第47話 ボン・ヴォヤージュ(よい旅を)



 ──革命24日目、チャンネル登録者61,010名。



 この日付以降、特筆すべきことはあまり無い。


 いや、あると言えばあるし、むしろ途轍もないことばかりたくさん起こったのだが……


 俺にとって、この「大革命」の期間中、最も大きなできごとは高山愛里朱の過去を理解したことだった。だから残りは、かいつまんで知ってもらう程度でいいだろう。



 ──例えば、高山愛里朱と夜中に会話をした翌日のこと。



「すごい……切り抜き動画でいっぱいだ……」

 目が覚めた斉藤操ソウちゃんは、スマホに張り付いて驚愕していた。

「これは……すごいんじゃない……? すっかり大人気VTuberじゃん……!」


 切り抜き動画とは、生放送の一部を短くクリップして、要点をまとめた動画のことだ。


「ほんとだ……! いつの間にこんなにたくさん……っ!?」

 高山愛里朱もそれを見て驚いている。


「「ふっふっふっふっ」」

 逆に、彼女たちの様子を見てほくそ笑むのは俺と歌川詩ウタちゃんだった。


「……ん、なに?」「……え、気持ち悪……」


「ネタバラシをするとさ、その切り抜きチャンネル達のほとんどは俺とウタちゃんが運営しているものなんだ」


「「……ええっ!?」」


だよ。開闢アリスの配信は観られさえすれば面白いんだ。だから、俺とウタちゃんは夜な夜な配信を投稿を繰り返してたわけ」


「ファンのフリをしてそんなことまで……」

 ソウちゃんが感嘆する。


「あ、だから遅くまで起きてたんだぁ」

 高山愛里朱も、ちょっとだけ照れ臭そうにする。


「そゆこと。そして計画通り、アリスの面白さに気づいた他の切り抜き師たちも群がってきて、いまや開闢アリスの切り抜きチャンネルは15チャンネル以上ある! こうなれば勝ち確だ!」

 これで開闢アリスは、ある種の「ブーム」に昇華された。

 1日3,000名以上の登録者増加ペースも維持できてる。このままなら、月内には……





 ──革命25〜39日目。



 とにかく、いろいろなことがあった。


「副業のVライバーとしての名前は『雷神ヴァオ』。この度はお世話になりますね」

「「え゛え゛ぇ゛ぇ゛え゛え゛ええええええええ!?」」

 登録者500,000超えの雷神ヴァオが、V-DREAMERSブイ・ドリーマーズに電撃加入したり。



「おつぐらす〜〜〜〜っ! ということで、今回のゲストはぁ、人気急上昇中のVTuber、開闢アリスちゃんだよ〜〜〜〜っ!!」

「いえーーーーい! こんばんはーーっ! アリスだよーーーーっ!!」

 黒縁ぐらす先生とアリスがコラボをして、お絵描き+アテレコの珍配信を成し遂げたり。

 その配信の中で、「いや〜〜〜〜、ぶっちゃけ先生ねぇ、アリスちゃんには本当に感謝してるんよ。先生のスランプを助けてくれたのは他ならぬアリスちゃんだからさ〜〜〜〜〜」と発言してくれたお陰で、『開闢アリスいい人説』がちょっとした通説になったり。


 いろいろなことがあったので、俺は、作戦のフェーズをひとつ先に進めることを真面目に検討しだしてしまった。





「そろそろ、かもな……」

 そう。

 実は、まだリスナーたちに伏せてあるカードがあるのだ。

 新進気鋭のVTuber事務所「V-DREAMERSブイ・ドリーマーズ」。

 その運営母体が開闢アリスであることは、まだ非公開になっていた。

 それに、雷神ヴァオが所属したことも、まだリリースしていなかった。


 古のネットから変わらず、日本では、


 株式会社V-DREAMERSブイ・ドリーマーズの発表のタイミングを俺は見計らっていた。





 ──革命40日目。チャンネル登録者99,999名。



 開闢アリスは大手VTuberメディアの取材を受けていた。

 ビデオ通話で繋がった画面の向こうから実写の記者が笑顔を向けてくる。


「それでは最後に、開闢アリスさんに今後の展望を教えてもらいたいと思います。アリスさん、これから先はどのような活動をしていきたいですか?」


「はい! わたしには叶えたい大きな夢があるんですっ!」

 2Dモデルの姿で画面に映る開闢アリスが笑って言った。

「VTuberの活動は、正直、楽しいことばかりではありません。キラキラの夢と、厳しい現実と、どちらとも戦わないといけない世界です。それでも! わたしはこの活動の楽しさを、もっともっとたくさんのライバーたちや、リスナーさんたちと共有したい!」


 だから、と。

 開闢アリスは空色の瞳で未来を見据えて言った。


「だからわたしは、いつか『世界一優しいVTuber事務所』を作ります! みんなが笑って、夢も現実も、もっともっと楽しめるようにっ!」


「なるほど……それは、とっても素敵な目標ですね」

 記者は感銘を受けてくれただろうか。

 穏やかに何度も頷いて、微笑みを向けた。

「今日は本当にありがとうございました。それでは最後に、視聴者のみなさんにご挨拶をお願いいたします」


「はーい! それでは旅人さんたちっ、また次の白昼夢で会いましょう!」

 まばゆいばかりの笑顔を向けて、アリスは手を振った。

「夢と現実のあいだ、白昼夢はくちゅうむの国を旅する冒険少女! 開闢アリスでした! よい旅をボン・ヴォヤージュっ!」





 アリスの想いはインターネットに乗って世界に発信されていく。

 将来交わるかもしれない誰かの物語に、いつかポジティブに届くことを願うしかない。


 ──少しだけ自分語りを許してほしい。

 ──俺は、時折、こう思うことがあるのだった。



 もしかしたら、この世界はフィクションなんじゃないかって。



 この世界には、誰かのために書かれた筋書きがあって、いまこの瞬間も、あらゆる出来事は全て、誰かの幸せのために起きているんじゃないか、って。

 そして今、もしもこの世界に物語があるのなら。

 開闢アリスこそが、きっと──





 ──革命41日目。

 俺と愛里朱が出会って約1ヶ月半がたった日。


 開闢アリスは、ついにチャンネル登録者100,000名を達成したのだった。




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 今回もお読みいただきありがとうございます。


 アリス編のテーマは『夢と現実』です。

 エンタメ業界を語る上では、必然的に、これがずっとテーマになっていきますね。


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