第8話 それは、ヤだな
「お前とあの男は結ばれることはできん。半分とは言え、血が繋がってるんだからな。いずれにしても結ばれることがない2人だからと目こぼししてやってきたが、まさか異父姉弟で恋愛ゴッコを始めて、杜撰な計画で逃避行に及ぼうとは。これが笑わずにいられるか!」
............え?
「ん? なんだその顔は。まさか......本当にまったく気づいてなかったのか? 気づいていて、気づかないフリをして自分たちを誤魔化してるのかと思っていたが。ふ、ふふふ、本気で何も知らなかったのか。やはり愚かな娘だ」
「ま、待ってください。私と
「どうもこうもない。言葉の通りだ」
私も馬鹿じゃない。それにお父さまという人間のことはある程度わかっているつもりだ。
お父さまは私の心を折るために、嘘の話をでっち上げるような人ではない。
人間としては最低だけど、嘘という救いのある方法ではなく、どうしようもない現実という手段を持って心を折るタイプのクズだ。
それはすなわち......彼の言葉に偽りはないということ。
そして、その意味を、私は瞬時に察してしまった。
ただ............そんな限りなく小さい最悪のシナリオの可能性を、信じたくはなかった。
だから、理解できていないという体で、聞き返す。
「わ、私と創の血が......繋がっているだなんて......そんなわけが......」
現実から目を背けようとする私の無駄な抵抗をあざ笑うように、お父さまは続ける。
「お前は私の言葉を聞いてすでに真実に気づいてるんだろう? 目をそらしたところでその現実が変わることはない」
彼のご両親に会ったことはないけど、彼の話しぶりから、彼の両親は少なくとも端月家のように悪い人間ではない。そう思っていた。
私があまり家のことを聞いてほしくないから、彼の両親のことも余り詮索したことはなかった。
創の名字は「
ということは、少なくとも父親が私のお父さまと同じということはない......と思う。
いくらお父さまがクズでも、人妻に托卵させるようなことはしていない、とは思うから。
むしろ可能性が高いのは............。
「母......親............?」
「はははっ、やはり気づいたか。さすがに頭の回転は速いらしいな。その部分は、あのグズな女ではなく私に似たらしい。よかったな」
父親に似ているということも嫌悪感で鳥肌が立つけど、今はそれどころではない。
決定的な答えまでは口にしていなくとも、お父さまの返答は私の予想が正しいことを嫌というほど表していた。
「まさか......まさかまさか。創の母親は......私の......?」
「そうだ、お前が恋愛ごっこをしている相手は、お前の産みの親、
「そん............な......」
「わかったか? お前たちは血縁のある二親等。法的にも倫理的にも、お前たちが結ばれることを認めるものはいない。どこへ行っても、誰も居ないところへ行こうとも、その事実が変わることはない。お前たちが2人で幸せになる道は、ないんだ」
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ。
「信じないのは自由だがな。まぁ検査すればすぐに分かることだ。私がつまらん嘘をつくような案件でもないことはわかっているだろう」
やだやだやだやだ。
私のすべて。一緒に幸せになろうって、何があっても一緒に戦おうって誓ったのに......。
「わかっただろう。お前たちは滑稽な恋愛ごっこをしていたにすぎん。その関係が幸せな結末にたどり着くことなど無いんだ。おそらく男の方も全く気づいていないのだろう。可哀想なことだ。愚かな母親のもとに産まれたがゆえに、姉弟で勘違いの恋愛ごっこに何年も無駄な時間を費やしたんだからな」
............無駄な時間......?
「......ムダなんかじゃない」
「なんだ?」
「ムダなんかじゃない! 創は私に生きる意味をくれた。幸せな時間をくれたの! それは無駄なんかじゃなかった!」
そうだ、あの時間は絶対無駄じゃなかった。わたしたちは、幸せだった。
「人は夢を見ている間は幸せなものだろう。だが、その夢が覚めたときの絶望は、どれほどだろうな?」
「っ......」
「その男はお前と一緒にいる限り子を成すことも許されない。そのうえ
..................。それは、ヤだな。
創には、幸せになって欲しい。私の幸せを殺してでも、君には普通の幸せな人生を歩んでほしい。
一緒に幸せになりたかったけど......確かに私と一緒じゃ、普通の幸せは得られないかもしれない。
お互いさえいればいいって思ってたけど、私のわがままに、彼を巻き込んで、不幸に陥れるわけにはいかない。
はぁあ......。私の幸せは、ここまでかぁ。
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