第55話 押しかけるヒロインズ

​​「倒した……」

「アークデビルがゼン・ライトを倒したぞ……」

「すごい……」

「やっと……やっと平和が訪れる……」


 国際連合軍らはいなくなった勇者に気づき、武者ぶるいが止まらずにいる。


 俺を裏切った魔族らは、


「嘘……」

「負けてしまうなんて……」

「あり得ない」

 

 絶望の表情を浮かべ、落ち込む。


 どよめきが走る中、


 俺はヒロインズのいる要塞のてっぺんに飛ぶ。


 そこには、大聖女のアンナ、大魔女のルイス、爆乳エルフのサフィナが明るい表情を向けていた。


 イゼベルはというと、涎を垂らして自分のお腹を摩ってとろけ顔を晒していた。


 おいイゼベル、お前何やってんだ……


 俺はやれやれと言わんばかりにため息をついて、後ろでショックを受けているヘーゲルにダークソードを向けて一振り。


 すると、ダークソードから放たれた暗黒の力はハーゲルを拘束する。


「っ!そんな……」


 弱っている。


 イゼベルと戦ったことによる体力の低下もあるだろうけど、勇者に吸い尽くされたことが効いているのだろう。


 俺はてっぺんで、下を見下ろして大声で叫ぶ。


「このアークデビルが、堕落した勇者を倒した!!!!」


 いうと、早速下にいる国際連合軍と裏切ってない魔族たちが雄叫びをあげる。


「「「!!!!!」」」


 興奮した彼らは、早速ゾンビになっている裏切り魔族らを切ってゆく。


 裏切り魔族はちゃんと抵抗もできずに倒れていった。


 別に止めるつもりはない。


 奴らは裏切り者だ。


 まあ、勇者に吸い尽くされた時点で、奴らの死は確定していたんだが。

 

 あらかた裏切り魔族らが片付いたら、今度は大変満足そうにドヤ顔を浮かべるビルジニア女帝が俺を見上げて言う。


「アークデビル、其方の活躍は我……ビルジナの脳裏に……心臓にしかと刻まれた!ゆえに、ここで国交を結ぶことをこの私から要請する!!」


 ビルジニアの忌憚のない言葉を聞いて、他の王や女王たちも口々に言う。


「俺もビルジニア女帝と同じだ!国交を結ぼうではないか!」

「これまで私はあなたを誤解していた。お詫びの印として、国交を正式に結んだとき、溢れんばかりの宝を用意しよう」

「俺たちが争う理由はない!!」

 

 彼ら彼女らの言葉が俺に安らぎを与えた。


 もう破滅フラグとはおさらばだ。


 けど、


 俺の魔王としての、アークデビルとしての役割はまだ終わってない。


 俺はほくそ笑んで、魔王っぽく振る舞う。


「ああ!いいだろう!貴様らが平和を望むなら、俺はそれを拒まない。だが、このアークデビルに挑むやつが現れたら、俺はそいつを徹底的に潰す。勇者のようにな!!」

 

 言うと、今度は裏切ってない魔族らと国際連合軍らが互いを見つめて、声高に叫ぶ。


「「「オオオオオオオオオ!!!!!」」」


「ふっ」


 俺は腕を組んで満足げにこの光景を視界に収めるのであった。


(アークデビルを見つめながらボーッとなっているヒロインズ)


X X X

 

 二ヶ月後


 勇者がいなくなったこの世は実に平和で、活気に満ち溢れている。


 だが、


「クッソ……疲れた」


 そう。

 

 俺はめっちゃ疲れている。


 事後処理が多すぎるのだ。


 最も俺を苦しめたのは国交の樹立。


 ここ二ヶ月間、帝国を含む八つの国と国交を結んだ。


 それと同時に通商条約やら、何やらで頭がパンクしそうになった。


 まあ、実務の方はイゼベルを含む賢い官僚らに任せたのだが、かといって何もしないわけにはいくまい。


 国交を結んだ国々に赴いて、魔族は決して悪い存在ではないということをアピールするために奔走した。


 最も効いたのが日本の料理だ。


 焼き鳥やたこ焼き、お好み焼きといった日本のソウルフードを人族に恵むたびに、奴らは熱狂し、すぐに魔族と人族の隔たりは無くなった。


 あとは夫婦である人族クシュと魔族シリのラブラブな姿を通信魔法を使って配信したりもした。


 反応は凄まじかった。

 

