第57話 人生分からないもんだ

「そのネーミングセンスには流石の俺でも引いたぞ。けど、その姿を見たら、なんとなく納得したぜ」


 俺は心底軽蔑するようにやつを睨んで言った。


 あいつが転生する前の勇者だったのか。


 前髪だけくっそ長い勇者の中身がこいつだったとは、マジでビビるぜ。


 だが、


 あんなに明るく笑っている姿を見ていると、なぜか怒る気にはなれなかった。


 この世界にいたときとは真逆だ。


 まるで純粋でいたいけな子供が笑っているようで、彼の笑みを一言で表現するのなら、純白。


「まあ、しょうがねーだろ。勇者に転生したとしても中身は50超えのキモデブおっさんだからよ。あははは!」

「いや、なんで笑ってんだよ」


 俺が引き気味に問うと、やつは俺の瞳をまっすぐ見つめて口を開く。


という感覚を初めて味わったからな」

「はあ?」


 聞き返すと、昔を思い出すかのように寂しい表情をする彼。


「俺、こんな見た目してるから学生時代はずっといじめられて、コミュニケーション能力にも難ありで、引きこもり生活しながら離婚した母さんの脛齧りまくってたんだ。家を出てからは国からお金もらって、それでパチンコとエロゲに散財してたな」

「うわ……」


 すごい経歴の持ち主ですな……


 俺が口を半開きにして驚いていたら、やつは淡々と説明を始める。


「だから、この世界に転生したときは絶対ハーレムを叶えてみせると意気込んでて……んで結局お前に負けて元の姿に戻ったってわけだ」

「……」


 どおりで必死すぎたはずだ。

 

 俺はやつに言う。


「それで、あんたの夢をぶち壊した俺を憎んでいると」


 まあ、当然やつは俺のことを殺したいほど憎んでいるのだろう。


 だが、


 やつは


 クスッと笑って反駁する。


「最初はそうだった。けど、今はお前のことは憎まない。恨まない」

「なぜだ?」

「言ったろ?生きるという感覚を初めて味わったって」

「……」

「労働ちゅうのは尊いもんだぜ。自分が血、汗、涙を流して稼いだお金を母さんのために使うのって、なんかすごく満たされるというか……」

「母さん……」


 その言葉を聞いた途端、俺の心に重い何かがのしかかる気分だった。


「初めて親孝行をしたんだ。母さんを銀座の料亭に連れてきて、一緒に美味しいものをいっぱい食べたんだ。まあ、二人ともめっちゃ泣いたから料理どころじゃなかったけどよ」

「……」


 俺は必死に堪える。


 この世の頂点に君臨するものは醜態を晒してはいけないんだ。


 我慢だ。


 我慢……


 だが


「お、アークデビル、お前泣いてるのか?」

「うるせ……」

「転生前のお前にも家族がいたもんな」

「……お前と違って、もう会えないんだ」

「……そうだな。それは残念だった」

 

 やつは顔を俯かせてため息をついている。


 んだよ。


 これまで俺のことを殺そうと躍起になってハーレムカリバーを飛ばしてきたくせに、なんでそんな心配するような顔をするんだよ……


 ちくしょ……


「アークデビル……」

「なんだよ……」

「お前は転生前の世界に心残りがあるだろう?」

「無いんだよ。あんなクソみたいな世界」

「あるに決まってる!普通、なろう系の主人公は辛い現実から抜け出して異世界で幸せを目指すけど、それは欺瞞だ」

「欺瞞……」

「辛かった現実の中でも、自分を想ってくれる存在がいる。支えてくれる存在がいる。不幸がずっと続くと思うけど、それでも心の片隅には大切な存在がいて、それが生きる希望を生み出すんだ。その存在が家族でなくても構わない。太陽の光、道端のタンポポ、野良猫、友達……なんでもいいんだ」

「……」

「さあ、言ってごらん」


 そう言ってやつは手を差し伸べた。


 頬を伝う波が地面に落ちる頃、俺の口は自ずと開いた。


「俺が中学の時から飼っていた黒柴のクロゾウくん……中学の時からずっと一緒だった大志……俺の告白をふってサッカー部のエースと付き合った亜美……大学時代、ずっと好きだったけど優柔不断な性格で告白できなかった霧島先輩……あと」


