第二章
第4話
迎えた初の登校日、僕は大きな期待を胸に大学へ向かった。最初に行われたガイダンスでは大学の理念の話や履修の説明をされたが、まったく頭に入らない。それらの間、僕は研究のことしか考えていなかった。
60分にも及ぶ退屈極まりないガイダンスが終わってすぐ、僕は研究室を探した。目当てのそれは講堂のある棟から少し離れた場所にあり、建物として独立しているらしい。
広いキャンパス内を歩き回り、建物を探す。だが、中々見つからない。
一度しっかり調べようと、スマホを取り出して立ち止まった。
その直後背中に衝撃が走り、身体が倒れそうになる。僕は咄嗟に左足を出した。が、それだけで勢いは収まらない。続いて右足を……と思ったが、動かない。かかとを誰かに踏まれている。
「うぉあっ!」
「きゃあ!」
キャンパスに、二人分の叫び声がこだました。
「いいたっ!!」
そのまま地面に倒れたかと思うと、右足のふくらはぎに激痛が走り、僕は思わず声を上げた。
「ああ!ごめんなさい!」
直後、声が聞こえたかと思うと背中に覆いかぶさっていた誰かが立ち上がった。この時、ふくらはぎにさらに体重がかかったためかなり痛かった。へたくそな按摩みたいだ。
「大丈夫ですか?本当にすみません!」負荷が消えるとすぐ、声がした。
「いえ……急に立ち止まった僕が悪いんです。そちらは大丈夫ですか?」
痛みに耐えながら振り返るとそこにいたのは、背が高く金に近い茶色の長い髪が良く似合う、美人とも美少女とも言えそうな女性だった。
くっきりとした二重に覆われたブラウンの虹彩は、眼窩のさらに奥を覗かせるような、透き通った印象を持たせる。
「立てますか?」
彼女は細い腰を折り、僕を覗き込む。
「大丈夫です、大丈夫です。本当にすみません」
僕は作り笑いを浮かべながら手をつき、左足を軸に立ちあがった。痛みからして、右足を伸ばしきるには少し時間がかかりそうだ。
「ごめんなさい、研究室に行こうと急いじゃってて……」
右側に傾いた変な立ち方をする僕を見て、彼女は困り顔で言う。
「研究……。もしかして鳩羽教授のところですか?」
僕のせいで彼女に罪悪感を与えるのは忍びなく、話題を変えようとそう訊ねる。
「そうです!そこの学生さんですか?」
作戦は上手くいったようで、彼女の表情は少し明るくなった。僕の足は伸びないが。
「いえ、僕は新入生で……これから入室のお願いに行こうかと」
「え!?それじゃあ同級生じゃないです……じゃん?一緒に行こうよ」
さらなる質問に答えて見せると、彼女はそんな言葉遣いをした。距離間の詰め方を探っているらしい。
「そうだね」
そんな彼女の意図を汲み、僕はそうタメ口で答えた。
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