第52話 魔王は悟る

 アクスカリバーとダークソード。

 

 ネーミングセンスからして勇者の方が格好いい。


 魔王にもかっちょいい設定とかつけて欲しかった。


 所詮やられ役の俺なんか……


 勇者の相手にはならない。


 それは、やつが無職パチンクズのおっさんだったとしてもだ。


「っ!!」

 

 俺はとんでもなく強くなった勇者のアクスカリバーの凄まじい力によって弾かれ、そのまま岩山に突き刺さってしまう。


「アークデビル様!!」

「「アークデビル!」」

「魔王さん!」


 イゼベルを含むヒロインズが俺の方に心配の視線を向けてくる。


 くっそ……


 せっかく今まで格好つけてきたっていうのに、こんな無様な姿を曝け出してしまうとは。


「いっひひひ!!アークデビル……貴様は進化を遂げた俺様に勝てることなんぞできない。大人しくお前の首を俺様に差し出すことだな。俺は早くハーレムが味わいたいんだ!!」


 興奮した様子の勇者は突き刺さっている俺に挑発じみた眼差しを向けてくる。


 俺はふっと鼻で笑って返事をする。


「俺様か……毎朝パチンコ店に並んでドパミンまみれの脳みそと虚な目でスロットを回すおっさんがなに言ってるんだ」

「あははは!確かにお前のいうとおり転生前の俺は国からもらったお金を全部パチンコで散財するキモデブおっさんだった。だが、今は違う。全てが俺のものだ……全ての女は俺のものだあああ!!」


 勇者は叫んだのち、剣を俺に振り、斬撃を飛ばす。


「っ!暗黒の壁!」


 俺は早速手を広げて、やつの斬撃を防ぐための壁を張った。


 だが、


 俺の壁はあっさり崩れ去り、やつが放った斬撃をもろに受けてしまった。


「あっ!」


 肉が抉り取られるほどの苦しみが俺の体に増し加わる。

  

 すると、やつは気狂いのように良がって、また斬撃を飛ばしてくる。


「しね!!死んで俺の踏み台となれ!!俺の夢の叶えるための生贄になるのだああ!!」

 

 数発、斬撃を受けた俺は、血反吐を吐き、あえなく地面に落ちてしまう。


「アークデビル様!!!!!!」


 イゼベルが目を潤ませて、俺に悲しい表情を向けるが、


「おっと、気を抜いたら、俺の拳の犠牲になるんだぞ!」

「っ!」


 ヘーゲルが邪魔をしてくる。


 他のヒロインズも、俺のあられもない姿を見て悔しそうに握り拳を作る。


 周辺で戦っている国際連合軍も呆気に取られていた。


「あははは!!これからは新たな魔王の時代がやってくるぞ!」

「裏切って大正解!やっぱり人生はタイミングだよな!」

「ゼン・ライト様万歳!!」

「あわよくば俺たちもおこぼれに預かることができるかもよ!」

「こんな弱々しいアークデビルなんか捨ててよかった!ざまみろ!あははは!!」


 ゾンビのような魔族たちは、勇者に敬意を表してから、俺に蔑むような視線を送ってきた。


「あははは!!かつてお前に従ったものたちが、今やお前を指差して嘲笑っているぞ!!」

 

 地面に降り立った勇者は、俺を見下す。


 ここで俺は死ぬのか。


 この勇者が文字通り普通の勇者だったら、文句はない。


 だが、

 

 こんな人間クズにやられるなんて……


 やつを倒せる必殺技は全然思いつかないし、こんな惨めな姿、きっと俺の味方さえも軽蔑するに違いない。


 そう思っていたら、


「アークデビル!!立ち上がれ!!」

「こんなキモいクズに国を乗っ取られてもいいのかよ!!」


 裏切りの魔族たちと戦闘中の国際連合軍らが、俺に言葉を投げかけてきた。


 そして、


「アークデビル様を助けるぞ!!」

「俺たちの魔王様だああ!!」

「タコヤキとヤキトリという美味しいものを恵んでくださった上に、ユウイチロウという都市をお作りになって、俺たちに豊かな生活を送らせるようにしてくださった魔王様だ。命をかけて守り抜けえええ!!」


「「「おおおおお!!」」」


 離れたところから、魔族たちが走ってくる。

  

