第56話 アークデビルの前に現れたのは

 不覚にもギョッとしてしまった。


 これは……

 

 動揺している俺を見て、ほくそ笑むビルジニアは自分のお腹をさすりながら口を開いた。


「ふふ、この世で最も強い男の子種をもらうのは自然の摂理だ。独占などさせないぞ。アリア女王」


 手の甲で口を隠し、アリアに挑発の視線を向けるビルジニア。


 服装自体が古代ローマ皇帝に似ているため、漂わせる威厳は半端ではないが、そんな彼女が子種と言う卑猥な言葉を!?


「……わかっていますよ!でも、私の方が先ですからね!私は彼の婚約者です!最初の婚約者!」


 明らかに敵意を剥き出しにするアリアにビルジニアはクスッと笑って小悪魔っぽく言う。


「この男の前で婚約とか結婚とか無意味だ。子種を先に貰った方が勝ちってわけ」

「女帝……」


 アリアが歯軋しながらいきなり俺を睨んできた。


 おい、なんで睨む。


 と、冷や汗をかいていたら、今度は大魔女であるルイスが口を開く。


「私も参戦しよっかな」

 

 ルイスまで?


 いや、理由がわからん。


 俺はルイスを見て小首をかしげた。


「はあ?」

 

 そしたらルイスは口角を釣り上げ、妖艶な表情を見せてきた。


「だって、最強の男はベッドでどうなのか試したくなるじゃん?」


 彼女は獲物を狙う鷹の如く、鋭い視線を俺に向ける。


 確かにルイスはドS属性持ちだったよな。


 だが、勇者の鬼畜プレーによって、ドSがドMに徐々に変わってゆく場面には長らくお世話になったものだ、


 ルイスは俺を絶対離さんと言わんばかりに見つめてくる。


 そこへ、彼女の隣にいるアンナが恥ずかしそうに口元をもにゅらせ、ルイスのロブの先端をグイグイ引っ張る。


「ん?」

「ルイス、気をつけた方がいいわ。この男はこの世界の頂点に君臨するもの……だだからね、そっちの方も世界の頂点だわ……私の聖の力がそう言っている」

「え?まじ?」

 

 ルイスが若干引いたように顔を引き攣らせると、今度は爆乳エルフのサフィナが身震いしてアンナの後ろに隠れる。


「そっちの方も世界最強……最強……最強……」


 サフィナはぐるぐる目で何かを呟いている。


(リアナとサーラは抱き合って震えていた。だが頬はピンク色だ)


 俺が戸惑っていたら、イゼベルが意味ありげな顔で俺を見、頷いた。


 何勝手に納得してんだよ!


 そしたらビルジニアが感心したように俺を見て口を開く。


「アークデビル、其方は実に有能な女を持っているんだな。まさか、ゼン・ライトを倒した直後に、ハーレムの話を持ちかけてこようとは」


 言い終えたビルジニアはイゼベルの方を見てほくそ笑む。


 イゼベル!!


 お前の仕業だったのかあああ!!


 俺がイゼベルに恨みのこもった眼差しを向けると、彼女はけろっとした感じで微笑み、俺にとろけるような視線を向けてきた。


 ゼン・ライトを倒してからずっと忘れていた。


 こいつらが、めっちゃエロいエロゲーのメインヒロインであることをな。

 

 最初はイゼベルと幸せな生活ができればそれで満足って考えた。


 サーラとアリアとリアナが加わった時は、正直嬉しかった。


 けれど、それ以上のことを欲したわけではない。


「……」

 

 どうやら、


 心の準備をしておいた方がいいかもしれない。


「えっへん!」


 俺は気を取り直すべく、わざとらしく咳払いをした。


 動揺すんな。


 俺はアークデビルだ。


 優柔不断な転生前の姿を見せてどうすんだ。


 今更キャラを変えるわけにはいくまい!


 俺は残りのワインを飲み干した。


 そして、


 実に魔王らしく傲慢極まりない表情で彼女らに言葉を発した。


「調子に乗るんじゃない。女王?女帝?大魔女?大聖女?エルフ族の姫?ふっ!笑わせるな!!このアークデビルの前では、一人のか弱い小娘だ!!」


「「「っ!」」」


 やっべええ……

 

 童貞を貫いた俺がこんな大それたことを…… 


 ヒロインズたちは、電気でも走っているのか、急に上半身をひくつかせる。


 俺は続ける。


「今宵、このアークデビルが、貴様らに本物の天国とやらを見せてやろう。全員体を洗って俺の部屋で待機していろ。俺は気分転換にちょっと出かけてくる」


 言った俺は翼を広げ、執務室を出る。


「ほお、天国か。それは実に興味深い」


 ビルジニアがお腹をさすりながら言った。


「本物の天国ね、私相手にそれができるかな?」

 

 ドSっぽく鋭い視線をアークデビルの玉座に向けるルイス。


「……」

「……」


 何も言わず、身震いするアリアとアンナ。


「天国……本物の天国って一体なんなんでしょう……」


 アンナに隠れて、ぐるぐる目をするサフィナ。


「「……」」


 ドアの外ではリアナとサーラが尻餅をついて互いを強く抱きながら恐れていた。


 だが、みんな頬はピンクである。




「やばいやばいやばい……あんなところにいてられるか!」


 空を飛ぶ俺は顔を両手で覆い絶賛悶絶中である。


 心の準備……

 

 思ってたよりだいぶ時間がかかってしまいそうだ。


 俺は気分を落ち着かせるべくデビルニアのありとあらゆるところを飛んだ。


 ダンジョン、川、山、海、荒野などなど……


 今の俺は清流のせせらぎを聞きながら大木に背中を預けていた。


 俺は目を瞑って大自然と交わるように力を抜く。


「そういえば、一人でいるの久しぶりだな」


 不覚にもため息が漏れてしまう。


 そのため息すらも清流のせせらぎによって洗い流される気がしてきた。


 社畜だったころはずっと一人だった。

 

 会社にいる時も、家にいる時も、


 精神的にも物理的にも追い詰められていた。


「父ちゃん……母ちゃん……」


 大学を卒業し、あのブラック企業に就職することが決まると、俺は嬉々としながら家を出て一人暮らしを始めた。


 けれど、悲劇が始まった。


 両親には悲しい思いをさせてしまったな。

 

 俺、一人息子だからな。


 二人の笑顔が見たかった。


 幸せな姿が見たかった。


 金をいっぱい稼いで、優秀な社会人として振る舞っている自分を見せたかった。


 かわいい彼女を作って二人に紹介したかった。


 結婚して赤ちゃんの顔を見たかった。


 孫を抱えながら微笑む両親の姿が見たかった。


 だが、それはできない。


 俺はブラック企業で部長に搾取され、過労死してしまった。


「んだよ。絶世の美女らとのハーレム生活が始まろうとしてんのに」


 そう呟いていたら、


 睡魔がさしてきた。


 俺は大自然の緑の中で、眠りに落ちる。


 不思議だ。


 意識がある。


 夢?


 現実?


 幻?


 自分に疑問を投げかけると、


 茫漠としていた暗闇で何かが見えてくる。


 一人の中年だ。


 太っていて、服も汚い。

 

 工事現場で働く人っぽい。


 その男は俺を見て、明るく笑っている。


「あはははは!アークデビル!元気か?」

「え?なんで俺の名前を?」


 俺が問うと彼はクスッと笑う。


「おい、もう忘れたのか?このやろう!俺ので思い出させてやろうか?」


 ハーレムカリバー……





追記


ごめんこ


今回じゃなくて次回で最後かも






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