第53話 本物の力

「ぶち壊す?自分の死が近づいていることを知って気でも狂ったのか?」


 勇者は憐れむように俺を見つめるが、前髪によって隠れた瞳は、俺のことを嘲笑っている気がした。


 俺は息を大きく吸って吐いたあと、周りを見回す。


 勇者パーティー、イゼベル、魔族、人族……


 みんなそれぞれ自分の力を出し切って頑張っているんだ。


 俺を裏切った連中と堕落したパチンクズに天下を握らせないために。


 俺はダークソードを手にして、勇者を襲う。


「無駄だぞ!貴様は進化を遂げた俺様の足元にも及ばない!!」

「その言い方ウザ」


 やつのアクスカリバーと俺のダークソードがぶつかり合う。


 だが、


 俺はさっきみたいに押されない。


 むしろ、今度は俺の方が勇者を圧倒している。


「っ!なんだ!?おっ!」


 俺は勇者を部長だと思って、お腹に蹴りを入れた。


 そしたらやつはソニックブームによる轟音を轟かせながら、岩に突き刺さる。


「馬鹿な!!でも、無駄だ!!」


 やつは立ち上がって、俺の方へ斬撃を飛ばした。


 俺はそれらを避けてみせる。


「ふっ、そんなものでこのアークデビルを倒せるとでも思ったのか?」


 逆に俺が見下すような視線を向けると、案の定、やつはキレる。


「社畜風情がああ!!調子に乗るんじゃない!!貴様が抵抗しなければ、優しく殺してあげたのによ。残念だったな。こうなった上は、本気を見せねばならないな」


 言って、やつは光の翼を羽ばたかせて宙に浮かぶ。


 遠く離れたところから見ると、完全に究極の形に覚醒した勇者そのものだ。


 だが、俺は一つ気がついたのだ。


 たとえ、天使のような姿をして、他人に拝められるような見た目をしたとしても、


 そいつが善であるとは限らない。


 それが人っていう生き物だ。


 俺は今までそんな自分勝手な善に惑わされ続けた。


 社畜人生を続けたのも、破滅フラグを回避するために勇者を避けたのも、


 全部この自分勝手な他人の善によるものだ。


 逃げる必要はないんだ。


 俺より年上だろうが、部長は所詮ただの人間でいつか死ぬ。


 このキモデブパチンカス中年おっさんだって同じだ。


 そして、このゲームのことだが、


 俺はずっと疑問に思っていたのだ。


 勇者が善で魔王が悪であることを。


 やっと気持ちの整理がついた。


 そう。


 このストーリーを書いた作家も所詮ただの人間だ。


 そいつがそんな環境で育って、どんな思考と価値観を持っているかはしらん。


 一つ確かなことは、


 このゲームのストーリーはその作家の正義によって作られただけに過ぎない。


 だとしたら、導き出される答えはただ一つ。


 虚をついてやる。


 俺が悟った表情をしていると、


 勇者は


「今度こそ、貴様を確実に仕留めてやる!間も無く俺様に傅くはずの女たちに、俺の威厳を示すためにも、俺様の必殺技を披露する必要がある!!」


 言って、アクスカリバーを俺に向けて、


 気狂いのように唱える。


「くらえ!!ハーレムカリバー!!!!!」


 やつの真っ黒な剣からは光と暗黒のエネルギーが混じった禍々しい光線が放たれ、真っ直ぐ俺の方へ向かう。


 俺はダークソードをヤツに向けて小声で唱える。


「必殺・


 すると、俺の剣から真っ黒な光線が放たれて、勇者のハーレムカリバーとぶつかる。


「す、すごい……」

「こんなの初めて見るぜ……」


 いつしか戦闘を続けていた裏切りの魔族と国際連合軍は戦闘をやめ、俺たちの戦いを見て夢うつつ状態だ。


「必殺技が貴様の名前だと!?バカもやすみやすみ言え!こんな程度じゃ全然……え?なんだこの力は!?」

「ふっ、愚かなやつ」


 俺が鼻で笑っていたら、必殺技であるアークデビルは勇者のハーレムカリバーを貫いてゆく。


「バカな!こんなこと……あり得るわけがない!!どうして……」

「簡単な話さ」

「何?」

「このゲームと貴様が、俺を滅ぼすべき悪と断ずるなら、俺はその悪で貴様とゲームをぶっ殺す」

「そんなの……できるわけがねーだろ!強制力は絶対だ!貴様が逆らえるはずがない!!」

「まあ、確かにその通りかもしれないな。でもよ、」

 

 俺は魔王面して、ほくそ笑む。


 そして口を開いた。


があってもいいと思わないか?」

「バットエンド……っ!!!!!」

「どうやら気づいたようだな」


 そう。


 バッドエンドだ。


 この『ハッピーファンタジア』には勇者がハーレムを味わうハッピーエンド以外にも、バッドエンドも存在する。


 つまり、


 勇者がヒロインズたちと結ばれない結末があるということだ。


 ヤツには、そんな不幸な結末を辿って貰うぞ。


「なあ、おっさん」

「……」

「他人を犠牲にして上に立ちたいなら、お前も誰かの犠牲になる覚悟はしておかないとな」

「若造が調子にのるな……」

「それができないお前は、臆病者だ」

「うるせええ!!俺様は多くの魔族の生命エネルギーを吸収したぞ!エクスカリバーを覚醒させ、魔王を倒した時の勇者の時より今の俺様の方が断然強いんだ!!ひひひひ!!虚勢を張るのもいい加減にしろ!!貴様、表面上は冷静なふりをしているが、怯えているのバレバレだぞ!!」


 勇者は俺を指差して、ハーレムカリバーを強めるために、自分のアクスカリバーにより一層魔力を込める。


 だが、結果は変わらない。


「他人を踏みにじって手に入れた力なんか、所詮見てくれだけのハリボテだ!だが俺は違う……」


 言い終えて、俺は周りを見渡す。


 すると、


 俺を裏切った魔族を除く全てのものが、


 俺に燃え盛るほどの熱い視線を向けている。


 不覚にも頬が緩んでしまう。


 だが、


 俺は魔王だ。


 なので、俺は傲慢きわまりない面持ちで勇者を睨みながら宣言するのだ。


「俺の力は本物だああああああ!!!」


 言って俺は必殺技であるアークデビルを強める。


 すると、


 俺のアークデビルは勇者のハーレムセイバーを完全に貫き、


 勇者を飲み込んだ。


「そんな……バカな……俺のハーレム……」


 信じられないと言わんばかりに動揺する勇者だが、やがて、自分に残された時間がそう多くないことに気が付いたやつは体を震わせてアクスカリバーを落とし、


 両手で自分の髪の毛をむしる。


「クッソ!!!!俺の!!!!!!!」


 やつは俺のアークデビルによって


 この世から消えてしまった。




追記



 勇者は本当に死んだのでしょうか

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