第18話 オーロラ・プロダクションのライバー達④
◆
部屋中に戦慄が走った。
「っ──」
「クッハハハハッ! ついに正体を表しやがったなァ?」
PCの一つ。そこから画面越しにやりとりを眺めていたVTuber、
輝く四白眼で王社長を睨みつけ、ギザギザの歯を剥いて叫ぶ。
「おいコラ、王社長ジュニアぁ。黙って聴いてりゃあ、ライバーを今すぐ減らすだァ? グループにはファンだっていんのに、ンだその言い草は? それにアタシらは……アタシを含めたメンバーは、この活動に『命』をかけてんだッ! 人生かけた配信道に次に野暮吐いてみやがれェ……、この元・暴露系のヴァオ様が、間違って『ごろごろどかーんッ!』と天罰下しちまうかもだぜェッ!?」
「……ぎゃあぎゃあ喚くな、餓鬼が」
王社長は、ついに笑顔の仮面を捨て去り、穢らわしいものを聞いたかのように顔をしかめた。
「馬鹿かお前? 俺たちは営利企業だ。他人の夢のために金をバラ撒いていた慈善家の親父と違って、俺はロジカルに実利をとる」
鋭い双眸で雷神ヴァオを睨み返してから、王社長は、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
「……と、まあ、本心はそれだがな、さすがにキングスの企業イメージもある。『ライバーの数を減らせ』というのは何も
「あァ? 外……?」
「不出来なVTuberを、研究生という名目で、キングスの子飼いのタレントマネジメント企業に預けるって話だ。──おい」
王社長が指示をすると、事務所の隅に控えていた二名の部下が進み出てきた。
一人は挑戦的なスーツに銀髪をした如何わしい業者風の若者。
そしてもう一人は──
「ははっ!! アニメキャラの中の人っていうから期待してなかったが、ははっ!! 最近の声優はかわいいなっ!!」
金の長髪をかきあげた、2mに迫る身の丈の大男だった。40代か50代だろうか、壮年ながら筋骨隆々の肉体を、着崩したスーツに包み、浅黒い肌に真っ白い歯を光らせている。
金のブレスレットがぎらぎらと光る大きな
ひゅう、と。か細い空気の悲鳴をあげて、ポニーテールの少女は恐怖に息を呑む。
「──チサト……! いったい何を……っ」
「でかいのが
身構えた
「今からこいつらがオーロラ・プロダクションを統治する。こいつらに用無しと判断されたライバーは、どんどんキングス社外に島流しだ。なに、外部とはいえプロデュース組織に預けるんだ。お前らが本当に『命をかけている』のなら、成果を出して戻ってこられるだろう?」
王社長は切長の眉をなぞりながら、和寺部長に目を向けた。
「他にも使えないスタッフは左遷する。浮いた人件費で俺の部下を入れる。それで解決だ」
「な……っ……、お、お待ちください……っ!」
和寺部長が喘いだ。
「ラ、ライバーを社外に追い出すですって……!? それにスタッフを入れ替えるなんて……それではオーロラの内部がめちゃくちゃに──!」
「和寺よ。お前、そのつもりで自らの無能を告白したんじゃないのか?」
王社長は、必死な和寺部長を鼻で笑った。
そして、じろりと
「さっきから何か言いたげだが、お前も文句は無いよな? ナンバーワンとしてせいぜい箱を引っ張れよ。俺に歯向かったり、成果を出せなかったりしたら、どうなるか分かるな?」
王社長はオーロラ・プロダクションの生殺与奪を握っている。
大手タレント事務所『キングス・エンターテインメント』にとって、VTuberなどという新規事業が潰えようと大した痛手ではないのだ。
「……わかり、ました……」
「よろしい。今日は貴重な意見が聞けて良かったよ。諸君らの今後の活躍にも期待している」
王社長は、これみよがしに笑顔を造って告げた。
事務所に背中を向ける直前、ふと、顔をあげる。
「ああ。そうだった。そこのお前──」
王社長の指が、女探偵・雷神ヴァオに向いた。
「お前だけは今日付けで
「……ッ……!」
画面の奥で、雷神ヴァオは押し黙る。
元・暴露系の看板を引っ提げる彼女でも、キングス社との
「ぶははははっ! あー、ざまーねぇなマジで」
事務所の中央に立っていた銀髪の若者、兵吾が嘲笑する。
怯える
腐臭すら立ち込めるような邪悪二人を残して、王社長は意気揚々と部屋を出ていった。
――――――――――――――――
今回もお読みいただきありがとうございます。
オーロラ・プロダクションのライバー達の登場回であり、エネミー紹介回でした。
読者の皆様は、王社長の振る舞いの「なに」が間違っていると感じましたか…?
まあ、むかつくので普通にぶっ飛ばされてほしいですね!
次から少し短めの回が続くので、今日の12:00にもう一話更新いたします!
ぜひお読みいただけると嬉しいです…!
執筆の励みになるので、引き続きフォロー&❤︎&★★★で応援のほど、よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます