第4話 冒険者

冒険者になろうと思う。まずは親を説得しないといけない。いきなり家を出て冒険者になるってのも考えたけどそれは流石にやめておく。今の親は2回目の親だけど愛情をたくさん注がれているし俺はこの人達のことも本当の親だと思っている。これから何人本当の親ができるんだろうね…

「父さん、母さん、冒険者になろうと思う」

夕飯を食べているときに俺は話を始めた。ちなみにある程度成長した頃から言葉遣いは男っぽくやっている。変えるのめんどかったし。

「…何を言ってるんだエリス。言葉遣いくらいならいいだろうと思っていたが冒険者などになることは許さんぞ」

「俺、冒険者になりたくて小さい頃から魔法の練習をして使えるようになったんだ。父さんの心配する気持ちは分かる。でも無茶はしないし危険だと思ったらすぐに逃げる。だから心配はいらない」

「冒険者はその心構えがあっても危険な仕事だ。冒険者になることは許さん」

「小さい頃からの夢なんだ!頼む父さん!」

「…後衛なんだろうな?」

「後衛もやるかもしれないけど前衛だ」

「なら絶対に許さん!」

「父さん!自分より格上の相手には挑まないようにするしちょっと怪我しても俺は回復魔法が使えるからすぐに直せるし大丈夫だ!絶対に死んだりしない!分かってくれ!」

「許さんと言っているだろう!!そもそも回復魔法が使えるなら後衛をやれ!」

「パパ!一回外出て頭冷やして来て!」

母さんが父さんを外に出した。

あれだけ言ったのになんで父さんは許してくれないんだ?

「エリス、私とパパは結婚する前は冒険者をやっていたの。私達はその時出会ったの。二人でモンスターを討伐したり皆で町を守ったりして楽しかったわ。いつかAランクの冒険者になるんだーって意気込んで毎日頑張っていたわ。でもCランクになってからしばらくして受けたタンブの森の調査依頼で危険度Bのオーガの上位種に襲われたの。パパと私は全力で逃げたわ。でも逃げ切れなくてパパは私を守るために両足を怪我してしまったの。なんとか逃げ切ってからすぐに私が回復魔法をかけたけど完全には治らなかったわ。街により高位の回復魔法使いがいたらよかったんだけどいなかった。それでパパは走ることも剣を使う時に強く踏み込むこともができなくなってしまって私達は冒険者を引退して結婚したの。」

「そうだったのか…」

親が元冒険者か…結構ありがちなパターンだな。

これって冒険者になりたいなら俺を倒してみせろパターンあるかな?その場合は走れないなら遠くから魔法を撃ち続ければ勝てそうだな。卑怯?知らん。冒険者なんて卑怯な手使ってなんぼやろ。

「母さんも俺が冒険者になることに反対なのか?」

「いいえ、私はエリスがやりたいようにやればいいと思うわ。」

「母さん、ありがとう。父さんと話してくるよ。」


「父さん、聞いたよ、昔冒険者やってたんだってね」

「ああ。俺は冒険者をやっていた。だが一度死にかけて冒険者はやめた。その時は死ななかったがそれは運がよかっただけだ。お前は死ぬかもしれない。だからお前に冒険者をやらせる訳にはいかない。」

「それでもだ。父さん。死ぬかもしれないのは分かってる。それでも俺は冒険者になりたいんだ!」

「はぁ…どうしてお前はそんなとこが俺に似ちまったんだかな…いいぜ。どうせ俺がいくら止めてもお前は冒険者になるだろ。だけどな、死ぬなよ。」

「分かってる」

「本当に昔の俺みたいだな…お前は…」

よし。これで冒険者になれる。冒険者になりたいなら俺を倒してみせろイベント無かったね。楽でいいや。


冒険者ギルドにやって来ました。早速冒険者になろうじゃないか。

んー全然人がいない。まぁ今は昼だし冒険者達は依頼を受けて出かけてるのかなー

昼間からギルドで酒飲んでるやつがいるもんだと思ってたけど冒険者だって働かなきゃ生きていけないし昼間から酒飲んでるやつなんかいないか。これは荒くれ者の冒険者に絡まれるイベントは無さそうだね。まぁいいんだけどね。正直今の俺あんま強くないし。そこら辺の男なら簡単に倒せるけど冒険者ってなってくると余裕で厳しい。っていうか多分負ける。今までの人生の大半を回復魔法と土魔法の習得に費してるせいで身体強化魔法がまだ下手なんだよねー

