【番外編】V-DREAMERSの日常「エッ…な水着!?」①



「あ、そういえば、夏が始まるので開闢かいびゃくアリスの『水着モデル』を作ってみたでーす」



「「────────有能か?」」


 ピンクのジェラピケもこもこエンジニアっこと、歌川詩ウタちゃんの何気ない宣言に、俺と高山愛里朱は即座に反応した。


 チーム開闢アリスのスタジオだった。

 登録者10万人記念祝賀会を夜に控えた昼間。諸々の雑務を夜までに終えてしまおうと作業していた手を、主力2人がぴたりと止めた。


「夏が始まるから水着モデル……?」

 ポロシャツにスラックス姿のクールビューティ営業っ娘こと、斎藤操ソウちゃんが、顔をしかめて台所から戻ってくる。

「それがあるとどうなるんです?」


「知らんのか」

 俺はタバコは無いけどハードボイルドな顔で振り返って言った。

「──すけべが始まる」


「BANされる気ですか?」


「どうなるんですかーって? 言わせないでよソウちゃん恥ずかしい」

 高山愛里朱もこの上なく凛々しい顔で言った。

「夏が始まると、おれたちの夏が始まるんだよ……」


「循環参照? ウタ、こいつエラー吐いてる。なんとかして」


「市販のいくつかの水着モデルのデータを買って、開闢アリスの3Dモデルデータにフィットさせてみたです」

 ウタちゃんは無視してパソコンをいじっている。

 眠たげなタレ目でこちらを振り返って。

「大人しいデザインが多かったから、個人的にもひとつ改造したのを作ってみたです。見たい人ー?」


「「見たーい!」」


「えぇ……。不埒なのはやめませんか……?」


「なーに恥ずかしがってるのよソウちゃんっ! ソウちゃんがむっつりさんなのは知ってるけどさ? VTuberは新世代のアイドルなんだよ!? エッ……なものを拒否ってどうするのっ!!」


「ねえ、佐々木さん。高山社長のこれってセクハラに該当しないんですか?」

 ソウちゃんがあまりにも正当なツッコミを放り投げてくる。

「っていうか誰がむっつりだよ。不埒な衣装を着ることになるのは、あんたなんだからね……?」


「ほいほい集まってー。3Dモデルの衣装切り替え、いくよー」


「「お願いしまーす!」」「はあ……」


 ウタちゃんの呼び声に従い、うっきうきでPCの前に正座する俺と高山愛里朱。

 PC画面の中では、何も知らない顔で、開闢かいびゃくアリスの3DモデルがTポーズ(脚を揃えて両腕を横に伸ばした状態の基本姿勢)で佇んでいた。

 そして。

「えーい」

 ウタちゃんがキーボードを操作すると──



 ──パッ、とモデルがブレたと思えば、開闢アリスの衣装が大胆な空色のビキニに変化した。



「「えっちです!!」」

 俺と高山愛里朱が大声で絶叫した。拍手もした。絶賛だった。俺なんかもう感動しちゃった。

「ちょ、ちょっと派手すぎない……?」

 ソウちゃんが手で顔を覆いつつも、指の隙間から画面を凝視しながら、真っ赤になって呻いている。

 まあ、派手といえば派手だが、二次元キャラにならこのくらいの夢を抱いても構わないだろう……?


 開闢アリスの白い肌。背中に流れる金髪がきらきらと美しい。

 大きすぎず小さすぎずなアリスの「おむね」をブルーの水着が包んでいる。

 VTuberにしては普段の露出がやや控えめぎみな開闢アリスの、貴重なおへそも尊かった。

 冒険者というコンセプト故か、きゅっと引き締まったお尻と脚も健全で魅力的だ。


「うう……眩しい……これが二次元の向こう側の景色……。このキャラが動いて俺と喋ってくれるっていうんだから……ああ、やっぱりVTuberって最高だよなあ……」

 俺は感涙を拭った。

「すっごくかわいいーっ! アリスやっぱりスタイルいいなーー! しゅきーっ!!」

 開闢アリスのパイロット、魂こと高山愛里朱もご満悦だ。


「喜んでもらえてよかったでーす。ほい、それじゃあ次のモデルをっと……」

 ウタちゃんがキーボードを操作した。

 すると、また、パッ、とモデルがブレて──



 ──開闢アリスの衣装がに変化した。



「スク水……ツインテール……だとッ──!?」

 俺は驚愕する。青天の霹靂だ。

 天啓的だった。でかした、ウタちゃん……。


「こ、これは、HENTAI感があるねえ……っ?」

 筋金入りのオタク。だいたいのメジャーな特殊性癖の理解者であり消費者たる、さすがの高山愛里朱も若干動揺していた。

「な、なんだろな……!? いままで自分が演じた美少女キャラがマニアックな衣装着てても『公式が優秀すぎる……ッ! 感謝……ッ! 心から感謝……ッ!!』くらいにしか思わなかったけど、あれだね? 自分自身の分身が着せられると、ちょっと、クるものがあるねえ……っ!?」


「あわわわ……あわわわわ……」

 ソウちゃんは手から覗き見ながら震えていた。

 それってどんな感情なの……?


「リアクションしてもらえて嬉しいですねー。はーい、それじゃー次でーす」

 ウタちゃんが指を高々と掲げて、「えーい」とキーボードに落とした。

 ターンっという音と共に、パッ、とモデルがブレて──



 ──開闢アリスの衣装が、に変化した。



「危なぁーーーーいっ!!!(?)」

 クールビューティ女子、ソウちゃんが大口で絶叫した。事故現場か?

 叫びながらも相変わらず指のあいだから画面を凝視している。


「ちょちょちょちょちょ──!? ちょっとぉぉおおおおっ!?」

 高山愛里朱も真っ赤になってモニターを遮って喚いた。

「こっこっこっこっこれはナシでしょおっ!? えっちとかいうレベルじゃないじゃんこれぇっ!? だ、だって、これっ、み、み、見え…………」


「モデリングされてないんだから見えるわけないでしょー。まあ、そういうモデルもあるけどねー」


「こーれは流石にダメだってぇっ!! ねえ佐々木さんっ!? BANだよねえコレぇっ!?」


「………………………………ありがとう────」


「うわ、泣いてる……」


「俺たちの夏……終わらない夏の夢……」


「佐々木さん、しっかりしてよっ!! これはダメだよぉーーっ!! 配信したらさっすがに逮捕だよっ……! てか見ないでっ! だ、誰か佐々木さんの視線なんとかしてーーっ!!」


「た、高山がアテレコしたら……? 佐々木さん声フェチだし、殺せるかもよ」


「確かにね!? よっしゃまかせろォ!! ……うん゛っ、げほっ、お゛ほんッ! あ゛ーーっ、あーーっ、あーー、あーー……」

 高山愛里朱が喉に手をあててチューニングをする。

 がしり、とマイクを掴んで、プロの声を発した。

 開闢アリスの表情と口を借りて、彼女が喋る。



「──さ、佐々木プロデューサー……。あ、あんまり……見ないで……欲しい……。は、恥ずかしいよぅ……♡」


「か────」

 俺は全身から光を溢れさせ、その直後に爆発四散した。




(つづく)




──────────────────────




 今回もお読みいただきありがとうございます。


 夏ですねえ。


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