第52話 何も起きないはずがなく……



「で、いまに至りまぁーす♡」


「えへへへ、からだは正直でしたあ!」


「即堕ち2コマだなぁ……」

 ショコラボンボンでこうなったのかチサト……。


「安心してぇ佐々木っちぃ♡ ルキちゃんはぁ、ちゃあんと呑んできてるからぁ♡」

 なにを安心したらいいのかさっぱり分からない事を言いながら、蛇王ルキが俺の上に身体を這わせてくる。

「男と女、密着、酒の勢い、何も起きないはずがなく……♪♡」


 あ、ダメだ。

 このままじゃ貞操も世間体も喪いそうだ。


「愛里朱っ! ごめん、たすけてっ!」

 さきほどからこちらを眺めていた高山愛里朱に俺は叫んだ。


「その助け……本当に必要デスカ……?」

 高山愛里朱が不満げな目でじっと俺を見て、機械みたいな声で言った。

「かわいい女の子たちと随分楽しそうデスネ……」


「愛里朱社長!?」

 なに機嫌悪くしてるんだ!?


「ぷふふ……佐々木っちぃ、何この格好……? おっぱい晒しちゃってぇ……誘ってるでしょぉ……?♡」


「いやこれ本物じゃねえからっ! 偽乳だからっ! あ、こらっ、とはいえ揉むなっ! きゃあっ!!」

 開闢アリス衣装コスの俺の偽乳を容赦無く揉みしだきながら、ずいずいと身体を倒してくる蛇王ルキを睨みつけ、大声で叫んだ。

「おまっ……ルキぃ……いい加減にしろよ! チサトの泥酔に乗じて酔っ払いムーブしてるけどなぁ……! お前、お酒めちゃめちゃ強いだろうが! ふざけてないでそろそろ事情を教えなさいっ! めっ!」


「ぷぅー……バレちゃったぁ……?」

 蛇王ルキはチロリと赤い舌をだして笑った。

 俺に跨ったまま身を起こし、胸元と腹を大きく露出したチューブトップの上半身に、シースルーのジャケットを羽織る。

「佐々木っちには今更通用しないよねぇー。ざーんねーん……♡」


「え!? これ酔ってないの!?」


「そうだぞ愛里朱、気をつけろよ……」

 俺はルキの股下から這い出しつつ、衣装を直しながら言った。

「蛇王ルキは素でコレなんだ……。伊達にBANVじゃないってことさ……」


「BANっ!? ちゃ、チャンネルが消されたってこと!?」


「ああ……しかも2度もな。2度とも運営陣の懸命な努力でチャンネルを復元させたんだ」


「ほええぇ……。ルキさんの配信はもちろん見たことあるし、確かにセンシティブな発言が多いとは思ってたけど、やっぱりライン超えてたんだねえ……」


「BANを受けた理由は、もちろんR18センシティブ案件でさ、”Gグロ”か"Hエロ"かでいえば圧倒的に"H"だ」


「…………ちなみにどういった配信を……?」

 高山愛里朱がごくりと喉を鳴らす。


「『ダミーヘッドマイクにエグい耳舐め』が1回目でぇ……『ガンマイク咥えてみた配信』が2回目だよ♡」


「Oh my God……。アーカイブはどこで観れますか……」


「そのへんにしておけよ愛里朱……」

 俺は頭を抱える。

「まぁ、こんなだけど、ルキはセンシティブ一辺倒なお色気Vライバーじゃあ決して無いぞ。むちゃくちゃな量のオタク知識と、配信者としての確かな実力がある。視聴者のコメントを拾い上げてトークを広げるエキスパートだ」


 まるでリスナー自身が、大型インフルエンサーであるルキの配信の話題を決めているかのような、そんな満足感を全員が感じている。

 だから誰もが気がつけば彼女の”蛇王社員精鋭リスナー”になってしまっているのだ。


「──で、ルキ。そんなお前が、どうして今になって俺を訪ねてきた?」


「えー……? 佐々木っちが恋しくなった……ってだけじゃダメぇ……?♡」

 蛇王ルキが口に指を添えてウインクした。

「変わった理由はホントに無いよぉ? ほんとうにただ久しぶりに会いたくなっただけぇ……♡」

 蛇王ルキは緑と黄のメッシュの入ったウルフカットをいじる。

「まぁ、ひとつ理由があるとすればぁ……最近のオーロラで変な噂があってぇ…………」


「変な噂?」

 と、俺が訊ねようとした時だ。



「そこから先はじぶんが説明しましゅ!!」

 真っ赤になった獅紀チサトが、虚な目のまま凛々しい顔をして起き上がった。



「もういいよチサトちゃんは」

「ぷふふぅ……♡」

「はやく寝なさいチサト。大きくなれないぞ」


「こども扱いしないでください皆さまぁ! じぶんはもう二十歳おとなですっ! オーロラの由々しき事態は重々把握しておりますのでぇ!」

 獅紀チサトはふらふらと揺れながら語る。

「オーロラの経営陣たちがですねぇ、新進気鋭のライバルとなりそうなVTuber団体をマークしだしたのです! その対処を一任されたのは金城かなしろ直美なおみ! あの兵吾ひょうご逸平いっぺいと行動を共にしていた悪漢でありまして! えっとぉ、具体的にはぁ、そのぉ…………」


 そして、獅紀チサトは青ざめて両手で口を押さえて呟いた。



「──────吐きそうでふ……」




──────────────────────




 今回もお読みいただきありがとうございます。


 チサト、書いてて楽しいです。。。


 私信ですが、某ホロライブさんから新しくデビューされたフワワでモココな双子VTuberに真剣にハマりだしています。

 なんだあの双子ならではの挨拶は……かわいすぎる……


 うおおおおおおお執筆の励みになりますので、

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