第49話 勇者パーティーは無事に復活する

 呆気に取られた3人。


 しばし静寂が流れた。


 ハーレムは全部俺のもの!!!と言ってのける無職中年パチンクズと言ってることは似たり寄ったりな気がしなくもないが……


 俺が固唾を飲んでいると、


 イゼベルがいきなり下半身をモジモジしながら興奮気味に言う。

 

「しゅ、しゅごい……魔王すらも乗り越えた究極の存在……私、こんな素晴らしいお方にお仕えできて、いろいろ滾っちゃうわ……」


 イゼベルは、片手で自分の爆のつく乳を揉みしだきながらよがっている。


 おう……


 満足してくれたようで何よりである。


 だが、片方だけ満足しても、それは何にもならない。

  

 肝心なのは……


 俺がアンナたちをチラチラ見ていたら、アンナが呆れたようにため息をついて口を開く。


「全く……呆れたわ……でも、あなたの心はずっと清いまま……とても悔しいけれど、あなたがこの世の王になることで、世界は平和を取り戻すことになるんでしょうね」


 悔しそうに頬を膨らませ、唇を若干噛み締めるアンナの姿は、なぜかギャップがあってなかなか新鮮だ。


 ルイスはというと、


 俺の顔を見て、急にニヤニヤしながら挑発するように言葉を投げかける。


「あんたのそういう態度って、もしかして、照れ隠し?本当はめっちゃいいやつだけど、魔王だから本性を隠してるんじゃないの?」

「っ!」


 おい!


 このドSくそ魔女め!


 鋭すぎるだろ……


 ったく……


 せっかく格好つけようとしてたのによ。


 だが、俺はそんなんで折れやしないぞ。


「この生意気な小娘が……そんな俺を挑発するようなことを言うと、気が変わるぞ。あの勇者がこの世を支配してもいいと言うのか?」

「そんなのいい訳ないじゃん!!考えただけでも吐き気がするわ……うえ……」


 魔女のルイスは吐き気が催されたのか、ゲロを吐く仕草をする。


 すげ……


 勇者バリアすげぇ……


 あのドS魔女に口喧嘩で勝っちゃったぞ……


 魔王としての威厳も守られたぞ……


 俺が大変満足していると、アンナが真面目な顔で説明を始める。


「勇者に目醒める方法……それはよ」

「絆?」

「そう。天に二日無しという言葉があるように、この世に勇者は一人、そして勇者パーティーも一つしか存在しない」


 これはゲームでは登場しない設定だ。


 確かに勇者が二人いたり、勇者パーティーが二つ以上いたりした、ゲームのシナリオ的にたまったもんじゃないんだろうな。


「私の考えが正しければ、あなたが勇者になるためなら、私たちのパーティーに入らなければならないの。そのパーティーに入るためには、私たちは深い絆によって結ばれる必要があるってわけよ」


 アンナは言い終えると、ポケットから石を取り出した。

 

 エメラルド色の透き通った綺麗な石だ。


 これは……


 ゲームだと、勇者として選ばれたあのパチンクズが、このヒロインズと勇者パーティーを組むとき、なんか不思議な石みたいなものに手を翳していたんだ。


 その不思議な石……


 間違いない。


 あのエメラルド色の石だ。


「今、かざしたとしても、あなたは私たちに関する知識や思い出がないから、おそらく反応しないんでしょう」

……」


 俺は真面目な表情でその石を見つめる。


「すでに出来上がっているこの勇者パーティーにあなたが一員として加わるというのは、おそらく相当な時間がかかるんでしょう。しかし、これが一番早い方法だと思うわ。だから、これから私たちはここに泊まって、貴方といろんな思い出を作るわよ。ルイス、サフィナ、問題ないわよね?」

 

 アンナの問いに、ルイスは親指を食わせて、「あいつを倒すためなら……」と呟き、落ち込んでいるアンナも渋々頭を頷ける。


 イゼベルは……


「いろんな思い出……ゴクリ」


 なんか呟いて俺たちにエッチな視線を向けてくる。


 どうやら話が勝手に進んでいるようだが……


 俺は、


 口角を吊り上げた。


「アンナ、その石を持ってこい」

「え?なんで?無駄よ。翳したとしても、何も起きないわ」

「くどい。この俺が持ってこいって言ったはずだ」

「ん……」


 アンナが拗ねたように俺を睨んだ。


 だが、諦念めいた面持ちで、俺の玉座に来て俺のその石を差し出す。


「……」


 俺はなんの躊躇いもなく、そのエメラルド色の石に手を翳した。


 すると、


「え?光っている!?あり得ない……」

「ま、まじ!?」

「そ、そんな……ライトさんじゃないのにあんなに明るく……」


 ヒロインズの言葉通りに、勇者パーティーを証明するこの石は実に明るく光っている。


 絆……


 ふ、


 ふふふっ


 これが実はあるんだよな。


 転生前の俺がこいつらをどれだけ見てきたと思ってるんだ……


 くっそブラック企業で搾り取られながらも俺がしぶとく耐えられたのは、目の前にいるヒロインズたちを生きる糧にしたからなんだ。


 お前らの生い立ち、3サイズ、性感帯、体にホクロがいくつあるのかも知っているぜ……


 知り尽くしているぜ……


 俺は感動のあまりに目を瞑った。


 この感動をじっくり味わいたいところだが、


 ヒロインズたちが見ているぞ。


 俺は早速傲慢極まりない魔王面をしてもったいぶるように口を開く。


「この俺を誰だと思っているんだ……」


「「「……」」」


 ヒロインズたちは目を丸くして、戸惑いという感情がこもった視線を向けてくる。


 俺は、ナルシスト顔負けの前髪を掻き上げるポーズをとり、口を開く。


「この世の頂点に君臨する予定のアークデビルだ!!!!!!」



X X X



ゼン・ライトside


蛹の中



 裸姿の勇者は蛹の栄養を吸収しながら何かを呟く。


「オウ(oh)・マイ(my)・ドリーム(dream)……ハーレム!ハーレム!」


 勇者は長い前髪に隠れている頬を緩めて、口角を吊り上げる。


「おい、お前ら……」


 勇者の呼びかけに、犠牲になったはずの魔族たちの魂が返事をした。


「「「はい!魔王様……」」」


「俺はもうすぐ進化を遂げることになる。だから、外に出て、アークデビルに挨拶でもしてこいよ」


「「「了解しました!」」」

 

 返事を終えた魔族たち。


 彼らの魂が勇者の蛹から抜けてゆく。


 一人になった勇者。


「ひひひひ!俺のハーレムにくっさい魔族の男どもはいらねーんだ。俺の養分になるという役目を果たしたお前らはもう用済みだ」


 一旦切って、息を深く吸う彼は、宣言するように言い放つ。


「中年おっさん舐めんじゃねーぞ!!」


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