第33話

「なるほど……。確かにそれなら予算は大幅に減らせるかもしれないわね」

 水野さんに伝えると、彼女は感心したように答えた。


「でも、教授がマシンを埋めた場所をどうやって特定するの?」

「そこなんですよね……。まずそもそもの話なんですが、マシンの空間移動はどのくらいまでできるんです?」

 タイムマシンには、時間移動と空間移動とがある。時間移動とはそのまま、時間を過去や未来に移動することである。

 対して空間移動とは、三次元空間の中を移動する、つまり自動車や飛行機のように、地点Aと地点Bとを移動するということだ。

 今までの実験でいうと、地点Aは実験室、地点Bは転送先の倉庫ということになる。


「そうねぇ……。坂口がどのくらい手を加えたのか知らないけれど、半径5kmもないはずね2~3kmくらい?」

「なるほど……少し待ってください」

 彼女の言葉を聞き、僕はパソコンで大学付近の地図を調べて縮尺を調整し、紙に印刷する。

 そしてコンパス用意して半径を3kmに設定し、実験室を中心として円を描いた。

 円の内側には大学、駅、水路、高層ビルその他がある。3kmとは地図で見るとそう広くないように思えるが、実地調査を含めると大変になりそうだ。

「あるとしたらこの中のどこかよね。移動させるにも目立つでしょうし」

 地図を前に考えを巡らせる僕に、水野さんが言う。

「そうですね……。僕なら、堀の底に埋めます。水の中ならバレにくいでしょうし」

「いや、それはないと思うわ」

「なぜです?」

 僕の考えを否定した彼女に問う。すると彼女は、僕の横に膝立ちになって地図を指さした。

「この水路、確か10年前に大規模な改修工事をしてるのよ。そしたら工事の時に発見されてしまうかもしれない。教授は、そんなリスク犯さないと思うの」

「うーむ……それじゃあ、手分けしてこの辺り一体の工事歴を調べるというのはどうでしょう」

「私も同じこと思ってた。この水路を中心にして、北側を湯川くん、南側を私でどう?」

 そう提案すると、彼女は少し笑顔を浮かべて答えた。


 それから僕らは個々に調査を進めた。初めはインターネットなどで検索する程度のものだったが、徐々にそれだけではわからないことが出てきたので、国の図書館などに出向いて資料を調べるようになった。

 見るのは行政の発行する道路工事の記録や、街の変遷を記す書籍などだ。


 そして調査を始めて数ヵ月、僕はあることを知った。今ある水路は、一部が200年前と道筋が変えられており、変えた部分の旧水路蓋をされて暗渠となっていたのだ。

 それも、資料を見る限り工事は明治初期というかなり昔に行われており、工事の際は今ほど厳しい調査が行われていない可能性がある。

 もし教授がこのことを知っていたならば、ここに隠したはずだ。


僕は早速、そのことを水野さんに説明した。

「……なるほど。確かにそこにある可能性は高そうね。でも、まずどうやって見つけ出すのか、あったとしてどうやって掘り出すかが問題になるわ」

 すると彼女は難しい顔をして、そう答えた。だが、僕も全くの無策ではない。

「水路は暗渠、つまり空洞です。なので僕がどこかから侵入して、中を調べてきます」

 僕は答えた。違法かも知れないし、古い地下建造物なので酸素の不足やガスの充満など危険なこともあるかも知れない。でも、それを差し置いても良い作戦だと思った。


「わかった、お願いするわ。でも、ちょっとでも危険を感じたら、無理せず引き返してね」

 彼女は少し考え、言った。


 作戦はこうだ。図書館で印刷してきた資料によると、現在の水路のある場所に旧水路へと繋がる土管がある。まずはそこへ行く。

 そして長らくの間開けられていないそこの封印を解いて中へ侵入し、金属探知機やその他の道具を使って調べる。

 発見した場合は、すぐさま中の様子を調べて、使えそうな部品を数日かけて運び出す。特に重要なのはコアだ。あそこには高価な材料が大量に使われている。

 そこにあってくれることを願う。僕は酒井を、斎藤を、救いたい。

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