 どうやら、俺を裏切ってない奴らもいるようだ。


 俺が口を半開きにしていたら、国際連合軍たちがまた口を開く。


「俺はアークデビル、お前のことを誤解していたんだ」

「戦争をやめて魔族と人族が平和に暮らせる世界を作る……あの似非勇者なんかには絶対思いつかないような発想だ」

「正直に言って、あの勇者ってちょっとウザかったよな」

「そう!自分が全て正しいと言わんばかりに振る舞ってよ。正直に言って嫌な感じだったよな」

「ああ。まるで、演技ド下手なやつが、無理やり主人公を演じるみたいな感じだったぜ!」

「アークデビル!絶対死なせないぜ!」

「この世の中が平和になったら、綺麗な魔族のお姉ちゃん紹介してくれよな!俺は 

あんなくそ勇者なんかじゃないから妻になってくれるお姉ちゃんは一人だけで事足りる!」

「あ、俺は妹属性だよな。な、アークデビル!俺にもかわいい女の子紹介よろしくな!」

「俺も」

「頼むぜ!アークデビル!あのくっそ勇者が魔王になったら、俺たちの夢は台無しだ!だから、ここは命を張ってやらせてもらうぞい!」



「「「オオオオオオ!!!!」」」



「お前ら……」


 ちくしょ……


 感動しちまうだろう……


 すると今度は俺を裏切ってない魔族らがまた口を開く。


「あはは!人族の野郎ども!!俺の妹はめっちゃかわいいぜ!最も勇敢な働きを見せた奴に紹介してやるさ!」

「ぼ、僕のお姉ちゃんと妹はその……サキュバスでありまして……」



「「「サキュバス!?!?!?」」」


 どうやらサキュバスという言葉を聞いて、人族は仰天したようだ。


「死に物狂いで頑張るぞおおお!!!」

「サキュバスのお姉ちゃんに、あんなことやこんなことを……これは血が騒ぐぜ!!」

「アークデビル!!お前にはやらないといけないことが山ほどある!だから絶対死ぬなあ!!!」

「早く立ち上がるんだ!アークデビル!」

「お前を必要としているものは数えきれないほど多いんだ!こんなところで、あのきしょい勇者なんかに負けるなんて、この俺がぜったい許さないいい!!」



「……」


 なんだよ。


 今、涙腺が崩壊寸前で、涙を我慢するのが至難の業だ。

 

「いっひひひ!!そんな無駄な希望を抱いても無駄だぞ。こいつさえ倒せば、男は種族関係なしに皆殺しにして、女だけ残して俺はここをハーレム天国にするつもりだ!!!」


 ったくなんだよ。


 せっかく感動しているのに、そんな気持ち悪い計画を俺に聞かせるな。


 ハーレム天国?


 貴様の相手をする女たちは地獄を味わうんだろう。


 俺は情けないやつだ。


 このきしょいおっさんの勢いに押されて、全てを諦めようと思っていた。


 最初から勇者には勝てないと決めつけたんだ。


 俺が社畜だった時、あのくそ部長や社長から理不尽なことをされても、自分は元々こういう人間だと言い聞かせて泣き寝入りしてきた。


 自分は社会人で、余計なことをすれば不利益を被る。

 

 ずっとそう思っていた。


 だけど、それは逃げだ。

 

 逃げるのは恥だけど役に立つとかいうけど、


 逃げた先に安らぎなど存在しない。


 俺は逃げ続けた挙句、過労死したのだ。


 いっそのこと、部長を死ぬ寸前まで殴りまくるべきだったな。


 俺は情けない奴だ。


 そんな俺でも、ここでは従ってくれるものがいる。


 応援してくれる人がいる。


 それだけでも、心が満たされる気分になる。


 満たされた心は、俺にを示した。


 それを確かめるべく、俺は体に力を入れて、立ち上がった。


「なかなかしぶとい奴だな。だが、貴様が立ち上がったとしても、結果に変わりはない。ストーリーが変わったとしても、俺様が貴様を倒すという事実はそのままだ。それが、この世界におけることわりでありルールなのだ。そんな当たり前のことに気が付かないなんて、哀れなやつ」


 俺を見下すような面持ちで言い終える勇者は、アクスカリバーを握る手により一層力を入れる。


 俺はやつの顔を見つめて、言葉を発した。


「だったら、そのことわりごとぶち壊してやる」




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