番外編

【オマケ】質問回答「V事務所の設備って?」【近況ノート企画】


※注意※

 今日の更新は番外編です。本編ではありません。

 近況ノートで募集させていただいたご質問への回答編です。

 新編のスタートまで少々お待ちください!



─────────────────────



「佐々木さん! DMに質問きてたよーっ!」


 『大革命』の最中。チーム開闢アリスの事務所。

 俺がPCに向き合っていると、高山たかやま愛里朱ありすがスマホを片手に隣に腰掛けてきた。


「ん、V-DREAMERSブイ・ドリーマーズのTwitterにか?」


「そ! 内容的に小説家さんとリスナーさんからの質問みたいだったよ。これ、回答できる?」


「どれどれ……。ああ、設備についてかあ。確かに見えにくい部分だよなあ」


「実際に揃えてみないことにはねー。で、ど? 回答作れそう?」


「ああ、俺から返信させてもらうよ。V-DREAMERSの理念は『世界一優しいVTuber事務所』だからな。業界に興味を持ってくれる人はみんな同志ってね」


 俺は答えつつ、PCでTwitterにログインしてDMを開いた。





 ──質問:私が書いているVTuber小説で困っていることなのですが、事務所内の設備ってどんなものがあるんですか?



「……ふむ。事務所の設備か……」

 俺は顎に指をやりながら呟いた。


「わたしもVTuberの事務所はあんまり行ったことないけど、実際どうなの?」


「まあ、事務所によって多種多様だよ。でも、どの事務所にも必ずあるものは、いくつか挙げられるな」

 俺はそう言って、まずは、と人差し指を立てた。

「まずはもちろん、『モーションキャプチャー設備』だ。大きい事務所だとハイエンドなシステムを──いわゆるモン◯ンとかハリウッド映画とかでも使われるようなガチ設備を導入しているところもある。いちばん有名な最高級機材は、やっぱりVICONバイコンかな」


「あー、それ知ってるっ! あの、体育館みたいな部屋中にカメラがあって、もじもじくんみたいな格好のアクターさんたちが動き回ってるやつね。モ◯ハンのラージャ◯のメイキング動画、見たことあるよっ!」


「まさにそれだ。精度は物凄いけど……めちゃくちゃ高価たかいんだよなぁ……。カメラだけでウン百万円もするし、それを何台も備えて、しかも広いスペースを確保して、防音設備まで揃えないといけないから……ぶっちゃけ本気で用意しようとしたら最安値でも数千万円から1億円は超える」


「い、1億…………」


 それだけの設備を揃えている最大手事務所たちには、本当に敬服せざるを得ない。

 億を超える金額を配信の質をあげるためだけに買うのだ。

 VTuberに命をかけた一世一代の投資だ。


「小規模〜中規模の事務所だと、もっとお手軽な機材を使っているケースが多いかな。2Dキャラを動かすだけなら、LIVE2Dを制御できるゲーミングPCが一台と、顔面フェイシャルをキャプチャーするiPhoneがあれば事足りるし。Webカメラだけで体の動きをそこそこ捕捉ってくれるソフトもいまは多いからね。で、問題は低予算で3D配信をしたい場合だけど…………さて、愛里朱、V-DREAMERSうちの配信スペースには何の設備がある?」


「えーっとねえ……」

 高山愛里朱が身体をぐーんと猫のように伸ばして、配信スペースを覗き込んだ。

「3Dのキャプチャーツールならmocopiモコピとぉ……あとはぁ……」


「あとは?」


「………………ば……いぶ…………かなっ!」


「……ん?」


「ば……、VIVEヴァイヴ…………かなぁっ……!」


「VTuber業界人でVIVEヴァイヴ読むの恥ずかしがってるやつ初めて見たわ……」


 なに赤面してんだ。中学生男子か?


「HTC VIVEな! 要するにヘッドマウントディスプレイだ。トラッカーを身につけて、センサーを部屋に備え付ければ、精度はともかく全身をキャプチャーできる。中規模以下の事務所だとこれで間に合わせているケースが多い印象があるな」


 価格も、部屋にしっかり揃えてもPC含めて100〜200万円くらいに収まるはず。かがくのちからってすげー!


