第25話 仕事内容

 ハゼリから聞いたイオリの最初の仕事は、本部に向かう兵達を送り出す事だった。


 朝は兵よりも早く起き、玄関をほうきで掃く。そして、出勤準備が出来た彼らを見送るのだ。全員が出たら、使用済みのベッドに敷いていたシーツを集めて来る。それからハゼリと一緒に洗濯をし、干したらハゼリとイオリ二人で朝食。そして宿舎内の掃除にかかる。

 朝食など、兵達の食事の世話は本部の食堂がやってくれるので、百人近い食事の用意をしなくていいというのには、ほっとした。



 ハゼリとイオリの二人はダイニングでお茶を手に、向かい合って座っていた。一通り仕事内容を説明してもらい、一息つく。



「軍服や下着類はそれぞれ自分で洗うのが決まりでね。訓練のうちだよ。私たちは大体シーツの洗濯と掃除。シーツはすんごい枚数になるだろう? あの大人数に洗濯するモンが一人や二人じゃ一日経っても終わりゃしない。だから私がグループに分けたんだよ。だいぶ楽になったわ」

 仕事の効率アップの為の肝っ玉母さんの知恵袋。イオリも納得し、頷いた。

「それでもシーツは山のように来る。がんばるんだよ」

「はい! でも、私ちゃんと起きられるか心配です。いつも何時に起きてるんですか?」

「私は大体5時に起きてるよ」

「ごじ!?」

「イオリもそれくらいに起きるんだよ。これをあげよう」

 そう言って、ハゼリの席の後ろに置いてあった時計を取り上げると、イオリの前に出した。長針と短針が回るアナログ時計だ。

「これを使いな」

「ありがとうございます」

 イオリは時計を受け取ると、早速時間をセットする。そして気付いた。

「電池?」

 アラームが鳴る時間を設定するつまみの下に、見覚えのある四角い切れ込みを見つけたのだ。それを開けると、これまた見覚えのある乾電池が。

「この世界にも、電池があるんですか!?」

「あるよ。電気がなくなれば充電して、また使えるから便利だよ。イオリがいた世界にもあるんだね」

「はい。向こうの世界と似たような家電がいくつかあったので、実は驚いていました」

 宿舎を案内してもらう中で発見したのだ。台所で冷蔵庫、洗濯場では洗濯機、時計も普通に壁にかかっている。ちなみに、トイレは水洗で、下水道もきっちり整備されているという。

「じゃあ、生活に慣れるのも早いかもしれないね」

 ハゼリはイオリの世界との共通点を見つけて嬉しそうだ。

「はい」

 イオリも笑顔で頷いた。




 それからイオリは部屋に戻り、ぞうきんを持ち、部屋を掃除しながら荷物を片付けた。服はクローゼットに入れ、ジェイドに買ってもらった本と辞書、そして新聞を机に並べる。


 最初に読めと買ってくれたのは、かわいい表紙の絵本だった。動物や絵が描かれた、この世界の文字を学ぶお子様の本。短編の絵本に、少し成長した子供向けの児童書も数冊。本屋でジェイドはそれらを持ち、レジの所へ行った時の店主の度肝を抜かれたような顔は、なかなか忘れられない。彼が絵本と辞書を買うという、全く似つかわしくない光景は、さぞ、不釣合いで、異様な光景だっただろう。

 思い出して、ぷくく、と笑うが、心の中にある寂しさが抜けきれない自分がいる。


(だめだ。甘えてはいられない)


 頭を振ると時計を机の上に置き、家族と親友からもらった誕生日プレゼントを一番上の引き出しにそっと入れた。イオリが間違いなく、向こうの世界にいたと証明するものだ。



「明日から、がんばろ」


 両の頬をパンと叩き、気合いを入れた。

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