あとついでに言えば転生の時に女神様から聞いた話的にレベルという概念が確実にあるんだよね。今はまだ鑑定をする手段がないから見れないけどね。そして俺は今まで一度もモンスターを倒したことがないから多分レベルが1だ。それに対して冒険者はそこそこレベルが上がってるだろう。勝ち目あるかこれ?ということで荒くれ者冒険者イベント無くてマジ助かる。

受付嬢はそこそこ可愛いかなー

「すみません。冒険者になりたいんですが」

「え、お姉さん冒険者になるんですか?やめといたほうがいいですよー死ぬ人が多い仕事ですからーお姉さんくらい可愛いならもっと別の仕事もありますよーほら、受付嬢とかどうですか?今人手足りてないんですよー」

「いえ、冒険者になります」

「そ、そうですか…登録料は3000セルです。」

「はい」

「ではこちらの用紙に名前と特技を記入してください。文字が書けない場合は代筆しますが大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です」

「エリスさんですね。え?その年で身体強化魔法だけじゃなく回復魔法と土魔法も使えるんですか?もしかして人族じゃなかったりするんですか?」

「いえ、人族ですけど」

「じゃあすごい才能がありますね!これは期待の新人ですね!では色々説明していきますね。冒険者ランクはFからスタートで基本はAが最高です。Sランクも一応存在しますが勇者様以外はほぼなれません。一応今までになった人はいますけどね。冒険者ランクは功績が認められると上がります。冒険者ランクが高いほどギルドが経営する店のサービスがよくなったりするので頑張ってくださいね。エリスさんは大丈夫だと思いますけどあまりにも素行が悪いと冒険者資格を剥奪されることもあるので注意してください。それと喧嘩はなるべくやめてください。周りの人に迷惑をかけるとギルドに苦情が来るので。説明はこんなところです。それではこちらギルドカードになりますー」

「どうも」

「パーティーを組みたいならパーティー募集掲示板に情報貼っとくといいですよー」

「そんなのあるんですね。パーティー組みたくなったら使います」

「依頼を受ける時はあっちの掲示板にある張り紙を持ってきてくださいねー」

「分かりました」

じゃあ早速初依頼いきますか。どうせFランクで受けれる依頼なんて大したことないだろうけどね。採集依頼はつまらんし討伐依頼かなーレベルも上がるし。Fランクの討伐依頼はスライムとゴブリンか。まぁそんなもんだよね。スライムは平原に生息、ゴブリンは森の浅い所に生息か。数は決まってないみたいだから失敗とかもなさそうだし両方受けとくか。

「これとこれお願いします」

「はい。それでは討伐依頼の説明をしますねーまずすべての魔物には魔石があり、魔石は魔導具を動かすために使えます。ここまではいいですよね?討伐依頼は魔石を納品することで達成となります。魔石を納品すると討伐依頼達成報酬と魔石の買い取り報酬が支払われます。魔石を割って魔物を倒す場合もあるので割れていても構いませんが粉々な物は駄目です。市販の魔石って粉々じゃないですか?あれは魔導具に入れやすくするために粉々にしてるっていうのもあるんですけど魔石を買って討伐依頼を達成できないようにする意味もあるんですよ。」

「魔石以外の素材は持ってこなくていいんですか?」

「はい。持ってくるの大変ですからね。冒険者ランクが上がって稼げるお金が増えてアイテムボックスの効果が付与されたバッグを買ったら魔石以外の素材も持ってくるといいと思いますよー」