 喉につっかえる何かを吐き出すように俺は言葉を吐く。


「今まで俺を育ててくれた父さん母さん……確かに辛いこともいっぱいあったけど、やっぱり懐かしい……くっそ……辛いことさえも懐かしく感じてしまう……」


 俺は腕で涙を拭う。


 そして、また重たい口を開いた。


「みんなに伝えたい。ありがとうって、伝えたいんだ……でも、届かない。俺は死んでしまったから」


 絶望の表情でいると、奴の声が俺の耳に入った。


「何をしたって後悔は残る」

「……そうだな。おっさんの言う通りだ。俺の優柔不断な性格がいっときの安らぎと絶大な後悔を産んだのさ」

「ああ。お前が部長を殴って会社を止める選択肢もあったんだ」

「そう。だからこの後悔は自分にとって当たり前の感情だ。そういう意味では俺の優柔不断な性格は罪だ」

「ああ。でもよ」

「ん?」

「後悔を感じさせない方法を俺は知っている」

「そんなのあるわけねーだろ……」

 

 そう。


 今こんなに後悔しているっていうのに。


 俺が悲しんでいたら、やつが口を開いた。


「贖罪だ」

「え?」

「俺は自分の野望を叶えるために、お前を殺そうとした。だから俺はお前に償わなければならない」

「償う?」

「さっきお前が言ってた人たちを特定できる個人情報をくれ。俺がお前の代わりに伝えてやろう。ありがとうって」

「……」

「そして、このおっさんの謝罪を受けてくれ。ごめん」

「……」


 俺はこのキモデブおっさんに完全敗北した。


 まさか、自分の命を狙った人が、俺の憂さを晴らしてくれるなんて……


 人生わからないもんだ。


 ひょっとしてやつが俺の両親に酷いことをするんじゃないかという不安もあるけど、


 あの瞳を見ると、


 そんな不安は一瞬にして吹き飛んだ。


 俺はやつに個人情報を伝えた。


 やつは


「その世界で幸せに暮らすんだ。裕一郎くん!」


 と言い残して手を振ってくれた。


 名前を聞こうとしたが、やつの姿は消えてしまった。


 そして俺は目が覚めた。


「……」


 大木に背中を預けていた俺の目の色は真っ赤で腫れている。


 清流のせせらぎ、昆虫の声、夜の始まりを知らせる梟の鳴き声。


 空は綺麗なグラデーションで、ところどころ星々がキラキラしている。


 心が軽くなった気がする。


 ずっと抱えていた心の重荷がなくなる感じがする。


「元勇者からのお墨付きももらったわけだし、そろそろ行くか」


 俺は翼を広げ、魔王城へと向かう。


 城に到着した途端、俺は夕食を済ませシャワーを浴びる。


 さっぱりした状態の俺は、早速自分の部屋へと向かう。

 

 タオルを一枚巻いた状態の俺は自分の部屋のドアを蹴り上げた。


 すると、


 寝巻きを一枚だけ羽織っているヒロインズたちが目に入った。


 計8人(イゼベル、サーラ、アリア、リアナ、アンナ、ルイス、サフィナ、ビルジニア)だ。


 彼女らは俺の突然すぎる登場に目を丸くする。


 あのおっさんの前では恥ずかしい姿を見せたが、ヒロインズ相手には魔王らしい姿を見せつけねば。


 なので、俺は羽織っているタオルを脱ぎ捨て裸状態になった。


 すると、ヒロインズは俺の下半身に視線を向けて目玉が飛び出るほど仰天する。


「(イゼベル)アークデビル様……前よりもっと大きい……」

「(サーラ)……」

「(アリア)なんだよこれ!!あり得るサイズなの!?」

「(リアナ)これは常識を覆すようなビジュアル……」

「(アンナ)あれで、精力も世界最強……体が持つのかしら……」

「(ルイス)やっば……やばすぎでしょこれ……」

「(サフィナ)なななななななんでしょう……これは……」

「(ビルジニア)ほお、実に興味深い大きさだ。文献で見てたのとは比べ物にならないほどの凶暴さ」


 俺は戸惑うヒロインズに向かって口を開く。



 俺はほくそ笑む。



 童貞の森崎裕一郎。



 !!!!!!!!





追記


 

 これで終わりです。


 エッチシーンはここだとNGですので、後の展開は読者様の想像にお任せします(一回凍結くらった経験あるのでビビります)。


 最初は軽い感じで読みやすいストーリーを書こうと想ったのですが、それだとやっぱり面白くないので、自分の個性を入れることにしました。


 流行りに乗っかって、同じ小説ばかり書くとPVはとれるけど、面白くない。


 かといって自分の持ち味だけを出しすぎると読まれない。


 間をとって、流行っているジャンルに自分の個性を入れまくって小説を書こオオオオオオ!!!!


 っていう結論に至りました。




 

 自分の(拙い)小説を読んでくださって本当にありがとうございます。


 皆さんの応援のおかげで、昨年はカクコン8で漫画賞をもらうことができ、現在絶賛企画進行中です!


 新作はラブコメにするか異世界にするか悩んでますけど、新作は近い内に上げるつもりです!


 最後までお付き合いくださりありがとうございます!


 読者様に良いことがありますように。


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