第34話 盤外戦術をしかけておくよ①



 ──時は少し遡る。


 黒縁くろぶちぐらす先生の面談をした次の日。

 獅紀しきチサトから連絡がきてから、彼女と再会するまでの物語。


 これは幕間にして本編。

 わずかな期間で高みへと昇った、俺と高山たかやま愛里朱ありすの激動の物語だ。





「……ふうっ。今日はこんなもんかな」


 俺は、息を吐きながら、もこもことした白いカーペットの上で背伸びをする。

 高山愛里朱のオフィス兼生活スペースで俺は通常業務をしていた。


 「通常業務」といっても、勤務開始からこのかた俺は色々と慌ただしかったので、いわゆる「来客や打合せのない自由な作業タイム」は初めてだった。通常とはいったい……?


 ついにまとまった作業時間を確保した俺は、PCを開いてV-DREAMERSブイ・ドリーマーズのためのSNS分析をしていた。

 一刻も早く力をつけて、あまねくVライバーを助けられる強い事務所を作らなくては。


 ──そう。

 ──俺が自分に課したミッションは、いかに最短でV-DREAMERSブイ・ドリーマーズを国内最大手にするかだ。


「ど? 佐々木さんっ」

 撮影スペースから、ひょっこりと愛里朱が顔を出した。


「ああ、愛里朱か。やりたいことはほとんどできたよ」


「それはよかったー! でっ? 通常業務1日目に敏腕天才女装Pプロデューサーさんはどんなことをしたの?」


 高山愛里朱は、いつも何にでも興味津々で仔犬みたいで微笑ましい。


「まずは広告の最適化から手をつけた」

 かつての大人気声優の無邪気さに尊みを覚えつつ、俺は答えた。

「えーっと、ソウちゃんさんだっけ? 『チーム愛里朱の営業担当』さんがTwitter広告を運用してくれていたけれど、ほんのちょっとだけ費用がかかり過ぎていたな。だから広告が表示されるターゲットになるアカウントを活動中のVライバーに限定してみた」


「へぇ、すごそう! ソウちゃんが聞いたら喜ぶかな、怒るかなぁ。えへへ、それって要するに、もっと効率良く応募者が来るってこと?」


「そうだ。Web広告を出稿した初期は、できれば毎日、効率を確認したほうがいい。それが今日の仕事のひとつめだ」

 俺は言う。

「ふたつめに、オーロラ時代の知り合いたちに連絡をしてみた。主にメディアの人たちにだな」


「ほ? メディアってことはニュースサイト? 佐々木さん、お知り合いがいるんだ!」


「そりゃもちろん。のが運営の仕事だからさ」

 俺はニヤリと笑った。そしてその笑みは、苦笑に変わる。

「……悲しいことに、今や『超面白いコンテンツ』なんてSNSにはごまんとあるんだ。その中で目立ちたいなら販促策略は必要不可欠だよ」


「……つまり、コネを使った根回しってこと?」


「まあね。久しぶりに記者たちと会食してくる」


「……ふぅん」


 高山愛里朱の表情に、わずかな曇りがある。

 なんだ?

 寂しそうというか、痛そうというか──


「……なんだよ? まさか、飛び道具は卑怯だとか言わないよな?」

 俺は高山愛里朱を見つめて言う。

「根回しってのはみんなにとってWin-Winなんだぞ? 記者はいいニュースが貰える。ユーザーは面白い記事を読める。Vライバーは伸びる」


「いやいや、分かってるから! 別に広報活動が卑怯とか今更いまさら思わないってっ! ちょっとだけね、昔のことを思い出しただけ」

 高山愛里朱が少しだけ切なげに笑った。


 意味深だ。

 公表されていない『アイリス・アイリッシュの引退理由』に関係があるのだろうか?


 そんな俺の勘繰りを許さずに、愛里朱はすぐに満面の笑顔に戻り拍手をした。

「うんうん! 広告の改善と、メディアへのアポね! どっちも長期的な効果が見込めそうで素敵じゃないっ? さすが佐々木さん、1日の行動としちゃ上々だね! じゃ、夜の活動についてだけど──」


 俺は笑って、愛里朱の声を遮った。



「いやいや……、だろ?」



「え?」


「今のはだよ。1日ぶんの活動なはずないだろ」


 そう。まだ俺のバトルフェイスは終了してないぜ。




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 今回もお読みいただきありがとうございます。


 今話に関係ないですが【番外編】獅紀チサト②の応援コメントが、

 紳士でいっぱいなのでおすすめです(?)。


 執筆の励みになりますので、

 引き続きフォローや★★★や❤︎で応援いただけますと嬉しいです!



【追記】

2023.08.18現在

はじめて「おすすめレビュー」を頂戴いたしました…!

自分以外の誰かからキャッチコピーをいただける体験、とても感激しました。

「おぉん?書いてやってもいいぜ?」な読者さま、今後ともぜひお願いいたします……。。。

これからも更新、頑張ります……!!

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