第44話 主人公系VTuber「開闢アリス」の場合②



 着実な成長を続けるアイリス・アイリッシュと、敏腕プロデューサーとして成果をあげていく如水じょすい二郎じろう氏。


 二人のコンビネーションは、年月を重ねるごとに完璧になっていった。


 アイリスと如水氏に非がないにも関わらず、のは──

 ひとえに経営陣の怠慢と、経費の無駄遣いが原因であったらしい。





『ふざ……けるな……ッ!』


 もはや「新人」を卒業し、課を率いるエースになっていた如水二郎氏は、経営破綻を知るや、経営陣に掴みかかるほどに激昂した。

 だが、あわや殴られそうになってすらも経営陣たちは無気力に首を振るばかりだったそうだ。

 彼らはとうに、自らの無能を悟り、腐りきった後だったのだろう。

 ──殴るなら殴れ。俺たちは逃げる。

 そんな意思決定が、取り返しのつかないレベルで完了していた。


『くそ……こんなことが……』


 マネージャーたちの解雇と、成果を出せないタレントたちの契約解除が、一斉に行われた。

 クビをまぬがれた優秀なマネージャーほど、タレントを見捨てて、さっさと転職をしていった。





『如水くん、大丈夫?』

 高山愛里朱──すなわち声優アイドルのアイリス・アイリッシュは、16歳になっていた。


『……アイリスか。どうした……?』

 スカウトで出会い、毎日活動を共にするようになってから4年が経つ如水二郎氏は、ひどくやつれていた。


『目のクマ、ひどいよ? 寝てないんじゃないの』

 高校生になり、気遣いを覚えつつあった愛里朱は、作り笑いを浮かべながらマネージャーに声をかけた。

『ん? それって朝ごはん……? あはは、ダメだよ如水くん! そんなお菓子じゃなくて、もっと栄養あるもの食べなきゃ──』


『要件は?』

 如水二郎氏の声に温度は無かった。


 彼は目に見えて余裕を失っていた。

 同僚たちが相次いで辞め、たくさんのタレントを彼自身が一人で管理するようになったからだ。


 睡眠時間は減り、対応は粗くなっていた。


『要件か……』

 愛里朱は努めて笑顔を保ちながら言った。

『……要件はね、昨日のお仕事についてだよ。新しいアニメの現場。挨拶と収録のこと』


『──……っ! ああ……っ……、なんてことだ……! 八野監督の現場は昨日だったのか……!?』

 如水二郎氏は心の底からショックを受けていた。

 あろうことかアイリス・アイリッシュの仕事を失念していたのだ。

『すまない……っ、アイリス、言い訳もできない……、まさか君のことを、私は……──』


『違う。責めてないよ、報告したかっただけ! 挨拶も収録も一人で無事にできたから!』


『しかし──』


『如水くんさぁ、わたしもう16才だよ? 子役でも無いし、キャリア的にも新人じゃないからさ、心配しないでよぅ!』

 愛里朱は明らかに過労のマネージャーの肩を、くいくいと肘で押した。

 そして露骨に蠱惑的なポーズをとり、おどける。

『てかさ、最近のわたし、正直どう? 大人になったくない? いっそグラビアとかやっちゃう? キラキラぴちぴちの現役JK天才声優の写真集とか、出版っちゃう?』


『…………』

 悲痛そうな面持ちのまま、如水二郎は眼鏡を外し、指で目を覆った。

『すまない……。気合いを、入れ直すよ……』


 如水氏の周りに、がらの悪い男たちが現れ出したのはこの頃だった。

 この後、彼は徐々に「闇」に手を染めることになる。




──────────────────────




 今回もお読みいただきありがとうございます。


 40話以上書いてきて、

 やっと高山愛里朱という人物を掴めだした気がします。。。

 小さい頃から騒ぎたがりでは、あったんだなあ。


 執筆の励みになりますので、

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