第十二章

第45話

 どうすれば未来を変えられるのか。私は漠然とした恐怖に怯えながら、必死に考えた。

 そして、誰かに対してメタ発言をすることにした。メタ発言と言うのは、アニメの登場人物なんかが視聴者や製作者の存在を認識したうえでする発言のことだ。

 それをするとはどういうことなのかと言うと、『私に起きた一切合切を教える』ということだ。私の前に未来の湯川が現れたこと、数日後に私が死ぬこと、未来の湯川が付き合っていた過去の私もまた、未来の湯川に会っていた可能性があること、すべて。

 問題はそれを誰に、どのようにして教えるかだ。まず手段については、手紙を思いついた。

 今の私が直接口頭で誰かに教えれば、きっと詳しい説明を求められ、場合によっては今よりもっと良くない方向に進んでしまうかもしれない。

 その点手紙なら、13日を過ぎてからでも正確に内容を伝えることができる。14日を指定して送ればいい。

 次に、誰に伝えるかについて始めに思い浮かんだのは、あきら本人だった。でも、その案はすぐ却下する。

 彼の性格からして、私が死ぬと深く、深く落ち込むだろう。それこそ、タイムマシンを作って過去に行くための行動を起こすほどに。

 でも普通、人は人を失った時に『タイムマシンを作って過去に行こう』などという発想に至らない。というより、そんなことを思うだけの余裕がない。

 そうなれば、必ず彼に影響を与えた何かがあるはずだ。少なくともタイムマシンに関する何かが。

 もし私の手紙を精神の安定しない彼が見て、『タイムマシン』という言葉だけに反応して研究に踏み出すなんてことがあれば、それは歴史の思うつぼだ。

 だから、彼には送らない。

 次に思いついたのは奈々だが、これについてはそもそも意味がないことに気が付く。彼女はタイムマシンの開発に関わっていないから、未来を変えるためにはあきらを説得してもらうしかない。でもそれは、彼に直接手紙を送るのと何も変わらない。これも却下だ。


 最後にまた一人、思いついた。何も、研究に参加していたのはあきらだけではない。私のもう一人の大切な人、親友である彼女もまた参加していたのだった。

 斎藤ひかり。彼女とは中学時代仲が良く、別々の学校に進学した今もその関係は続いている。

 手紙を送る相手は彼女にしよう。そして、タイムマシンに手を出すのをやめてもらおう。そして彼女の記憶が未来のあきらから消えれば、未来を変えられることの証明になる。

 彼女は頭が良い。きっと私が死んでも平静を保って、しっかりとした精神状態でこの手紙を読んでくれることだろう。そして内容を理解し、したがってくれるはずだ。


 すぐに私は机に着き、彼女への要望と、現状を説明するための文章を考える。どうすればわかりやすく伝えられるかと苦慮するが、中々頭が回らない。それに、手紙など書いたことがないのでフォーマットがわからない。

 でも回らないなりに、わからないなりに努力し、私は一通の手紙をしたためた。


ひかりへ


 突然手紙なんて送ってごめんね。お元気ですか?私は、元気じゃない、と思う。というのもこの手紙が届くとき、私は死んでいるかもしれないから。

 そうなると、ひかりちゃんも元気じゃないのかな。ひかりちゃんにはずっと元気でいてほしいけど、私がいなくなった時くらいは悲しんでほしいななんて、自分勝手なことを思ってしまいます。

 関係ないことを言っちゃったね。本題に入ります。私がこの手紙を書いたのは、私が死ぬのを止めるため、です。

 何を言っているのかわからないと思うし、これからも意味のわからないことが続くと思うけど、どうか信じてほしい。

 説明の前に、絶対に守ってもらいたいことを書きます。突然意味のわからない手紙を送りつけた上に命令をするだなんて図々しくてごめんね。でも、本当に守ってほしいんだ。


 守ってほしいことと言うのは、次の二つです。


1.私の後を追って自殺をしようなどとは、絶対に思わないこと。


2.どんなに私を取り戻したいと思っても、絶対にタイムマシンや、それに関することに手を出さないこと。


 何度も言うけど、何があっても絶対に守ってほしい。


 このことを伝えるに至った原因は今から3週間前に遡ります。

 3週間前の2020年9月14日、登校途中の私の前に、3年後の未来から3つ年上になった彼氏がやってきました。前に話したことがあるよね、湯川くんのこと。来たのはその彼です。

 そして彼は、私に言いました。「君は一か月後に自殺する。僕はそれを止めるために来た」

 始めは意味がわからなかったけど、話してみると彼は私と彼しか知らないことを知っていて、本当のことを言っているのだとわかりました。納得した私は、彼に私を尾行することを許しました。

 でも、今では後悔しているけれど、私はそのことを次第に鬱陶しくに思うようになりました。そしてさっき、あるミスをしてしまいました。

 友達の奈々の前で、ついそのことを呟いてしまったの。『湯川がストーカーをしている』と示唆させるような内容をね。

 結果どうなったかと言うと、何も起こらなかったの。彼は変わらず調査をしていたし、さらに私に言ったの。「そのことなら以前彼女から聞いたよ。君がそんな発言をした理由がわかってよかった」って。でも、それっておかしいことだと思わない?

 彼は私が死ぬ未来を変えるためにやってきた。それなのに、彼は私が未来の彼に会っていないと奈々に相談しなかった内容を知っていた。

 ややこしくてごめんね。でも、そういうことなの。『彼の記憶に残る自殺した私も、未来の彼に会っていた』のかもしれない。『未来と過去は変えられない』のかもしれない。

 私は死にたくない。けれど、一人で未来を変えるのは怖い。だから、ひかりちゃんに協力してもらおうとこの手紙を書いたの。

 協力と言っても、大したことじゃない。ただタイムマシンの開発に関わるのをやめてくれればいいの。

 というのも、彼は未来でひかりちゃんと一緒にタイムマシンを開発したそうなのね。だからひかりちゃんがタイムマシンに関わらなければ彼の記憶は変わって、未来が変わったことを今の私が認識できると思うの。

 そしたら、私は安心して『自殺をしなかった』という未来を選択できる。無理を言っているのはわかるけれど、どうか手伝ってください。こんなことを頼めるのは、ひかりちゃんしかいません。


 長文になって、ごめんなさい。

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