第48話

 想像を遥かに上回るアンナの言葉に俺は目を丸くした。


「お前は一体何を言っているんだ。気でも違ったか!?」


 もし、『手を組んで勇者を倒しましょう』とだけいうのなら、俺はアンナの提案を受け入れるかもしれない。


 けど、


 俺が勇者になるだと?


 こんなぶっ飛んだ展開、どう対処すればいいか全然わからない。


 ずっと魔王らしく振舞ってきたが、今回ばかりは戸惑いの顔にならざるを得ない。

 

 そしたら、アンナが説明を始めた。


「あなたの暗黒の力……私の聖の力とは相容れないものだけれど、私は可能性を見出したの。あなたの暗黒の力から」

「何をだ……」

「あなたの暗黒の力の根底にあるもの……それは……平和を望む純粋な心よ」

「は?」

「確かにあなたは世界を征服すると言っていたけれど、あなたはライトくんのように自分勝手な正義と欲望に基づいて行動をしていない」

「何を……この俺、アークデビルはこの世の頂点に君臨し、好き勝手……」


 魔王としての威厳を示そうとしたが、アンナに遮られてしまった。


「アークデビル、あなたは世界の破滅を望む?今、ライトくんが望むようなことを、あたなは支持する?」

「っ!」


 返事をすることはできなかった。


 虚栄を張ったり、勿体ぶることはしても、


 美少女の前で、嘘をつくほど俺は堕落してないんだ。


 俺が目を逸らしていると、アンナが安堵したように大きすぎる胸を撫で下ろした。


「ふう……きっとライトくんなら、平然と嘘をついたんでしょうね」


 アンナが感想を漏らしたら、隣にいた魔女ルイスがフォローする。


「ああ。絶対そうだわ!あのリサイクルもできない変態クソは絶対そうするに違いない。キンタマをもぎとるべきだった」


 おい、ルイス……


 その言葉はよせ……


 俺のキンタマまで痛くなるぞ。


 顔を顰めていると、アンナがまた口を開く。


「で、あなたは勇者として覚醒をしなければならない。それができたら、きっとハーレム魔のライトくんにも勝てるはずよ」

「勇者に覚醒だと?」

「ええ……ライト君が魔王になるのなら、新たな勇者が現れるのは理にかなっているわ」

「その新たな勇者が俺ってわけか」

「その通りよ。あなたは勇者になる器がある。聖女である私が保証するから。間違いない。今回だけは……」

「……」

「あなたがやらないと、世界は滅んでしまうの……ライトくんの言いなりになるから」


 いって、アンナは悔しそうに唇を噛み締めと、ルイスは握り拳を作り、怒りを募らせている。


 サフィナはというと、相変わらず悲しい表情だ。


 そこへ疑問を投げかけてくる者がいる。


「それは困る!」


 イゼベルだ。


 イゼベルは握り拳を作り、彼女らに抗議するように言う。


「魔王様が勇者になったら、このデビルニアはどうなるんだ!?」

「……それは」

「デビルニアは魔王様あってこそ成り立つ。あなたの言葉は、デビルニアがあの前髪だけクソ長いキモい勇者のものになることを黙認するように聞こえるのだが」

「……」


 イゼベルの鋭い目つきにアンナは顔を俯かせる。

 

 ルイスも唇を噛み締め、悔しがっているが反論はできない。


 イゼベルの意見は最もだ。


 彼女はデビルニア王国に愛着がある。


 デビルニアの民を見捨てるなんてことは絶対しない女だ。


 これは完全に拮抗状態だ。


 こんなやばい状況、一体どう打破すればいいのか。


 考えろ。


 考えるんだ。


 イゼベルとアンナたちを納得させる妙案を!


 勇者


 魔王


 勇者


 魔王

 

 勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王勇者魔王……


 ああ!!


 なんで俺は勇者と魔王を両天秤にかけているんだ?


 頭が狂ってしまいそうだ。


 この終わりなきメビウスの輪のような論争に終止符を打ちたい。


 破滅フラグをへし折るのがこんなに至難の技だとは思わなかった。


 こうなったら……


 俺は


 


「ふっ!勇者とか魔王とか実にくだらない」


 普段よりウザさ100倍の魔王面で俺はみんなに言った。


「くだらない?一体何を言っているのかしら?この世界の生と死を決める極めて重要な問題なの!」


 アンナが半分キレた様子で、俺に言い放つ。


 だが、俺は微動だにせずびくともせず、淡々と言う。


「勇者というのは一つの方便に過ぎない。魔王も同じだ」

「え?」


 俺の後ろに控えているイゼベルは目を丸くして口を半開きにする。


 俺は足を組んで、サイドテーブルにあるワインを飲み干した。


「ぷはあああ!!実にうまい」


 俺の行動が理解できないと言わんばかりに、みんなは俺を睨んできた。


 最大級の虚勢、いくぞい。


 俺は口を開く。


「この俺、アークデビルは、やがてこの世の頂点に君臨せしもの。魔王としてでなく、勇者としてでもない。としてだああああああああ!!だから、俺が魔王だろうが、勇者だろうが関係なく、デビルニアは俺のものだし、他の国々も全部俺のものだ!!!わかったかあ!!!わかったなら、早く勇者に覚醒する方法をこの俺に教えるがいい」



「「「……」」」


 俺の叫び声を聞いて、イゼベル、アンナ、ルイス、サフィナは目を丸くしてしばしの間、俺を見つめ続ける。


 魂が抜けたような表情で。







追記


さあ、どうなるんでしょうか!



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