「で、あとはモーションキャプチャー設備からの信号を制御するPCと、YouTubeへの配信を管理するPCがあれば、最低限はていを成すな。より贅沢をいうなら、たくさんのカメラからの映像をボタン操作で切り替えていく『スイッチャー』が入っているケースもあるけど、投資しはじめると天井はないからなあ……」


「なりたい自分になれるのは最高だけど、ちゃんとするとお金かかるよねぇ……」


「うちの場合は本当にアイリス・アイリッシュさまさまだよ」

 俺は苦笑する。

「で、モーションキャプチャー設備に続いて、セットで無いといけないのは『音響機材』だな。ライバーさんが耳につけるマイクとイアモニ。それらを制御するミキサー機材。ASMR用のバイノーラルマイクが置いてあるスタジオも多い」


「ASMRいいよねー! えちちな耳かきとか、モッパンとか、好きだ……」


「完全に同意。あとスタジオに関していうなら、モーキャプ用の『装備品』の数々かな。全身を覆うスーツもそうだし、カメラが追うトラッカーもだし。女の演者さん用のヘアピンとかも常備されてたりするね」


 以上が、だいたいスタジオの全貌だ。たぶん。

 えーっと……、と俺は唸る。


「他には……何があるかなあ……? 愛里朱、うちだと何があるっけ?」


「ちょっと待ってねー? えーっと……。あっ! このまえウタちゃんが持ってきたイタイワニーがあるよ! あとドンキで買った嘘発見器でしょー? 黒縁ぐらす先生が持ってきてくれたタコパ用の鉄板でしょー? ヘリウムガスでしょー? デスソースでしょー?」


「玩具箱だな。掃除しなきゃだ……」


 Vの事務所、たくさんの企画をやるから、『ネタグッズ』で散らかりがちだ。

 事務所に転がっているペンがいつのまにかビリビリペンになっていることもある。

 飲み物が激辛になっていることも。

 これに頷ける人は、きっと同業者だろう……。


「あはは! だんだん家の中がドンキみたいになっていくねっ! あとは椅子とー、机とー、防音マットくらいじゃない?」


「まあ、撮影スペースはそんなもんか。そして……うちの場合は『執務室』ってないからなぁ……作業できる場所は愛里朱たちの生活スペースしかないし…………」


「佐々木さん最初は緊張してたよねえ」


「そりゃあねえ……? もちろん、普通の事務所だったら、スタッフたちが勤務している『執務室オフィス』がちゃんとあるよ」

 俺はその旨をDMでの返信用にテキストにまとめていく。

「とはいっても、オフィスはごくごく一般的な見た目だな。机があって、PCがあって、会議スペースがあって、ホワイトボードがあって、ウォーターサーバーがあって、休憩用のソファがある感じ。オーロラ・プロダクションの場合はたまにライバーたちがしゅうげ──いや、労いにきてくれることもあったけど、基本的にはスタッフ専用の静かな仕事空間だった」


 夢と現実。撮影スタジオと執務室は、まさにその象徴だった。


現実的リアルだねえ。残業多そう。他はどうなの?」


「うーーん……他かぁ……? 細かく見まくればいろいろ特徴があるんだろうけど、特筆すべきものってあるかなあ……?」

 俺は腕を組んで唸ってから、ふと思い出して言った。

「あー、すごく強いて言うなら、あとは『』かな……?」


「自慢?」


「自慢っていうか……宣伝っていうか……ブランディングっていうか……」

 俺は苦笑する。

「いや……一番近い表現は『』かな……」


「あははっ! なにそれ?」


「要するにさ……VTuber業界の組織や業界人は、みんな、結局のところ、自社のVたちが大好きなんだよ」

 俺はなかば自白めいて、照れながら述懐する。

「だから、だいたいの事務所の入り口には、自社に所属しているVたちのグッズが置いてあるんだ。ライバーさんの立ち絵のパネルとか、サインでびっしり埋まった壁とか、ライバーさんのオリジナル曲のMVや自己紹介が無限に流れ続けてるモニターとか、フィギュアとかCDとかさ……。名目上は、自社の商品というかタレントたちのアピールだけど、正直、運営側もいちばんノリノリで準備している感があるね」


