第42話 大革命!④
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──革命20日目、チャンネル登録者42,474名。
俺たちは「温泉」にいた。
「はい注目ッ! みんな、昨日は本当にお疲れさま! この1ヶ月、みんなの頑張りのお陰で開闢アリスは急成長できたぞ! すごーい!」
俺は、チーム開闢アリスの3人を都内文京区の大型スパ施設に連れてきていた。
白い砂のような色の床。
点在する雲のようなソファ。
バリ島めいた館内で、館内着に着替えたラフな3人を前に、俺は引率の先生かのように向き合っていた。
「まぁ昨日の記念配信……まさか予定を超えて3時間も歌い続けるとは思わなかったけどな……」
「
ジェラピケなパジャマからハワイアンな館内着に着替えたウタちゃんが、ソファで溶けている。
「高山が調子にのって勝手するから……」
同じく半袖半ズボンの館内着のソウちゃんが、やれやれと呆れたように首を振った。
「こ゛め゛ん゛って゛ーっ! た゛って゛ぇっ! 楽゛し゛か゛った゛んだも゛ーん゛っ!」
声がガラガラになった高山愛里朱が、泣き笑いのような顔で喚いた。
昔のドラえもんかな?
「まあ、あの超ボリュームな配信の余韻でチャンネルは今も伸び続けてるよ。一日くらい休んでも成長は止まらないな」
俺は手を叩いて、3人に指示を出す。
「というわけで、今日はお休みっ! ずっと休み無しだったからな。みんな、温泉とサウナとエステでしっかり疲れをとってくれ!」
「「「はーい!」」」
きゃいきゃいと風呂場に向かっていく若い女子たちを眺めながら、俺も清々しい気持ちで背伸びをした。
「う゛ーんっ……! 久しぶりの休日だぁっ!」
嗚呼。
たまの休みなのだ。
俺も風呂に入って、館内着でも着よう。
ジュース片手に、時間に追われずにのんびりと──
「──のんびりとマイペースに仕事でもするかぁ!」
楽しみだなあ!
晴々とした俺の顔に偽りはない。
実は俺は仕事が大好きなので、もう、タスクをぷちぷちと潰していくのが人生でいちばんの快楽なのだった。しごとたのちい。
いま思えば、この時、俺も少し疲れが溜まっていたのだと思う。
体力はあるほうだし、体調を崩すことなど無いのだが。
ちょっとした油断が、後日の奇妙な時間を生んだのだろう。
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──革命23日目、チャンネル登録者55,003名。
「……ん。んぐっ……!? やばいっ、寝てた……っ!」
俺が身体を起こすと、そこは、真っ暗な高山愛里朱の撮影スペースだった。
いつのまにかタオルとクッションが敷かれた床に俺は寝かされていて、身体にはタオルケットがかけられていた。
「っ……いま何時だ……?」
開きっぱなしのPCを見る。深夜3時過ぎ。外も真っ暗だ。
どうやら、とある仮説用の動画を編集しているあいだに寝落ちたらしい。
当然に帰宅を逃している。
つまり、ここは──
「……やってしまった……」
俺は銀髪ポニーテールのウィッグごと頭を抱えた。
つまり俺は、薄い扉を隔ててうら若き女子3人が眠っている空間で、断りもせず勝手にでろーんと爆睡していたらしい。
しかも超ミニスカートなJK(系VTuber)の格好で。変態さんかな?
「……仕方ない……。愛里朱たちが起きてくるまで静かに作業してよう……。朝になってから謝って、いちど家に帰って今日のぶんの衣装を取りに──」
「──佐々木さん?」
びくぅっ、と俺は肩を跳ねさせた。
「ごめん、驚かせた……?」
「あっ、あああ愛里朱……っ!?」
いつの間にか扉が開いて、高山愛里朱が身体を見せていた。
「……っ…………!」
どきどきと俺の心臓が暴れだす。
薄暗がりのなかで繊細に浮かび上がる愛里朱の姿が、妙に色っぽくて美しかったからだ。
学生時代に追い続けた推し声優。
その思い出補正を抜いても、闇のなかで光る金髪は綺麗だったし、月明かりを反射する色白な肌は視線を釘付けにした。
はだけたパジャマから覗く滑らかな谷間はあまりに
「ッ──!? お、おまっ、ちゃんとボクサーパンツを履きなさいよっっっ!!(?)」
「あ、うん……。ごめん、なさい……」
俺のキレキレなツッコミにも関わらず、高山愛里朱のリアクションは薄かった。
そして、きゅっと手を胸の前で握りしめたかと思うと──
「佐々木さん、ちょっと隣に行ってもいい?」
まっすぐに俺を見て、そう言ったのだった。
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今回もお読みいただきありがとうございます。
仕事場で寝てはいけません。
心当たりがある人は戒めましょう。ええ、共に……
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