第41話 大革命!③



 ──革命18日目、チャンネル登録者27,711名。



【今日もcoucouクークー!(ΘшΘ) #開闢アリスの白昼夢】

coucouクークー! #開闢アリスの白昼夢】

【次の配信いけないよぉ(;ш;) #開闢アリスの白昼夢】

【ラミ◯ルの人のタグみつけた。 #開闢アリスの白昼夢】

【最近ハマってるVTuberさんのハッシュタグですっ! よかったら観てみてください! #開闢アリスの白昼夢 #VTuber好きさんと繋がりたい】



「Twitterの専用ハッシュタグも賑わってきたねぇ」

 高山愛里朱が穏やかな微笑みを浮かべつつ、感無量といった風に小さく震えた。

「すごいな……。たった2週間だよ……? これまでもけっこう頑張ってきたつもりだったけど、1万人も超えなかったのに……。やっぱりプロデュースの力ってあるんだね……」


「プロデュースだけじゃないさ。VTuber活動は総合力だよ。ソウちゃんの営業力、ウタちゃんの技術力、俺の作戦力、開闢アリスの演者力。みんなの力だな」

 俺はPCにデータを集計しながら言った。


「はは、そうなのかな……」


「……? どうした、愛里朱。具合でも悪いか?」

 幸い今日の俺は白衣の天使型Vライバーのコスプレをしている。初診するか? すこやかか?


「……ううん、平気。気にしないでっ!」


 高山愛里朱は笑顔で手を振った。

 なんだろう。少し気になる。


「そうか。無理はするなよ」

 俺は気を取り直す。

「さーて、登録者がすごくな……? 今なら……。あ、ソウちゃん! お願いしてたメディアへの連絡はどう?」


「はい。アポとれましたよ。でも先方が忙しそうで、お会いできるのは2週間後くらいになりそうです」

 斉藤操がPCをチェックしながら黒髪を耳にかけつつ答えた。


「いいね、十分だ! ウタちゃん、明日の3D配信の準備は!?」


「終わってまーす。背景の実装も、モデルの実装も問題なしでーす」

 歌川詩が両腕で大きく丸印を作ってきた。

 相変わらず全身ジェラピケでもこもこだ。かわいい。


「OK、二人ともありがとう! さーて……」

 女装Vコスに似つかわしくない動きだが、俺は両手を胸の前で叩きつけた。

「勝負どころだけど……ま、アリスなら勝ち確だな。30,000人記念配信で、バッチリ決めよう!」




 ──革命19日目、チャンネル登録者30,000名。



 ライブステージを模した3D空間でスポットライトを浴びながら、開闢アリスは、すぅ、と息を吸い込んだ。

 空色の目を上げ、眩い笑顔を浮かべて。口に手を添え、大きく叫ぶ。



「……みんなぁーーっ! 来てるぅーーっ!?」



【!】

【はじまった!】

【きてるー!】【coucouクークー!】

【3万人おめでとー!】【coucouクークー!!(ΘwΘ)ノシ】

【アリスちゃーん!】【おめでとおおおおおお!!】



「わーわーっ! 今日もcoucouクークーだよー! さて、今晩もいらっしゃいっ、旅人さん達っ! 白昼夢はくちゅうむを旅する冒険少女! 開闢アリス、今宵もお迎えにまいりましたーっ!」


 いえい、と彼女がポーズを決めると、コメントが綺麗に湧いていく。

 開闢アリスは胸にマイクを握りしめて、微笑みを浮かべて言った。


「今日は3D配信でお届けしてまーすっ! どう? かわいいでしょっ? あはは! サムネにもタイトルにも書いたから、3Dの理由はわかるよねぇ。けど、あらためて言わせてくださいっ! 開闢アリス……チャンネル登録者数……、さん! まん! にんっ!! 本当にありがとーーっ!!」


【888888888888888】

【おめでとおおおおおおおおおおお!!】

【888888888888888】

【泣けてきた】【うおおおおおおおおおおお(ΘwΘ)】

【すごいね!】【アリスちゃんおめでとー!】【おめでとおおおおおおおおおおお!!】【祭りだーーーーーーーーーーーー!】【888888888888888!!!】


「わー! ありがとー! とっても嬉しい! アリスはねぇ、とある夢のために活動してるんだけどね……。最近は応援してくれる人がどんどん増えててさ……。あ、もちろんVTuberの活動は数字が全てじゃないんだけどっ! でも、やっぱり3万人のひとがアリスを見てくれてるのって、とっても凄いことだよ……。わたしの夢も、どんどん近づいてきてて、いつか白昼夢を超えて、現実になるんじゃないかって、すっごくワクワクできてるんだ」


 開闢アリスは腰の後ろで手を揉みながら、照れ臭そうに言った。

 ふるふると顔を振って、いかにもアイドルみたいに口元にマイクを添える。


「そんな感謝を込めてっ! 今日はアリス、歌いますっ!! これまでずーっと応援してくれていた旅人さんも、新しくきてくれるようになった旅人さんも、今晩は夢が醒めるまで目一杯楽しんでいってねっ! いくぞーっ!!」


 イントロが鳴る。コメントが湧く。


 開闢アリスの「声劇」以外のもう一つの必殺技。

 「歌唱力」が、新旧ファンの心をひとつにしていく──





「……『記念』っていうのはバズりやすい要素なんだ」

 俺は彼女の活躍を、生活スペースのほうで観測しながら呟いた。


「『記念』ですか?」

 斉藤操ことソウちゃんが繰り返す。


「うん。ゲームのアニバーサリーとか、誕生日とかさ、そういう『記録をお祝いするムード』っていうのは不思議と拡散されやすいんだよね。人が感動を感動として誰かにシェアしていく土壌が整うっていうかさ」

 俺はしみじみと言う。

「アリスの配信……感動や奇跡を引き連れていくパレードみたいなスタイルは、『記念』とすごく相性がいいと思ったんだ。そして今日、彼女は見事に、応援というファンからのご祝儀を掴んだ」


 俺はYouTubeの配信データとTwitterを見比べる。

 彼女の配信の様子はみるみる拡散されて、拡散から知ったファンが配信を見にきてくれていた。





 思えばこの頃から、高山愛里朱の精神に予兆は表れていたのだ。

 それを放置したために、俺はこの後、彼女の過去と向き合うことになる。

 そう。良くも、悪くも。





 記念配信。

 登録者数は、画面を更新するごとに増えていった。

 開闢アリスは、12000のだった。




──────────────────────




 今回もお読みいただきありがとうございます。


 開闢アリスは、果たして1ヶ月と少しでどこまで昇るのでしょうか……。


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