「分かりました」

「魔物の情報が欲しかったら討伐依頼を受ける時に聞いてくださいねー今回は大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「じゃあ初依頼頑張ってくださいねー」


平原にやってきました。スライム探すよー

と探し始めてはや10分。いない。こんなにいないもんか?いや、まぁそうか。そんなに街の周りにポンポンいたら危ないもんな。これが普通か。ってかそうか、街道に沿って進んだらそりゃいないわ。俺がバカなだけだった…

ってことで街道から離れてみたらスライムいた。

おー結構液体感強めな感じね。丸い感じじゃなくてベチャってしてる感じ。ちなみに俺の武器は鍛冶屋で買った安い剣だ。防具は革鎧を買った。金属の鎧は重くて動きづらいからねー最悪怪我したら回復魔法で治せるしそんな守らんくてもいいかなって思ってる。防御力より機動力だよねーソロだし。

ってことでスライムを倒すんだけどスライムって物理攻撃効きにくかったりするパターンがあるから魔法で倒すか。いや、でも本当に物理攻撃効きにくいか確認しといた方がいいし一回物理でいっとくか。近づいてから見ると魔石が体の真ん中に見えるな。これ壊せば倒せる感じやね。

斬ってみたが魔石まで刃が届かない。スライムが飛びかかってくる。遅いから簡単に避けれる。斬って駄目なら突くか。魔石を狙って突くと剣が魔石を真っ二つにしてスライムの液体の部分が溶けて消えた。

やったね。魔物初討伐だよ!んー手応えがねぇ…まぁスライムだしこんなもんか。とりあえず魔石を回収してあと何匹か倒しとくか。

スライム発見!今度は魔法を使ってみよう。

「アースバレット」

アースバレットはスライムに当たったけどちょっとめり込んで止まった。これスライムに対して弱いな。弾だけど銃みたいにめちゃくちゃ速く飛ばせるわけじゃないから威力がそんなにないんだよな。火属性とかだったら結構強そうだけどね。何発か同じ場所に撃てば倒せるか?

「アースバレット×5」

駄目だったわ。そもそも完全に同じ場所には当てれんし当たっても前の時に空いた穴がもう戻ってるから同じとこに当てても意味ないわ。ここで検証をしようと思う。スライムって魔石さえ壊れなければ液体部分は関係ないですみたいな顔してるよね?まぁ顔とか付いてないんだけど。本当に液体部分はどれだけダメージを受けても大丈夫なのか検証するよー土魔法の練習になるし液体部分に大量にアースバレットを撃ち込んでいくよー

「アースバレット×たくさん」

アースバレットをたくさん撃ち込んでみると再生しなくなった。今は液体部分が少なくなってる。これなら倒せそうだ。

「アースバレット」

魔石を撃ち抜いて倒した。土魔法の練習になるし今日はスライムはこの倒し方するか。


スライムをもう何匹か倒した後に森に来た。ゴブリン探すぞー

5分くらい探して見つけた。4匹か。武器は棍棒3弓1だ。まだバレてない。近づいたらバレるしまず魔法で弓持ちを倒そう。

「アースバレット」

頭に当てたけど倒せない。間髪入れずに同じやつの頭にもう二発撃ち込むと倒せた。アースバレットは威力が低くて一発じゃ足りないな。あってよかった高速詠唱。やつらが近づいてくるがまだ距離がある。もう一匹もってけるな。

「アースバレット×3」

全弾同じやつの頭に命中して狙ったやつは倒れた。 よし。後二体なら近接戦でも勝てるだろ。

「グギャアアア!!」

うるせえ。全力で叫びすぎだろ。思ってた5倍うるさいぞ。

前から二匹同時に棍棒を振り下ろしてくる。せっかく二匹いるのに同じ方向から同時攻撃とは。どうやら連携は下手みたいだ。これなら簡単に避けられる。攻撃を左に躱して振り下ろしの後隙を逃さず一匹の首を刎ね…れない!?俺の剣はゴブリンの首を八割ほど斬って止まっていた。まずい!剣を抜こうと思ったがもう一匹が棍棒を振りかぶってる。俺は剣から手を離して攻撃を躱す。俺は走って距離をとる。

