異世界帰還した女子大生のNOスローライフ
うた
第1話 葛藤
彼女は、幼い頃から普通ではない所があった。
「明日は、伊織の誕生日ねー」
「そうだよ。二十歳♪」
母親が七月のカレンダーを見ながら日付をチェックしている。伊織も読んでいた本から視線を上げて、嬉しそうに笑った。
「姉ちゃん、明日でおばさんになんのかー」
「うっさいよ
十五歳の弟の真博が茶化す。姉弟で口喧嘩をするのはいつもの光景だ。
「明日……か……」
ふと、母親の表情が暗くなった。
「どうしたの?」
「あ、ううん。明日はたくさんご馳走、作らなくちゃね!」
「やったね。ちらし寿司と、お母さんのポテサラ、それからイチゴがいっぱい乗ってるケーキがいいな」
「ふふ。了解」
「懐かしいな。伊織が生まれた時の」
夜。伊織と真博が自分の部屋に行ってから、リビングのソファで母親はアルバムを引っ張り出して見ていた。風呂から出た父親がそれに気付き、隣に座る。
「ええ。もう二十年経つんだなぁって」
「そうだな……」
父親も写真に目を落とす。
「別の世界の人間て……信じられないな。伊織は周りと何も変わらないのに」
「
ページをめくると、幼稚園の時の写真になった。小さい体で、一生懸命遊んでいる。笑顔がキラキラしていた。
「この時、変わった言葉を話してたじゃない。英語でも、他の国とも違う言葉。確か、トマトの事を”トゥナージェス”とかって」
何度言葉を教えても、変な言葉で返してくる時期があった。普段は日本語なのだが、時々違う言葉がポロっと出る。寝言が日本語じゃない時もあった。
「幼児のごっこ遊びかと思ったけど、遊びの域を超えてたような。あの言葉が、伊織の元の世界の言葉だったのかな」
幼稚園の年長になる頃には、日本語をしっかり話すようになり、それから変わった言葉を話す事はなくなったが、両親は
「よく不思議な夢を見るって言ってたわね。それは今もあるみたい」
「夢?」
「広い大空を飛んでるんだけど、見かける人が日本人じゃないって。中世のヨーロッパにありそうな、豪華なお城や建物もあるけど、本には載ってないから不思議だって言ってたわ」
「そうか……」
二人は黙ってしまった。
「……ねぇ、やっぱり……来るのかしら……迎えが」
「……」
父親は母親の顔を見て、視線を落とした。
「あれは夢じゃ、ないんだよな」
「ええ。確かに私達は、約束したのよ」
――子供が欲しいか? 望むなら、我が世界の魂を一つ、預けたい。二十年の月日が経った時、迎えをよこす――
「子供ができなくて、諦めかけてた時に夢の中で聞こえた声。時が来るまで大切に育てて欲しいって……」
二人が同時にこの夢を見た奇妙な体験。明るい光の中に浮いていて、突然、目の前にオーロラのような光のカーテンが現れた。そこから声がしたのだ。母親は元々体が弱く、いろいろな検査をして、結果、妊娠ができない体なのだと医師から告げられ、絶望の中にいた時。
「真博を生む力もくれたんだよな」
「夫婦二人きりに戻るよりは、いいからって」
母親は、ぎゅっと手を握りしめた。
「約束なのは分かってるけど、でも……あの子は間違いなく私達の娘よ。手放すなんて、できない……」
二十年経った時、別れが待っていると初めから分かっていた。あの声が神様のものだとしたら、約束を破る事は許されない。全てを受け入れた上で、伊織を授かったのだから。それでも、ずっと育ててきた愛情がある。親なのだ。情が生まれて当たり前。だからこそ、心の
「明日来るとは限らないだろう。そもそも、迎えだって来るか確証がないんだ。俺達は、いつも通り子供達を大事にすればいい」
「……そうね。私、あの子に手紙を書くわ」
「いつでも渡せるようにか。良いと思うよ」
涙を
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