【番外編】V-DREAMERSの日常「エッ…な水着!?」②



「はぁっ……はぁっ……まっったく……っ……!」


 高山愛里朱がキーボードをいじって、開闢アリスの衣装を通常のドレス姿に切り替えた。

 PCの手前では、さすがに怒られたウタちゃんが社長チョップに沈められていた。


「……ウタちゃぁーーん? おふざけが過ぎるぞー? 人様のお洋服を勝手にえちえち衣装にしちゃダメって義務教育で習ったでしょーーっ!?」


「習ってないし……合意、してた、ですー……」


「2人とも静かにして……! いま佐々木さんを再起動させてんだから……!」


 床にコナゴナになった俺の自我をソウちゃんがかき集めてもとに戻していく(※訳:ぶっ倒れた身体を壁にもたれかけさせて、鼻血を止めてスポドリを飲ませてくれました)。

 懸命な救命措置によりなんとか一命をとりとめた俺は、壁にもたれかかって荒い息をする。

「げほっ、がはっ、ぐっ……、さ、さすがは高山愛里朱……Vドリの代表の本気は違うな……」


「やかましいわ」


「ふっ……。いやぁ、ウタちゃんの改造モデルもさすがだったなぁ……。常軌を逸したエチさだったぜ……」


 俺の称賛にウタちゃんは首を傾げた。

「うん? 改造? いま見せたモデルは、ぜんぶ市販ですよー」


「ほえ」


も見ますかー? ちょっと待つでーすよー」

 カーペットから起き上がったウタちゃんが再びPCに向き合った。


 ──え、待って?

 ──さっきの過激さで、まだ改造じゃないの?

 ──同人3Dモデラーの倫理観どうなってるの?


 っていうか、ウタちゃん、なんて言ってたっけ?


 ──市販のいくつかの水着データを買って、開闢アリスの3Dモデルデータにフィットさせてみたです。

 ──大人しいデザインが多かったから、個人的にもひとつ改造したのを作ってみたです。見たい人ー?



 つまり、もっと過激なのがある……ってコト──!?



「ちょ、ウタちゃん……」と俺は手を伸ばす。

「ま、待って、ウタ……!」と愛里朱も震えた。

「と、止まれ……!」ソウちゃんも絶句する。



「……あったあったー。さっきのスク水モデルを眺めてたら、昔SNSで流行ってた『逆バニー』っていうアイデアを思い出したんでーす。バニーガールの衣装の、布のないところに布があって、布のあったところに布がなくなってるやつです。……で、さっきのスク水モデルをいじって作ってみましたー。これでーす」

 ウタちゃんがキーボードを操作する。

 パッ、とモデルがブレて、開闢アリスの衣装がに変化した。



「ウタ特製の『』でーす」




「「「ぎゃぁぁああああああああああっ!?」」」




 俺は鼻血を吹き出して卒倒した。

 ソウちゃんも痙攣しながらひっくり返る。

 ぎりぎりで自我を保った愛里朱だけが、リンゴのように赤い顔で震え散らかす。


「無理無理無理無理無理っっっ!! じ、自分の分身に……アリスにこんなの着せられないって!! ダメだよこれR18じゃん完全にっ!?」


「えー、ぎりぎりR15だよー?」


「大した変わらないよぉっ! 臨界点超えてるよぉっ!! モーキャプするほうの身にもなってよぉ!!!」

 高山愛里朱がわんわんと泣きだした。

「えちちな格好、世の女の子キャラたちだとあんなに嬉しいのに、自分ごとになると急に恥ずかしいよぉー! もうやだぁ゛ーっ!! 顔熱いよぉ゛ーーっ!!」


「む」

 ウタちゃんが真面目な顔でむくれた。

「さっきからその反応はなのー? モデル自体が嫌なんじゃなくて『アリスが着てる』のが嫌って反応? モデラー的には引っかかるなー」


「うぇ……っ?」


「衣装自体は好きってことー? それならウタの作品が評価されてるからいいんだけどさー。じゃあに着せて見てみるー?」

 ウタちゃんがPCをいじりだす。

「この前所属したD、預かってるよー。ヴァオさんに着せてみよっか? 愛里朱、見たいー?」


 青天の霹靂。

 ウタちゃんに問われて、何を訊かれたか分からなかった高山愛里朱は十数秒も沈黙した。

 見たいか、だって?

 雷神ヴァオちゃんの、えちちな格好を?

 ──倫理。道徳。一般常識。

 ──礼儀。人道。貞操観念。

 この世のありとあらゆる神聖不可侵な規範を頭に想い浮かべた後、高山愛里朱は己の信念に従い、静かに答えた。



「──────────────うん、見ゆ……」






「ごめんください、鍬原です」


 雷神ヴァオの中の人。

 カフェ店主にして私立探偵にして暴露系Vライバーという三足草鞋さんぞくわらじのお姉さんこと、鍬原くわはら春花はるかが訪問してきた。

 かちゃり、と軽快に、笑顔で生活スペースの扉を開ける。

「申し訳ありません、少々手土産が多くなりすぎまして、勝手にあがらせていただきました。今日はお招きいただき誠に──」


「「あっ」」


 高山愛里朱と歌川詩ウタちゃんが振り返る。

 ヴァオの眼前。生活スペースには、佐々木蒼と斎藤操ソウちゃんの2人がのびていた。

 そして、愛里朱たちがガン見していたPC画面には、いままさにあられもない服装にされた雷神ヴァオが映っていた。


 刹那の沈黙。

 ほんの一瞬だけ、雷神ヴァオは一切の感情の無い冷徹な瞳を見せてから。


 にこ、と仮面めいた微笑みを浮かべた。

「──お二人は、いったい何をされていらっしゃるので?」


「──これは違うんですぅ……」


 その後。

 佐々木蒼が目覚める頃には、半泣きの高山愛里朱と真顔で停止したウタちゃんだけが残されていたとか。




(おしまい)


──────────────────────




 今回もお読みいただきありがとうございます。


 いい話だなあ。


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