「アースバレット×3」

頭に3発当ててもう一匹も倒した。

危ねえ。この剣ゴブリンの首すら斬れないのか?これ不良品だろ。俺ちゃんと身体強化魔法使ってるからな。使っててこれだからな。生まれてから3才になるまでは結構身体強化魔法練習してたから俺の身体強化がめちゃくちゃ下手ってわけじゃないと思うしやっぱりこの剣が原因だな。ん?剣の形がおかしい?……っ!これスライムを倒した後にスライムの液体が剣に付きっぱなしだったから剣が溶けたのか!あーこの世界のスライムは金属溶かすタイプなのか…そのパターンも考慮してたけどそもそもスライム倒したら魔石以外消えるし剣についた液体も消えるもんだと思ってたわ。いや、でもゴブリンの死体は残ってるしスライムの液体は消えたわけじゃなくて地面に染み込んだだけか。

っ!?痛っ!

左肩に痛みが走る。左肩を見ると矢が刺さっていた。左を見ると棍棒1弓1のゴブリンがいた。まさかゴブリンのあのうるさすぎる叫び声は仲間を呼ぶ声だったのか?どうする?剣は使えない。魔法で倒すか?でも相手に弓持ちがいる。詠唱中に撃たれないか?いや、アースバレットは最初の魔法だから詠唱が短いし高速詠唱もあるからすぐに詠唱は終わる。だったら矢が飛んできても避けれる。

「アースバレット×2」

矢を避ける。

「アースバレット」

弓持ちを倒したが棍棒持ちがすぐそこまで来てる。一体なら殴って倒せばいい。振り下ろされる棍棒を避けてから右ストレートを顎にぶちかます。

ゴギィ!

よし。なんとかなったな。左肩痛ぇ…矢を抜いて回復魔法使わなきゃなー

よっこらせ!痛ってぇ!まだ冒険者なったばっかであんまり怪我したことないから痛みに慣れてないんよー

「ヒール」

よし治療完了。魔石回収してギルドに帰るか。


帰るとギルドは賑わっていた。昼間とは違って夕方には流石に酒飲んでるやつがいる。

「依頼の達成報告に来ました」

「はい。スライムの魔石が10個とゴブリンの魔石が6個ですね。こちら報酬の16000セルになりますー」

「ありがとうございます」

「ソロで初めての依頼にしては多いですね。これからも頑張ってくださいねー」

報酬は16000セルか。命かけたとはいえ最低ランクの依頼だからな。ちょっと訓練すれば倒せるレベルの魔物だしこんなもんか。

家に帰る時にも冒険者には絡まれなかった。まだ夕方だったからベロベロのやつはいなかったしそりゃ絡まれんか。冒険者だってベロベロでもないのにわざわざ問題を起こしたりせんよな。これからも夜遅くにはなるべく来ないようにしよう。そうすれば絡まれる可能性がだいぶ下がるだろう。


家に帰って夕食を食べながら親と話す。

「エリス。もう依頼を受けてきたのか?」

「うん。スライム10体とゴブリン6体を討伐してきたよ」

「初日からそれか…お前には才能がある。だが油断はするな。」

「分かった」

「俺がなれなかったAランクにお前ならなれるかもな。頑張れよ」

「任せとけって」


寝る前に俺は今日の反省をする。明らかに油断していた。スライムが金属を溶かすという情報、ゴブリンが仲間を呼ぶことがあるという情報、これらの情報は討伐依頼を受けた時に受付嬢に聞けば得られたであろう情報だ。なのに所詮はスライムとゴブリンだと見くびってそれをしなかった。これは明らかな油断だ。今回は結果的には助かったが次油断したら死ぬかもしれない。もう油断はしない。…なるべくね。

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