 夢と現実の境界線。その上に立つ業界だからこそ、働く誰もが夢をみている。

 遊びと仕事の境目も曖昧なのが、この業界の魅力でもあるのだった。


「へー! いいね! 楽しみながら働けてさっ!」


「ま……逆も然りなんだけどな……休日も仕事に侵食されていくし……」


 話が悲しい方向に逸れそうだ。

 以上。設備編。





 ──質問:経費とか設備費用とかどのくらいかかるのですか



「お金は不可分だよねえ、この話題には」

 高山愛里朱が次の質問を見て頷いた。


「設備費用は、さっきの回答の固有名詞を実際に検索してもらうとでるから割愛するとして。『経費』かあ。なにに費やされてるかなあ……」

 俺は手元に、チーム開闢アリスのしっかり者こと斉藤操ソウちゃん

がまとめてくれている経営資料を開く。さらに心の中では、前職のオーロラ・プロダクションでの経理処理の記憶を掘り起こした。

「……まあ、いちばん重いコストは、間違いなく『人件費』だろうな……。VTuberやスタッフのお給料ががっつり払われてるから……。配信にお金がかかる! って言っても、そのうちわけはほとんど全部が、エンジニアとか企画者とか、配信をサポートするスタッフの人件費なわけだし」


「あはは……、単純計算でも社会人一人ぶんの年収が会社にとっては必要経費なわけだからねえ。一人雇えば何百万円、二人で倍、十人いたら……って事で。えへへ、冷静に考えると経営ってヤバいねっ!☆」

 わろてる場合か。

 払う側なんだぞ俺たちは……。


「あとは、そうだな、構えている事務所の規模が大きければ大きいほど、『家賃と設備の維持費』がかかる。これはピンキリだけど、ネットで不動産屋のページをみて事務所として使っていいビルを調べると、現実が知れるよな」


 みんな大好き秋葉原なら15坪で毎月20万円とか。

 渋谷とかなら倍はするハズだ。こわいねえ。


「あとは、アレだな……。『スパチャの手数料』!!」

 俺は叫んだ。

「YouTubeは投げ銭の金額から30%を手数料としてもっていくんだ。これがデカい。あまりにもデカい! さらにだ、スパチャを投げてくれる神様みたいなリスナー様が、もしiPhoneとかのアプリで投げてくれていた場合……それに加えてAPP Storeの手数料も引かれるから……ライバーとスタッフを潤してくれる手取り額は半分以下になってるぞ。これも大いに経費だなあ」


 スーパーチャットをしている神様たちは、ぜひPCから投げてあげてくれ。

 みんなが幸せになるぞ!


「挙げはじめるとキリがない雑費はいっぱいある気がするけど、まあ、ざっとこんなところかな! あくまで俺の所感での回答だから、正確さへの期待はほどほどにしてもらえると助かります──っと」


 俺は予防線をはりまくる。

 そして最後に、こうまとめさせていただこう。


「みんなあ! 推しへの課金は惜しむなよっ!! みんなのお金勇気が業界を支えているぞっ!!!」


「あはは、誰に言ってるの、佐々木さん……?」




(おしまい)


──────────────────────




※注意※

 あくまで個人の所感での回答です。

 ご参考程度にお楽しみいただけると幸いです。


 今回もお読みいただきありがとうございます!

 ご質問くださったmokano様、@mirage_1様にも感謝を!


 以下の近況ノートでご質問やリクエストを募集していますので、よろしければぜひコメントくださいませ。

https://kakuyomu.jp/users/sasakiao/news/16817330662859214025#comment-16817330662860316236


 執筆の励みになりますので、引き続きフォローや★★★や❤︎で応援いただけますと嬉しいです。

 どうぞよろしくお願いいたします!




【追記】

2023.09.06現在

 コメントでご指摘いただき修正を行いました。

 >ASRM→ASMR

 誤字を教えていただきありがとうございます!



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