 それを証明するかのように、今のユウイチロウは……


「押しつぶされるんじゃないかこれ」

 

 執務室のベランダから眺めるユウイチロウの風景。


 人がゴミのようだ。


 魔族と人族のカップル、魔族と人族の友達、楽しそうに日本のソウルフードを食べながら談話を交わす人族と魔族たち。


「これでやっと自堕落な生活を送ることができるわけだ」


 安堵のため息をついて、頬を緩める俺。


 俺は執務室に戻り、玉座に座ってサイドテーブルに置いてあるワインを飲んだ。


「んぐんぐ……ぷあっ!うまい!」


 これから自堕落な生活が俺を待ち受けていることを思うと、よりワインがうまく感じられる。


 まずは料理だ。


 ソウルフードだけでなく、寿司、ラーメン、牛丼、うどん。


 日本の食べ物もいいけど、中華料理も捨てがたい。


 他にもインド、アメリカ、韓国……


 俺の圧倒的力を用いて、これらの国々のおいちい料理を全部作るぞい!

 

 社畜時代はエロゲ以外は料理くらいしか楽しみがなかったんだ。


「よし!じゃ、早速自堕落タイムレッツゴー!」


 魔王らしくない表情で右手を高らかに突き上げた。

 

 すると、


 誰かがドアをノックする。


 誰だろう。


 一人で喜びに耽っているって言うのに、実にけしからんやつだ。


「誰だ?」


 ちょっとイラッとなってキツめに言う俺。


「イゼベルでございます」


 また事後処理のことで相談があると言うのか。


 なら仕方あるまい。


 俺は表情を変え、いつもの傲慢極まりない感じになる。


「入れ」


 言われたイゼベルがドアを開けて中に入った。


 そしたら、


「え?」


 ドアの方を見つめたら、イゼベル以外にも人がいる。

 

 俺の婚約者であるアリア、大聖女アンナ、大魔女のルイス、爆乳エルフのサフィナ、そしてビルジニア女帝まで。


 それに、ドアの外からリアナとサーラが顔をぴょこんと出しているような……


 一体なんだろう。


 こんなに大勢押しかけられると正直俺でもビビるわ。


 彼女らは悲壮感漂う表情で執務室の中に入る。


「い、イゼベル……これは一体……」


 視線でイゼベルに問うと、彼女は真面目な表情を俺に向けてくる。


「アークデビル様、そろそろいい頃合いだと思いまして」

「頃合い?」

「アークデビル様はこの世において最も強いお方です」

「あ、ああ。そうだな」

「それに、やがてこの世を支配するお方でもあります」

「……」

 

 一体何が言いたいんだ……


 俺が若干冷や汗をかいていたら、イゼベルは急にとろけ顔になり、頬を赤く染める。


「もう仕事もだいぶ落ち着いたことですし、をそろそろ始めても良いのではないかと」

「別の仕事……」


 聞き返すも、イゼベルは妖艶な表情をして、笑うだけだった。


 アンナは恥ずかしそうに自分の聖女服の裾をギュッと握り込んで、ルイスは悔しそうに唇を噛み締めるが、俺を見ては頬をピンクに染める。


 サフィナは暗い表情をしながらも、モジモジしていて、ビルジニアは口角を釣り上げて『ニッヒヒ』と小悪魔っぽく笑っていた。


 婚約者のアリアは頬を膨らませて俺を睨んでいる。


「……」


 ああ……


 これもしや







追記


おそらく次回で最後かな。


大事なシーンがあるので、お楽しみに


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