第51話 対決

 俺たちはイゼベルから話を聞いて、早速勇者の蛹がいる方へと向かった。


 ヒロインズたちは飛べないので、俺がルイスとアンナを、イゼベルがサフィナを抱えて飛んで行った。


 緊急事態とはいえ、俺と勇者のヒロインズたちの体が密着するなんて、なかなか新鮮である。


 やがて、蛹のある方へつくと、裏切った魔族どもと国際連合軍のたちがすでに戦闘を始めていた。


 あの魔族どもめ……まだ生きていたのか?


 てっきり勇者の進化のための餌食になったと思ったが……


 なんか、目の色がゾンビっぽいけど、勇者に吸い尽くされてしまったのか。


「奴らを倒せ!もし、私たちが負ければ、この世は地獄と化す!」


「「「は!」」」


 ビルジニア女帝を筆頭に、みんな熾烈な戦いを繰り広げている。


 ものすごい規模だ。


 まだ連合軍らが全部到着しているわけではないのに、荒野は連合軍と裏切った魔族らで埋め尽くされている。


「まずい……とりあえず裏切った連中の始末が急務だ」


 言って俺は要塞のてっぺんにアンナとルイスを降ろすと、イゼベルもサフィナを下ろした。


 アンナは杖を生じさせ、負傷を負っているものたちにヒールをかけ始める。


 すごいな。

  

 結構離れているはずだが、的確にヒールをかけてある。


 そして、


「ファイアーボール!」


 格好良い杖を生じさせたルイスは裏切った魔族らに向かって炎を放つ。

 

 ファイアーボールと聞くと基礎魔法という認識があるのだが、ルイスのものは想像を絶するほどの威力だ。


「「「ああああああ!!」」


 ファイアーボールを食らった魔族らが断末魔をあげて、魂の状態になり、勇者の蛹の方へと吸われてゆく。


 さすが勇者パーティー。


「……」


 サフィナも背中にかかっている弓の弦を引き、魔法によってできた矢で狙いを定める。


 サフィナの弓は、連合軍を殺そうとしている魔族の体に的確に刺さってしまう。


「あああ!!」

  

 三人ともちゃんとやってくれているようで何よりだ。


 安堵のため息が出た。


 それと同時に、


「そうはさせんぞ!おりゃあああ!!」


 ヘーゲルが飛んできて、勇者パーティーの三人に拳による攻撃を浴びせようとした。


 すると、


「させるか!!」


 俺の隣にいるイゼベルが暗黒の力によってできた鞭を使い、ヘーゲルのパンチを防いで見せる。


「っ、イゼベル……お前はまだあの魔王に仕えていたのか。哀れなやつだ」


 ゾンビのような見た目のヘーゲルは、イゼベルに見下す視線を向ける。


 イゼベルは、ヘーゲルに哀れな眼差しを向けて返答をした。


「哀れなやつはお前だ。あの変態鬼畜勇者に吸い尽くされて、身も心もボロボロなって……戦争をおやめになると宣伝なさったアークデビル様に楯突いた時から怪しいと思ったが、やはりお前は、その愚かさ故、滅びる運命だったんだな」


 イゼベルの態度が気に食わないのか、ヘーゲルは興奮したように、捲し立てる。


「俺は本物の悪に惹かれるタチでね、そういう意味ではアークデビルなんか偽物で裏切り者だあああ!!ぺっ!」


 ヘーゲルは突然俺の方を見つめて、唾を吐いた。

 

 おのれ……


 このアークデビルを侮辱するとは。


 俺は口を開く開く。


「ふっ、浅はかな奴め。ヘーゲル、貴様は一つ誤解をしているようだな」

「誤解?」


 聞き返すヘーゲルに、俺は傲慢極まりない表情をしてやつをバカにし腐ったようなように言う。


「貴様が思う悪という名の枠にこの俺を無理やりは嵌め込むことなんかできないぞ」

「どういう意味だ……」

「要するに、俺はお前の理性でもなければ、お前に夢を見せる存在でもない!!」

「なに!?」

「勝手に期待して、勝手に誤解して、勝手に裏切る。本当に自分勝手だな。ヘーゲル」

「……」


 そう。

 

 俺がブラック企業で働いた時もそうだ。

 

 部長の奴め、俺にとんでもない期待をして、俺がちょっとした失敗をしたら、マジギレして気狂いのように発狂したんだな。


 そんな奴らの特徴


「ふざけんなああああ!!!!!!!」


 図星言われるとキレる。


「俺はアークデビル。やがて世界を支配する男だ。貴様の浅ましい悪ごっこに付き合う余裕などない!!」

「死ねええええ!!!」


 ゾンビのヘーゲルは拳にありったけの魔力を込めて俺を打とうとする。


 が、


 やつの攻撃をイゼベルが鞭でまた防いで見せる。


「貴様の相手は、この私だ!」

「イゼベル……俺を邪魔するなああ!」

「ふ、アークデビル様の軍を取り仕切っていた時の強さはすっかり形を潜めたようだな」


 イゼベルとヘーゲルは空中で戦闘を始める。


 みんな忙しいな。


 俺だけ手が空いている。


 実はちょっと心配だ。


 勇者パーティーの三人にはゼン・ライトなんか簡単に倒せると公言していたが、実は全然できないんだよな。


 もしここで進化をした勇者が蛹から出てくるのであれば、正直に言って勝てる自信がない。


 むしろ負ける確率が非常に高い。


 頼むよ。


 その蛹に永遠に閉じこもってくれたまえ。


 と、心で願っていたら、


 蛹の中から声が聞こえた。


「やけに外が騒がしい……進化を遂げた俺の姿を見たい連中がそんなに多いのか?」


 言い終えると、蛹は破れ、中から人が出てきた。


 相変わらず長い髪だが、やつの背中からは光の翼が生えている。

 

 まるで、伝説に出てくる聖なる勇者そのものだが、


 やつは周辺を睥睨して大声で叫ぶ。


「男の方が圧倒的に多いだろおおおお!!!女をよこせ!女を!!!」

 

 それから勇者は高く飛び上がる。


 そして、


 俺たちのいる要塞のてっぺんへ視線を向けてきた。


「ほお……俺のヒロインズよ……圧倒的力を手に入れた俺の奴隷になるが良い……」

 

 勇者の言葉に、ヒロインズは唇を噛み締める。


「ライトくん、あなたにもう救いはない……」

「ライト……これがあんたの本当の姿ってわけね」

「ライトさん……光を帯びているのに……なぜ……」

 

 ヒロインズの言葉を聞いて、勇者は口角を吊り上げ、両手をエッチな感じに動かしながら飛んでくる。


「うひひひひひ!!!あのおっぱい!!全部俺のものおおお!!」


 胸を揉むつもりだろうか。


 まじでイカれていやがる。


 やばい。


 こうなったらなりふり構っていられね……

 

 俺は暗黒の剣ダークソードを手に握り、いやらしく手を動かしている勇者の方へ飛んだ。


「っ!貴様は……」

 

 俺の存在に気がついた勇者は真っ黒なアクスカリバーを召喚し、俺のダークソードを防ぐ。


 暗黒と暗黒とがぶつかり、衝撃波が発生した。


 圧倒的に不利な戦いが幕を開けたようだ。


 アークデビルとゼン・ライトが戦うという原作のストーリーからは


 どうやら逃れられないようだ。




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