第39話 大革命!①
◆
とある日の早朝。午前5時を回った頃。
大手タレント事務所『キングス・エンターテインメント』。
窓から差し込む朝日に薄青く染め上げられた、オーロラ・プロダクションの事務室だった。
「…………」
いつもは王社長の傍らに侍っている眼鏡の秘書が「朝食」をとりながらPCを操作していた。
社員たちが出社してくる前に、取締役会に向けて自社や他社のVライバーたちの登録者数の遷移をまとめるつもりであった。
彼は若手時代からのルーティーンである「朝食」──ブルーベリージャム入りの大量のマシュマロをちぎっては口に詰め込み、ミルクで流し込みながら、データを精査している。
「………………ん……?」
秘書は眼鏡を押し上げながら唸った。
効率化されたアナリティクス・ツール。そこに表示されたデータに目を疑った。
「──これは……そんな馬鹿な…………」
思わずマシュマロを取り落とした。
──あり得ない。こんな……
──こんな、数字の上昇の仕方が、あるのか……──?
▼
「「よっしゃッ、やるぞぉーーーー!!」」
俺と
VTuber業界に旋風を巻き起こす(くらいの心意気の)大革命が幕を開けたのだ!
▼
──革命1日目、登録者8,000名。
「さて、まずはこいつの実践からいこう! やれそうか?」
俺は作り上げた渾身の『新人VTuberでも超高確率でバズれるネタ100選』から、
「やれるかって? 誰に言ってるのさっ!」
愛里朱はリストに目を走らせるなり3Dモーションキャプチャー用の装備を身につけた。
「録るのは任せて! 愛里朱、天才なんでねっ! へへっ! ぶいぶい!」
「テンション高いし頼りになるな! じゃ、俺はソウちゃんと営業に行ってくるよ」
俺は、玄関で凛々しい真顔と謎のピースサインで待っている
「あとは任せたぞ愛里朱っ!」
「行ってらっしゃい! って、えっ、佐々木さんっ!? 『皇女』の格好のまま行くの!? 逮捕されないかなっ!?」
▼
──革命2日目、登録者8,050名。
「よし。『100選』からYouTube Shorts用の動画を何本か作れたな。投稿は今晩から開始していくとして……結果を待つあいだに他の種を撒いておこうか!」
ひとつのネタでバズれるほどYouTubeは甘くない。
「これが面白くないはずがない!」という自信を
「うーん。Shorts用の動画だとギャグ系が多かったから、ちょっと格好つくのがいいなぁ」
高山愛里朱は指を顎にあてて唸り、あっ、と声を上げた。
「ここはやっぱり『歌』でどうかなっ! 最近のボカロ曲で好きなのがたくさんあるんだよねー!」
がたっ、と俺は身を乗り出す。
「アイリス・アイリッシュがDEC◯*27を歌ってくれる世界線があるのかッ!?!??!!!?」
「公私混同が過ぎるなあ?」
高山愛里朱は苦笑を浮かべた。
「じゃあ次の動画は『歌ってみた』にしよっ! 曲はもちろん──」
ぐっと拳を握りしめて。
「『強◯オールバック』からいきますっ!」
「DEC◯*27はッ!?!?」
やってくれないの!?
▼
──革命3日目、登録者数8,075名。
「おはよう佐々木さんっ! って、うわーっ!? 今日は生徒会長のコスじゃんっ! JK制服かわいい! どうするっ、仕事前に『ムカデ人間』観るっ!?」
「朝から最悪な気分になる気か?」
黒髪ロングJKである俺は全力で首を振る。
「あっ、昨日ね、さっそくレコーディングしといたよっ! 撮影スペースが防音だとほんと楽だねぇ」
廊下を歩きながら高山愛里朱が笑う。
「『強風オール◯ック』と、お望み通りDECO◯27さんの『ヴァンパ◯ア』も録ったよっ!」
「っ!? お、推しが……俺のリクエスト聞いてくれた……っ!?」
俺は一見清楚なJL制服姿で崩れ落ちた。
「あはは、泣いてる場合じゃないよー。さて、『歌みた』投稿ではこの子に活躍してもらいますっ!」
高山愛里朱が手で示した先。
生活スペースに桃色の髪をした女の子が座っていた。
「きりーつ、きをつけーぇ」
クッションから立ち上がったのは、
気だるげな垂れ目。ピンクのショートボブ。
首にヘッドホン。敬礼のポーズ。
「歌川詩。19才、学生です。なんでもできるエンジニアでーす」
「エンジニア?
「ううん。ウタちゃんはね、なんでもできちゃうんだよっ! こんなふわふわっとした原宿の綿アメみたいな見た目なのに、勉強が趣味だし、呑み込みが早すぎるの」
高山愛里朱は胸を張った。
後に聞くに、愛里朱・詩・操は幼馴染らしい。
仲が良くていいね。
「ということで、歌のMIXは、わたしの同居人であるウタちゃんにお願いしちゃいます。明日には曲は仕上がると思う。動画編集はわたしもウタちゃんもできるけど……イラストはどうしようかなあ」
「ああ。イラストなら、ほら、心強い仲間がいるだろ?」
俺はニヤリと笑った。
▼
──この時の開闢アリスのチャンネル登録者増加ペースは、まだ1日に10〜50人くらいだった。
これは、やがて増加ペースが数百倍になるまでの、わずか1ヶ月強のあいだの記録だ。
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今回もお読みいただきありがとうございます。
読者の皆様、好きなボカロ曲はありますか……
私は今も昔もカゲ●ロ推しです。。。
執筆の励みになりますので、
引き続きフォローや★★★や❤︎で応援いただけますと嬉しいです!!!
【追記】
2023.08.24現在
累計PV数が20万回を突破いたしました……!
継続して読んでくださっている皆様のお陰です。
いつも励まされています。。
これからもご声援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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