第2話 誕生日
チュン、チュン……
「……まただ」
「今日も、あの人だったな」
口元が緩む。物心がついた頃からずっと見て来た夢。鳥のように大空を飛んでいる。世界のあらゆる場所に行けるのだ。大きな山には火を吐くドラゴン。
そして、最近よく見るのが、とある港町だった。真っ青な海がとても美しい。そこで同じ服を着ている人達の中に、その人物はいた。
緑の瞳で目つきは厳しい感じ。
薄緑の短い髪をかき上げている。
身長が高く、イケメンの部類に入る。
最近テレビでよく見る自衛隊のような、部隊をまとめる人のように見えた。皆が彼の後を着いて行く。その姿がとてもカッコイイ。
「実際には会えないけど、あんな人がいたら惚れちゃうかも」
へへ、と一人で笑いながら、顔を洗いに部屋を出た。
「誕生日、おめでとう!」
「ありがとう~」
大学で、友達に声をかけてもらう。もうすぐ夏休みで皆、浮かれ気味だ。遊ぶ為にバイトを頑張っている子もいる。
「これ、プレゼント」
親友が小ぶりの紙袋を机に置いた。
「見ていい?」
「うん」
中の物を取り出し、伊織は笑顔になった。
「これ、しおり?」
「そう」
そのしおりは紙ではなく、金属でできていて、
「本、好きでしょ? しおりなら、使ってもらえるかなって」
「すっごくかわいい。嬉しい! ありがとう!!」
親友も伊織の喜ぶ顔を見て、満足そうに笑ってくれる。伊織も、彼女の誕生日には、ステキなプレゼントを贈ろうと思った。
「あ~、満腹。もう食べられないわ」
夜。ソファでぐうたらする伊織。ジャージにTシャツ、肩より少し長い黒髪は後ろで一つにまとめるラフな恰好。リクエスト通り、ちらし寿司にポテサラ、イチゴのケーキを食べまくった。
「姉ちゃんの胃袋、どうなってんの」
弟の
「おいしいから、入っちゃうの」
お腹をさする。伊織は昔からよく食べる子だった。好き嫌いもない。
「色気より食い気かよ。だから彼氏できないんだよ」
「うるさい。ほっといて」
大学では勉強を頑張っている。そこまで前に出るタイプではないと理解している。大学は共学で、男子と仲が良い女子達は、勉強よりも恋愛と遊びの話で忙しい。伊織は周りの男子に興味がなかった。カッコイイ、優しい、良い奴、と思う人はいる。しかし、恋愛対象として考えてみると、どうにも一歩引いてしまうのだ。
リビングに置いてある本を手に取った。ぱらぱらとページをめくり、読書タイム。
「恋愛指南書でもプレゼントしてやろうか?」
「そんなのいりません」
目は本から離さず、返事だけ。母親は、そんな姉弟の会話を聞きながら笑っていた。
(心配したけど、平和に今日が終わりそうね)
ホッと、息を吐く。
「ただいまー」
父親も帰って来た。手には紙袋を持っている。
「誕生日、おめでとう」
伊織に紙袋から出した小箱を手渡した。
「ありがとう。何だろ」
巻かれていたリボンを外し、箱を開けると、わっと声を上げた。
「ブレスレットだ!!」
透明のクリスタルが付いた銀のブレスレット。付けてみると、光に当たってキラキラしている。
「お母さんからは、コレ」
細長い箱だ。開けると、ブレスレットとお揃いのネックレスだった。
「あんたはアクセサリーに全然興味がなかったから。これからは一つくらいないとね。良かったら使って」
「ありがとう。大事な時に使うよ」
両親からのプレゼント。ぎゅっと大切そうに抱いた。父と母も、顔を見合わせ笑っている。
「えぇ、あとは俺かよぉ……」
真博がゴソゴソとポケットを無造作に探る。拳を握ったまま、伊織に差し出した。伊織はとりあえず両手を開いて出した。
ぽん、と何かを乗せられる。
「折り鶴?」
「めちゃくちゃ丁寧に折った。おまけに風船も付けてやる」
折り紙の風船も鶴の隣に置かれた。思わず、ぷっと笑ってしまう。
「あんたらしいわ! ありがたくもらっておくよ。ありがとね」
「おうよ」
胸を張って頷く真博に、家族全員で笑った。
もらったプレゼントやスマホ、読みかけの本を紙袋の中で一つにまとめ、自分の部屋に戻ろうとした時だった。
ガシャン!
「!?」
突然、ガラスが割れる音が響いた。ドタドタと無遠慮な足音がいくつも聞こえる。伊織達は、急な事に驚いて固まってしまった。
「何……泥棒?」
母が
「急いで二階に行こう。警察に電話だ」
リビングの中に階段があって助かった。父親が最後尾で皆を無理やり動かし、階段を上がる。
バァン! と、突如、リビングの扉が吹き飛んできた。
「きゃあっ!」
伊織と母親が悲鳴を上げる。
「早く上がるんだ!!」
父親が
『おいおい! どこ行こうってんだ?』
黒いマントにフードをかぶり、胸に付けた黄色い石が目立つ男が入って来た。ゴリゴリと金属バットのようなものを引きずっている。ばき、と割れた扉の破片を踏みつけた。
「今の、言葉……」
伊織は階段を上りながら、胸の奥がざわついていた。
あの男は、日本語でもない、英語や他の国の言葉でもない言語を話したのだ。
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