佐々木蒼 AM4:38

『うん。ルキの相談はだいたい理解したよ!』

『①愛が重いリスナーへの対応の仕方 ②ルキ自身のメンタルケアの方法』

『これらについてだな?』


佐々木蒼 AM4:43

『いい質問で嬉しいよ!』

『さっそくだが俺なりに検討してみて、①に対して13個、②に対して25個、それぞれ解決策を思いついた。

『以下の資料にまとめてみたから、起きたら確認してみてくれ!』


佐々木蒼 AM4:44

『どちらもケーススタディと論文に準拠した方法だから、そこそこな正確性があると思うぞ!』

『このあとも起きてるからいつでも返信待ってるな!^^』


<<佐々木蒼からPDFファイルが4件届きました。>>






ルキ PM1:38

『………………待って、起きたらとんでもないデータ量が届いてるんだけど……』

『あ、ありがとうね、佐々木っち……内容が的確で正直ビビってるよ……』


ルキ PM1:41

『……なんか……軽い気持ちで病みLINEしてごめんね……』

『ルキちゃん調子乗ってたかも……すみませんでした……』


ルキ PM1:42

『あ、あとで読んで返信するね……!!』

『ありがと!!』



佐々木蒼 PM1:43

『おう、了解!』

『悩んでるみたいだったから急いで対応してみたぞ!^^』

『返信まってるなー!』







佐々木蒼 PM19:21

『ルキ、お疲れ様? 昨晩送った資料、どうだった?』

『あと、案件用のボイス、締め切り今日中だから忘れずになー!^^』







佐々木蒼 PM21:30

『ルキ?』

『今日は配信無いはずだから、時間あるよな?』

『資料の件と仕事の締切、確認できたらでいいから連絡待ってるぞ!』








佐々木蒼 AM0:00

『既読になってるな?』








佐々木蒼 AM0:01

『ルキ、資料読んでくれたか? 困ったことがあれば言ってくれ!』

『さっきまでヴァオと通話してたらしいな? 家で一人でタコパ満喫してるって聞いたぞ』

『まだ起きてるだろ。仕事の締切は守らないとな!』

『なあ、大丈夫か?』

『ルキ?』

『返信くれ』

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

『俺はルキの味方だよ!』

『このあとも待ってるから連絡待ってるな!^^』

『案件遅れちゃダメだぞ!』

『大丈夫か?』

『返信待ってるぞー!』

『返信返信返信返信返信返信返信返信返信』

『ルキ、状況どうだ?』

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

<<佐々木蒼から1件の不在着信>>

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 その後、ルキが佐々木に病みLINEをすることはなかったそうな──




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 今回もお読みいただきありがとうございます。


 キングス・エンターテインメント、阿僧田あそだ五蘊ごうんに足りなかった病み。


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